二章 8 持つだけで伝わる、ふわふわ革命
「お前なぁ……」
「お前じゃないイチゴちゃん!」
「うるさいのだ!俺様のエクスカリバーでお前の口を塞いじまうぞ」
「え〜、……する〜?」
イチゴは にっこり ほほえんだ。
「ああ、いや、そんな遊び人な感じじゃ なくてな」
(調子狂うな……)
「家に居づらさ満点のイチゴちゃんは、大好きな獅子丸くんの家で幸せに暮らしましたとさ!」
「なんだ、その丸投げフラグは!」
「でも私の話じゃ、そのおっさんが誰なのかわかんないんでしょ?」
「……まぁ、それは」
(単なるバカではないか……)
「でも、私はおっさんの顔を覚えているし、大型免許も持ってる!」
「はぁお前いくつだよ?」
「十八才」
そう言うと財布の中から免許を差し出してきた。
「大型……二輪?ってバイクじゃねーか!」
「さっきお母様に頼んでロードサービスでバイクも持ってきてもらっているよん!」
「はぁ?」
◇
一時間ほどなにも会話が進まずやきもきしていると、ウチにレッカー車がゆっくり入ってきた。
荷台から一台のバイクが降ろされ、作業員は手慣れた様子でスタンドを立てる。
「ありがとう〜!」
イチゴは満面の笑みで手を振っていた。
「あらあら、イチゴちゃんのオートバイはイチゴちゃんらしくて可愛らしいわねぇ」
「おっ!こりゃこりゃ、懐かしいなぁ、父さんが若い頃結構、走ってたよぉ」
「パパさん、ママさんもありがとー!大好き」
(なんだ!その満更でもない面は……)
丸みを帯びたレトロなボディ。
ピンク色にメタリックが入った車体にメッキミラー。
どこか外国映画から飛び出してきたような、おしゃれなスクーターだった。
(なんでコイツの親は常に受動態なんだ……)
「そして……」
「どしたの?獅子丸」
「ベスパって!!」
「原チャで大型免許いらねーじゃねーか!」
「えー原チャじゃないよ?安藤さんだし」
「安藤さん?……ああ、ワンツーファイブか」
「百二十キロくらい出るし」
「はぁ?お前何者なんだよ?」
「家なき子でーす!不束者ですがよろしくぅ〜」
◇
結局イチゴのペースで終始翻弄され、まともな情報は掴めなかった。
夕方にはコイツの親が
『何日も住むなら親御さんに説明はしないと、おじさん捕まっちゃうよ〜』
ということで、イチゴの親と話をして
『どこにいるかわからないよりはマシです』
などと言って了承を取り付けてしまった。
さらにイチゴの親を家に呼び、お互い意気投合して飯まで食っていった。
そしてイチゴの親は、玄関で何度も頭を下げ、コイツの母親は「また遊びに来てねぇ」と呑気に最後まで手を振っていた。
(どんだけ人ッ垂らしなんだ……あのゆるふわ親父と母親は……)
しかし【獅子丸】については別だ。
俺達の秘密をバラすわけにはいかないし、部屋でボイスメモに残すことも含めて、やり取りは隠す必要がある。
(とりあえず重要事項は、メールを自分に送って消させるか……)
「ねえ」
優希のことも不可解な点はいくつもあった。
正確なことはわからないが、一度も帰っていないなら本来大事件だ。
「ねぇってば!」
しかも学校も騒いでいる様子がない……
空白に誰もが気づいているけど、誰もあえて埋めない。 そんな気がする……
闇の世界では……当たり前の日常がここに……
ぷにんっ
柔らかい感触が顔に押しつけられた。
「!?——ってお前なに脱いでんだ」
「だって、ずーーーっと無視すんだもん」
「部屋だってもらったろ?そっち行っとけよ」
「やだねー」
(とりあえず……今日は無理そうだなぁ……)
スマホを開き、作ったメールを自分に送信した。
◇
九月四日 月曜日
(柔らかい……)
スマホから五時のアラームが鳴っている。
隣から静かな寝息だけが聞こえてくる。
(なぜ、朝のスマホは目を閉じて探すのだろう……)
ぷにんっ
右手が何か柔らかいものを押していた。
うん、柔らかいぞ。そして想定もできる。
また龍馬さんだな!
布団が胸元までずり落ちている。
そう!裸の……女の子……?
「——は?」
(いーっ!?なっ、なぜイチゴさんが!?)
慌ててスマホを開くと、ボイスメモはない!
「!?」
しかし普段あまりないメールが来ていた。
開いてみると『至急確認』とかなり真面目なタイトルがあった。
内容の一つは『優希さんの件』
(優希さん?)
その後も『行方不明について』『警察の本来の動き』など、かなりの長文で僕にもわかりやすく記載されていた。
「龍馬さんは……これは事件と?……」
そう小さく呟いた僕は、イチゴさんを起こさないように、そっとベッドを抜け出して、朝のルーティンのために外に出た。
◇
放課後 B組裁判?
僕は三脚並べられた学校のイスの中央に座らされていた。
両脇には、溝口くんと、要くん。
「……なにこれ?」
後ろを振り向くと、並べられた椅子に豪樹くんと澪、そして綺羅羅さんがスマホを向けて座っている。
豪樹くんは腕を組み、何度も大きく頷いている。
(はぁ〜?豪樹くん、なぜぇ?)
綺羅羅さんはスマホを横向きに構え、満足そうに画角を調整していた。
「裁判長、検察から証人喚問?をしたいです」
(裁判長?なにやってんの?尊くん……それっぽい顔してるし……)
「被告人質問ですか?どうぞ!やっちゃって」
(『やっちゃって』って言った?)
「えっと……尊くんと水樹ちゃん?なにしてんの?」
「被告人は静粛に!」
尊くんは胸を張り、どこから持ってきたのか定規を木槌代わりに机へ打ちつけた。
「被告、前へ」
僕は両脇の二人に腕を掴まれ、前に置いてある机の前に立たされた。
尊くんは机をなぜかまだ、バンバン叩いている……
「あなたは一昨日の夕方頃、一人の女性とホテルに入った!間違いないですね?」
「……」
「裁判長!コイツは黙秘しました!死刑です!」
「検察官、感情的にならずに」
水樹ちゃんが死刑を求刑すると、尊くんはニヤニヤしながら水樹さんをなだめた。
「はい……すいません、取り乱しました」
「では、次の質問に移ります」
「あのぉ……水樹さん?」
水樹ちゃんは制服のスカートをぎゅっと握り締めたまま、視線を合わせようとしない。
「したの?」
水樹は下を向き小さな声で言った。
「えっ?なに?」
「だからしたの?」
質問の意味が分からない。
けれど、水樹ちゃんの声だけは、いつもの強気な彼女とは違っていた。
「……なっなにを……ですか」
「しっましたー!」
教室の扉が勢いよく開いた。
ヒラヒラしたスカートの裾を揺らしながら、イチゴさんは教室へ顔を出すと、満面の笑みで勢いよく手を挙げた。
「「「えええっ……誰……っすか……」」」
僕だけが、その光景に頭を抱えた。




