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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
腕に書かれたWxY
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二章 6恋という字は下半身に心

 九月二日 土曜日


 朝起きると、珍しく龍馬さんからボイスメモが入っていた。


 優希さんが高確率で家に帰っていない。

 豪樹くんを監視しろ。


 コレだけだった。

(なんでこんなザックリとした報告……)


 ◇


 ビルの壁際には地雷メイクの少女が何人も座り込み、そのすぐ横では若い男が胃液を吐いていた。

 制服姿の少年がコンビニ袋を枕に眠り、救急隊員が意識の朦朧とした少女へ声を掛けている。

 それでも通行人は誰一人立ち止まらない。


「すげえな、テレビで見るよりカオスだな」

 豪樹くんは、観光に来たかのように、楽しそうに辺りを見回していた。


「ここで、ホントに優希さんを尊くんは見たのかな?」


「そうなんだろ?誰かに聞いたらわかんのかな?」


「どうだろぉ……」


 僕たちが住む町とは違い、人の流れに飲み込まれそうだった。


「ねー君たち、買いに来たの?」

人混みの中から、僕たちよりかなり年上に見える男が進路を塞いだ。視線は豪樹くんではなく、最初から僕へ向いている。


「は?なにを?」

 豪樹くんは明らかに不機嫌な態度で男に凄んで答えた。


「いや、違うならいいんだよ、じゃな」

 男は立ち去ると言いながら、まだ僕たちの反応を待っていた。

 

「いえ、そういうのが手にはいるって聞いて、電車でここまで来たんですけど」


「おい!獅子丸!」

 僕は、凄んでいる豪樹くんの背中のシャツを引いた。


「実は僕たち初めてで……アレ買いたいのですが、どうしたら良いですか」


 男は人差し指を立てた。

「一だけど?」


「高いなぁ」


「知ってるねー、じゃあ、アッチに行こうか」

 男はニコリと笑い、建物の隙間へ手招きした。奥まで十数メートル。行き止まりではなく、反対側の通りへ抜けられる。

 僕は豪樹くんの位置を確かめてから、男の後を追った。


「おい……獅子丸どういうつもりだ」

 豪樹くんがコッソリ耳元で僕に言ったが、黙って男についていった。


「少年、となりのアンちゃんより普通に見えるけど、商売は君のほうが良さそうだな」


「初めてなんですよ。どう使えばいいんですか?」


「ワンシート五千」


「じゃあそれを二つ」


「ははっ君、多分中坊だろ?」


「わりと親のスネかじってるタイプですよ」


「いいね。友達になれそうだ」


 財布から一万円札を抜くと、男は僕の手から奪うように受け取った。代わりに渡されたのは、銀色のシートが二枚。どちらにも白い錠剤が十粒ずつ並んでいる。


「お兄さん、これの使い方は?」


「本気で言ってんのか?」

 男は路地裏の外を指さした。

「これがほしい可哀想な女の子が沢山いるさ」


 そういうと男は僕の背中をポンッと叩き、

「今日は思い出作ってきな」と言い去った。


「おいおい、獅子丸?そんな得体の知れねぇヤク買いに来たのか?正気かよ?」

 

 豪樹くんは、結構な勢いで僕に言った。


「君はこの人だらけの中で、どうやって優希さんを探すの?」

 大通りへ目を向けても、制服も黒い服も同じような顔も、いくらでも人波の中へ紛れている。

 

「いや……それは……」


「目的があるなら、そこに入らないと」


「あ……うん、すまん」


(前の僕じゃこんなこと……)


「でも、獅子丸よ?これどうすんの?」


「普通に調べようよ」

 シートの裏に印字された薬品名をスマホへ打ち込んだ。


 ◇


「なるほどなぁ〜こんなのが流行ってんだな?」


「うん……なんかヤバいね、これ」

「豪樹くんは優希の画像とかないの?」


「んっ?ああ、なんか何人かで撮った画像はあったような……あった」


「まずは聞いてみようよ、このサイレースって薬が欲しい女の子たちに」


 僕たちは片っ端から声を掛けて回った。

地雷メイクの少女、路上に座り込む少年、コンビニ前でたむろする若者――誰に画像を見せても、返ってくるのは首を横に振る仕草だけだった。


 優希さんに繋がる情報は、一つも見つからない。

途中、いかにもな男たちに何度か声を掛けられたが、豪樹くんの鋭い目つきを見ると、「悪い悪い」と笑って離れていく。それ以上揉めることはなかった。


 だが、日が傾き始めると空気が変わった。

制服姿の若者に混じって、仕事帰りらしいスーツ姿の男たちが目立ち始める。少女へ耳打ちする男、腕を掴んで人気のない方へ歩いていく男、路地裏では小声で何かを交わす影も見えた。

昼間の雑踏とは違う。 この街は、夜になるほど別の顔を見せ始めていた。


「やっぱ尊の見間違いじゃね?」


「うん、そうかもね……」


「ねー君達?人探してんの」

 後ろから女の人の声がして振り返った。

 赤いアイシャドウに大きな涙袋。黒とピンクの服を着た、小柄な女の子だった。


(みんな同じようなメイクだから、さっき声をかけた人かどうか分かんないよー)


「あっ……うん、この人を探してるんだ」

 

 少女は豪樹くんのスマホ画面を覗き込み、小さく目を細めた。

「優希ちゃん?」


「お前、知ってんのか!?どこにいる?」

 豪樹くんが少女の肩を掴んだ瞬間、その小さな身体が押される力に吸い込まれるように向きを変え、豪樹くんの懐へ背中から入り込んだ。

 次の瞬間、大柄な身体が宙を返り、路上へ転がっていた。


「急に触られたらビックリしちゃうなぁ」


(僕と同じくらいの背しかないのに、大柄な豪樹くんを投げた?)


 豪樹くんはすぐに立ち上がったが「いやぁ、悪かった」と少女へ頭を下げた。


「俺達の学校の仲間なんだけど、八月頃から連絡とれなくなったんだ、知っているなら教えてほしい」


「投げても、頭は悪くて草」


「あっいや、どうすれば教えてくれる?」

 豪樹くんがそう言うと、少女は僕の方を振り返り指差した。


「この子に教えとくよ」


「いや、俺達」


「ほら大男、これ以上は野暮だよ」


 少女は豪樹くんを追い払うように手を振ると、僕の前に来た。


「君、名前は?」


「獅子丸」


「竹輪が好物?」


「多分一万回くらいそのイジりは聞いてますね」


「ははっそりゃ失敬!私はイチゴ、じゃあシャワーでも行く?」


「シャワー?」


「ほら行こ!」

 振り返ることもなく歩き出す。黒とピンクの服は人混みに紛れそうで紛れない。


 ◇


 【HOTEL 蚊羅】


(……なんで教室があるんだ)


 イチゴさんが『ここ、面白そー』と選んだ部屋は、教室のような部屋だった。

 いつも見ている机と椅子と黒板。

 習字が貼ってあるが

 【本番】

 【自慢の息子】

 など、変な言葉が並んでいた。



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