一章 4 包茎中学生の逆襲!
「おい! お前、俺に何を言ったか、分かってんだろうな?」
溝口を含めて十人。同じ学校のガキが二人、見覚えのない男子が六人、女子が二人。
どうやら、お友達をありったけ連れてきたらしい。
【包茎中学生、溝口くん♡子どもに優しい俺様が剥いてあげるから、今すぐ学校へ来なさい。何人連れてきても構わんぞ笑】
先ほど、送ったラインを思い出したのか、溝口の顔がみるみる赤くなった。
「お前、今日は生きて——」
皆まで聞かず、溝口に飛び込み、鼻っ面へ左拳を叩き込んだ。鼻血が吹き出す。
「ふん、ペラペラ喋ってから」
近くにいた一番ガタイのよい男のミゾオチに、右の足刀を入れる。
次に、そこそこ頑張って不良を気取っている派手髪のガキの顎を右拳でかすめる。
膝がガクっと落ちて、地面に倒れた。
「一発かよっ!」
誰かがそう言ったのが聞こえた。
はっはっはっ。こんな子どもを倒すなんて、元A級暗殺者の俺様にはイージーすぎるからな。
しかし、小さすぎるな……
この身体は。
「俺様が用があるのは、このアンちゃんだけだけど、どうする?まだやる?」
そう言うと、五人の中学生と二人の女子は、後退りして逃げて行ってしまった。
うずくまる溝口と、倒したどこかの中学生二人。
「お前……こんなことして」
部屋にあったナイフを取り出し、溝口の目の前に突きつける。
「おお、子どもはバカだからな。すぐ忘れちまう」
「……なにを」
「そこまでバカだと、わからねーか?」
「お前……」
「おまえ?」
「いや……」
溝口は目を落とした。
その瞬間、本の後ろに隠してあったナイフをクルッと回し、溝口の目の端を、ナイフの切っ先でチョンと突つく。
「うわっやめろ!」
溝口は、逃げようとするが、髪の毛を掴み、再びナイフを目に突きつけた。
「お前……明日が来るとまだ思っているの?」
ガタガタと溝口の身体が震えだした。
「身体はお利口さんだな、包茎中学生くん」
頸動脈にナイフを移動させ、溝口の背後へ回った。
「立て……」
溝口は動かない。
ナイフをゆっくり頸動脈に当て、引いてゆく。
「まて、わかった、獅子丸!」
「獅子丸?」
「違う……しし……まる……さん」
「お仕置きの時間だ」
ニッコリと俺様は、溝口に顔を見せ「立てっ!」 と、号令のように言った。
咄嗟に立ち上がる溝口。
「人目があると面倒だな」
辺りを見回すとちょうどよい林を学校の外へ見つけた。溝口の肩を掴み、林の方へ歩かせるのが、スマートに事を進められるのだ。
◇
「掘れ」
「……え?」
「四メートルくらいでいい」
溝口の顔から血の気が引いてゆく。
「こ、殺すのか?」
俺様は笑った。
「澪が自殺しても、その台詞を言えたか?」
溝口は何も答えられない。
ナイフを頸動脈へ当てる。
「殺さないで下さい!」
「掘らねぇなら、俺様がやってやるよ?」
刃先に力を込めた瞬間。
溝口は白目を剥き、その場へ崩れ落ちた。
◇
プシュッ
ジョボジョボジョボジョボ
「うわっ!冷てえ、なんだ」
溝口が目を覚ました。
「これは……」
「コーラだ」
「未成年に酒は飲ませられねぇからな」
ぼんやりとしている溝口に近づき、聞いた。
「これからお前がやることは」
「えっ……獅子丸さんを獅子丸さんと呼ぶ」
ジ〜
「えっ……今日のことは誰にも喋らない」
ジ——
「えっ……」
再びナイフを溝口の目に向ける。
「ひっ」
「えって言うな。鬱陶しい、右眼がポトッて取れるかもしれんぞ?」
「すいません、すいません」
溝口の肩が、小刻みに震え始めた。
「……澪、澪さんにもう関わらない……ですか」
「おお、やっと理解したか」
「じゃあ金田一少年でも見にお家に帰りなさい」
「今やってねっ……って、いいんですか?」
「そうか、まだ俺様と遊びたいのか、じゃあ次は——」
「いえいえいえ、帰ります。帰らせていただきます」
そう言うと、溝口は走って帰っていった。
◇
キュッ、キュッ――
体育館にバッシュの擦れる音が響いている。
ダムッ、ダムッ。
ボールを突く音と、審判の笛がトイレの中まで聞こえてきた。
今日は日曜日、他校とバスケ部の練習試合があり、朝から学校へ来ていた。
「獅子丸っ」
突然、バスケ仲間が肩を組んで来た。
「うわっ、トイレ中にやめてよ」
「聞いたぜ〜」
「……なにをだよ」
「やったらしいな、溝口」
「溝口くんに?なにを」
「おっと、とぼけても無駄無駄!」
「溝口も今、阪本の前で土下座してる」
「はっ?澪の?」
教室に急いで戻ると、溝口が本当に土下座していた。
「本当に申し訳ございませんでした!」
溝口が床へ額を擦りつける。
教室中が静まり返っていた。
「もう二度と……阪本さんには関わりません。本当に、申し訳ありませんでした」
澪は何が起きているのか分からず、困惑したまま立ち尽くしている。
「えっ……あの……」
周囲の生徒たちも顔を見合わせ、小声でざわめき始めた。
「マジで謝ってる……」
「昨日、獅子丸がやったって噂、やっぱマジ?」
「嘘だろ。あの溝口が土下座とか」
獅子丸は教室の入口で立ち尽くした。
(……何だこれ)
昨日の記憶はない。
あるのは、いつも通り家へ帰って寝た記憶だけだ。
それなのに、教室中の視線が自分へ集まっている。
澪が、ゆっくりとこちらを向いた。
「獅子丸くん……」
「……ん?」
「もしかして……昨日のことって」
獅子丸は小さく首を振る。
「僕じゃない——」
「えっ?」
「本当に知らないんだ!」
その一言に、教室の空気がまたざわついた。
「は? 何言ってんだ」
「昨日、溝口を半殺しにしたって聞いたぞ」
「知らねぇわけないだろ」
獅子丸は困ったように頭を掻く。
「だから、本当に知らないんだって」
「獅子丸さんは、関係ない」
「変な噂はやめてくれ」
「俺は、阪本さんに本当に悪いと思っただけなんだ」
「いや、さんって……」
誰かがそう言っている。
澪は獅子丸を見つめたまま、何も言えなかった。
◇
『テン、テレン、テン、テン——』
朝のアラームが鳴っている。
朝日は上り、心地よい光が挿し込んでいた。
五月一日、七時丁度……か。
少しため息をつき、スマホを見ると、【溝口の謎】と、題したグループラインへの誘導があり、憶測で語られた噂が繰り広げられていた。
【僕じゃない】
どうやらコイツもグループに入って反論していたらしい。
【鉄筋屋の勝くん、一撃だったらしいよ】
あいつ、中学生じゃなかったのか。
【一緒にいた二人の女の子もヤッちゃったんだって!3Pよ?ウラヤマ!】
おいおい……
【俺が聞いたのは、森で溝口とヤッたって聞いたぞ】
【えー?BL?草】
おいおいおい!
なぜ、俺様が色キ○ガイ発展になるのだ。
クールナイス・ガイな事件をこんな感じでまとめやがって——流石中学生だな。
コイツが否定するのもわからんでもないな……ん?コイツ?
ナイフが俺様を呼んでいる。
本棚に隠したナイフを見ると、一枚の紙切れが挟まっていた。
「おお、早速俺様へお礼の手紙が入っているぞ」
紙切れを開くとなぐり書きで五文字だけしか書かれていなかった。
【お前は誰だ】
◇
「問四の2a+3b−5a+b を計算しなさいですが……」
「なー獅子丸」
「なんだ!」
「なんで、お前ここにいるの?」
「俺様が受けたい授業が、ここだからだ」
「はぁ〜どんだけキャラ変だよ」
パイナップルは肩を竦めて呆れていた。
「やんっ♡」
隣にいたギャル女が、小さく声をあげる。
「おまっ、なにやってんだ!」
「ん?」
「優希の尻、尻!」
「そこにあったからだ」
青白の髪に、着崩した制服。派手そうな見た目とは裏腹に、人懐っこそうな笑顔を浮かべた今どきのギャルだった。
「嫌いじゃないけどな、強い男の子」
「ええっ?コイツを?」
パイナップルが目を丸くし驚いている。
「獅子丸の噂、E組まで届いているよぉー」
「そうか!では始めるか」
おもむろにズボンのジッパーへ手を掛けた。
「おいっ、バカ!やめろって、授業中だぜ?」
「そうだ。俺様は尻を触りに来たのではない」
「なら、何にしに来たんだよ」
呆れた様子でパイナップルがこっちを見ている。
「——澪についてだ」
「澪?阪本のことか」
「ああ、澪は昔からここにいたのか?」
「いや、確か小三だっけな、俺とはクラスが違ったけど転校してきたんだ、あいつ」
(小三?あれから五年後くらいか……)
「なぜ、虐められていた」
「それはな。中一の時の担任が悪かったんだよ」
「担任?」
「いやお前も知ってんだろ?阪本ともう一人忘れたけど誰かが、ガラス割ったとかなんとかで、担任に詰められてたんだ」
「で、その時、担任が言ったらしい」
『死刑囚の娘は流石だなって』
「アタシも知ってる!」
優希が手を上げて割って入ってきた。
「そのもう一人が、元々澪っちと仲の良かった水樹が言いふらしたんだよ、あれ」
「なぜだ?」
「さぁ、でもガラス割って児相とかに一時、連れてかれたりしたからさ〜、マジ恨みってやつ?」
「逆恨みだ」
「そうそう、それ!」
「その担任とは誰だ?」
「ええ?ああ、芝岡って体育のヤツだろ」
パイナップルは少し首を傾げ答えた。
(芝岡?体育の……)




