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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
腕に書かれたWxY
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二章 12 歪んだ天秤


「畜生っ! 畜生めぇっ! 重いんだよ! この疫病神がっ!」


(……誰だ)


 身体が大きく上下に揺れている。


 誰かの肩に担がれているらしい。腹へ食い込む骨の硬さと、歩くたびに頭へ響く振動だけが、ぼやけた意識の中でもはっきり伝わってきた。


「コイツだ! コイツが全部の元凶なんだ! このクソガキが!」


 ドサッ――。


「ぐっ……」


 背中から地面へ叩きつけられ、肺の空気が一気に押し出された。


 息を吸おうとしても喉が引きつる。土と湿った枯れ葉の匂いが、鼻の奥へまとわりついた。


「ああ、くそ……まだ先かよ」


 髪の毛を掴まれる。

 力の入らない身体が引きずり起こされ、再び肩へ担ぎ上げられた。


(頭が……割れそうだ)


 目を開けても焦点が合わない。


 木々の影と夜空が、黒い染みのように混ざり合っている。頭の奥で脈が打つたび、殴られた場所から鈍い痛みが広がった。


「この辺でいいか……もういいだろ」


 ドサッ。


 今度は横向きに投げ出された。

 頬へ土が触れ、小石が脇腹へ食い込む。


「お前が芝岡や三日月(みかずく)と関わんなきゃ今まで通り平和に生きていけたんだ!」


 カチャカチャ……


(ベルトの……音……ズボンを下ろした?)


 荒い息遣いが近くを行き来する。

 怒鳴っているのに、声の端が震えていた。


「芝岡を切れば、それで終わるはずだった! 今までだってそうだったんだ! 問題を起こしたヤツを一人追い出せば、学校は元に戻った!」


 カチャカチャ カチャカチャ カチャカチャ


 薄っすらと光が見える……スマホか……?

 その手前に男が暗闇にしゃがみ小刻みに右側が動いている。


「それなのに三日月が記者会見なんかに出やがって……マスコミまで押しかけてきて……!」


「俺は何もしてない! 何も知らなかった! そういうことにすれば、全部終わるはずだったんだ!」


「おかげで俺は職を失った!今まで築いてきたものを全部失ったんだぞ!」


(校長か……)


 声が分かった。

 薄く目を開ける。


 暗闇の中に、小さな四角い光が浮かんでいた。スマホの画面だ。


 校長は、その明かりの前にしゃがみ込んでいる。


 画面を何度も左指でなぞっては止め、右肩が小刻みに動いている。


「俺はな……澪さえ学校から消せれば、それで終わりにしてやるつもりだったんだ」


(……澪?)


「養護施設へ直接手を出せば、さすがに俺だと疑われる。だから優希を使った。あの娘なら、澪も警戒しないからな」


 霞んでいた意識が、少しずつ輪郭を取り戻していく。


 夏休みに一度だけ、優希から澪へ届いた連絡。

 あの時は、ただの誘いだと思っていた。


「せっかく薬も渡して、言う通りにさせたのに……あのバカ、澪を連れて来ることもできねぇクズだっ!」


 校長はスマホへ顔を近づけた。


「お前たちの仲間だと分かった時は、運が向いてきたと思ったよ。優希を使えば澪を呼び出せる。澪が消えれば、お前も苦しむ」


 画面の光が、男の頬を青白く照らしている。


「俺は職を失った。だからお前も友達を失えばいい。公平だろうが!」


 校長は突然立ち上がり、俺の前まで駆け寄ってきた。


「それなのに、あのヤンキーまで来やがった! お前までここへ来て死にやがった! 何もかも、何もかも予定どおりにいかない!」


 荒い呼吸が顔へかかる。

 校長は俺を死体だと思っている?


 自分が人を殺したと信じ込んでいるのに、怯えるどころか、異様な興奮に突き動かされていた。


「だが、これで終わりだ……」


 声だけが急に静かになった。


「お前らは……バカなガキ女どもは……」

「ガキ女も復讐も……お前と……あの……ヤンキーが……うっ……こなければっ!」


 息が荒くなった校長が俺の前に駆け寄ってきて立つと、俺の頬に生暖かい液体が流れ落ちる感覚が伝わった。


「ハァ……ハァ……」


「……」


「まあ……芝岡がやっていた澪……それを俺の玩具にしたら復讐は終えてやる……ハァハァ」


(なるほどね……)


 澪の名を聞いた瞬間から、痛みの向こう側で頭が冷えていく。


 こいつは失敗を悔いているんじゃない。

 まだ続ける気だ……


「お前のような死体は、冬眠前で腹を空かせた熊がきれ〜に片付けてくれるっ」


 校長はしばらく肩で呼吸をしていたが、やがて俺から離れた。


 地面に置いていたスマホを拾い上げ、もう片方の手で長い物を持ち上げる。

 木の部分と金属部分が、月明かりを受けて一瞬だけ鈍く光った。


(……猟銃)


 校長はずれたベルトを締め直した。


 ――シュッ。


「……うっ」


(背後からナイフを奪い、流れるような軌道で男の喉元を撫で上げる!)

(血飛沫が舞う頃には、その影はすでに数歩先へと歩みを進めている……)


(今回は上出来だ……)


 校長は何が起きたのか分からない顔で立ち尽くし、それから両手で喉元を押さえた。


「いいこと聞いたぜ、ジジイ」


 俺は立ち上がり、校長を見下ろした。


「ここら辺は、クマさんが片付けてくれるんだろ?」


 声にならない息だけを漏らしながら、校長顔は地面へ崩れ落ちた。


「こ……こんな……こと……」


 校長の手から滑り落ちたスマホが、枯れ葉の上で光っている。

 

 そこには学生くらいの歳の少女が、悲しそうな目をして小さな声をあげている動画が流れていた……

 

 ◇


「なんで……お前が?」


「お前じゃないでしょ〜? なんて呼ぶの〜?」


 


 

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