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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
腕に書かれたWxY
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二章 17 真・山本


 ◇


 【教師棒倒し】


『さあ! 今年から教師騎馬戦に代わって新設されました、教師棒倒しのお時間でーす!』


「安全性を考慮した結果が棒倒しって、誰が決めたのよ!」


 美月先生が赤組側の陣地で頭を抱えている。


『ルールは簡単! 赤白に分かれた先生方が、自軍の棒を守りつつ、相手の棒を先に倒した方が勝ち!』


『なお、殴る、蹴る、関節技、故意の投げ技は禁止! 日頃の恨みは節度を持って晴らしましょう!』


「最後の一文いる!?」


 生徒席から笑いが起こった。


 校庭の中央には、赤と白の長い棒が一本ずつ立てられている。


 赤組には美月先生、学年主任、それに見覚えのある教師たち。


 白組には教頭を中心に、体育教師やら数学教師やらが並んでいた。


「美月先生ー! 教頭だけはやれー!」


「主任ー! 去年の宿題まだ恨んでるぞー!」


「体育教師つえーぞ! 逃げろー!」


 完全に生徒側は祭りだった。


「……これ、教師の競技だよな?」


「そうだけど?」


 豪樹は当たり前のように答えた。


 その時、男子席の一角から別の声が上がった。


「山本ー!」


「山本先生、今年も頼むぞー!」


「覚醒しろ山本ぉぉぉ!」


「誰だ、山本って?」


「獅子丸、知らねぇの?」

 豪樹が信じられないものを見るような顔をした。


「あそこにいる用務員の山本先生。去年の教師騎馬戦で六騎潰した伝説の男」


「用務員だろ!?」


「普段はな」


「普段はってなんだよ!」


 赤組の棒の近くに、五十代くらいの小柄な男が立っていた。 生徒たちから名前を呼ばれるたび、困ったように頭を下げている。


「いやぁ、今年は棒倒しですからねぇ。私は後ろで守ってますよ」


「山本ー! 今年も伝説作れー!」


「無理ですよぉ」


 どう見ても、その辺で花壇の手入れをしていそうなオッサンだ。


『それでは先生方、位置についてくださーいっ!』


 美月先生がジャージの袖をまくった。


「ちょっとだけ本気出そうかな」


「先生、さっきまでやりたくないって言ってなかった?」


「始まるなら話は別」


(怖ぇよ)


 向こうでは教頭が腕を組み、白組の教師たちへ何やら細かく指示を出している。


「美月先生、教頭がめっちゃ作戦立ててるぞ」


「ふーん」


 美月先生は教頭を見て、にこっと笑った。


「じゃあ最初にあの人から潰そっか」


「教師の台詞じゃねぇ!」


 パンッ!


『スタートォォォ!』


「「「うおおおおおおお!!」」」


 笛と同時に、教師たちが一斉に走り出した。


 体育教師が先頭で赤組へ突っ込み、その後ろから白組の教師たちが雪崩れ込む。


「美月先生! 右!」


「分かってる!」


 小柄な美月先生は正面からぶつからず、乱戦の横をすり抜けていった。


「速っ!」


「先生、あんな動けたのかよ!」


 教頭が慌てて前へ出る。


「三日月先生! お待ちなさい!」


「体育祭で待つヤツいる!?」


 その横を抜け、美月先生が白組の棒へ向かう。


「三日月先生!」


 一人の男の教師が叫んだ。


「ずっと前から好きでしたぁぁぁ!」


「はあああああ!?」


 美月先生の足が止まった。

 なぜか校庭まで静まり返る。


「今!?」


「今しか言えないと思って!」


「なんで棒倒しで告白すんのよ!」


「「「うおおおおおおお!!」」」


 今日一番の歓声が上がった。


『まさかの公開告白だぁー! 教師棒倒し、早くも競技の趣旨が崩壊しております!』


「美月先生ー! 返事はー!」

 水樹が両手を口元へ当てて叫ぶ。


「あとで!!」

 真っ赤になった美月先生が再び走り出した。


『おっと! その間に白組が赤組の棒へ殺到しているー!』


 五人ほどの教師が赤組の棒へ一気に取りつき、棒がゆっくりと傾き始めた。


「赤組やべぇぞ!」


「守れー!」


「山本ー!」


「山本先生ぇぇぇ!」


 赤組の棒のそばには、山本先生が一人。


「いやいや、私一人じゃ無理ですよぉ」


 困ったように笑っていたが、白組の体育教師が赤い棒へ両腕を回した瞬間、その笑顔が消えた。


「…………」


 ゆっくりと腰を落とし、首を左右へ傾ける。


 コキッ――コキッ――。


「あっ」


 豪樹が立ち上がった。


「入った」


「何が?」


「山本先生、入ったぞ!」


 去年を知る生徒たちも一斉に立ち上がる。


「逃げろぉぉぉぉぉ!!」


「何からだよ!」


『出たぁぁぁ! 昨年度教師騎馬戦MVP! 用務員・山本先生が今年も覚醒したぁぁぁ!』


「「「山本! 山本! 山本!」」」


 山本先生が白組の教師たちへ向かって歩き出した。


「……は?」


 おかしい。

 右にいたと思った山本先生が、次には左にいる。

 その間にも白組の教師が一人、また一人と赤い棒から引き剥がされていく。


「ちょっ、待っ――」


「山本先生が分身したぁぁぁ!」


「するわけねぇだろ!」


 俺にも何をやっているのか分からない。

 ただ、山本先生が通った後には白組の教師たちが尻餅をついていた。


「なんだあのオッサン……」


「だから言ったろ! 去年は騎馬を六騎潰したんだよ!」


「用務員だろ!?」


「普段はな!」


 最後に残った体育教師が赤い棒へしがみつきながら振り返る。

 山本先生と目が合った。


「…………」


「…………」


 体育教師が自分から棒を離した。


「なんで諦めたぁぁぁ!」


『赤組防衛成功ー! 山本先生、たった一人で守り切ったぁぁぁ!』


「「「山本! 山本! 山本!」」」


 ところが、山本先生は白組の陣地をじっと見ていた。


「……まさか」


 次の瞬間、砂埃を上げて白組へ走り出す。


「待て待て待て! 守備だろ!」


『山本先生、そのまま白組陣地へ向かったぁぁぁ!』


「速ぇぇぇぇぇ!」


 走っている山本先生の姿が左右にブレて、何人もいるように見える。


「増えてる! さっきより増えてるぞ!」


「だから残像だって!」


「残像でもおかしいだろ!」


「山本先生! 守備! 守備です!」


 学年主任が叫んでいるが、山本先生は止まらない。


「山本ー!」


「行けぇぇぇぇ!」


「今年も伝説作れぇぇぇ!」


 白組の教師たちが慌てて棒の前へ集まった。


「来るぞ!」


「固まれ!」


「絶対通すな!」


 十人近い教師が壁を作ったが、山本先生はそのまま突っ込んだ。


「無茶だろ!」


「「「うわぁぁぁぁぁ!」」」


「は?」


 何が起きた?


 教師たちが左右へ散ったと思ったら、山本先生はもう白い棒の前にいる。


「瞬間移動しただろ、今!」


「走ったんだよ!」


「走ってねぇよ!」


『山本先生、白組本陣へ到達ぅぅぅぅ!』


 山本先生が白い棒へ両手を添えた。


「まさか……一人で倒す気か?」


「山本ぉぉぉぉぉ!」


 全校生徒から山本コールが巻き起こる。


「「「「山本! 山本! 山本!」」」」


『傾いた! 傾いたぁぁぁ!』


「嘘だろ!?」


 白い棒がゆっくりと傾いていく。


「山本ぉぉぉぉぉ!」


『白組の棒が――倒れたぁぁぁぁぁぁ!!』


「「「「うおおおおおおおおお!!」」」」


 地響きのような歓声が校庭を包んだ。


 倒れた白い棒の横で、山本先生が静かに両腕を組んでいる。


「……山本先生」


 豪樹が呟いた。


「今年も勝っちまった……」


「何者なんだよ、あの用務員」


 山本先生は何も答えず、空を見上げた。


「……あれ?」


 ぐらりと身体が傾き、そのまま膝から崩れ落ちる。


「山本ぉぉぉぉぉぉぉ!!」


「……来年は出場禁止にしろよ」

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