二章 5犯人はコントローラーぶん投げるタイプだ!
「失踪?」
「そうね、私たち教師も真相は知らないのよ」
少し熱気を帯びた屋上前の階段で、美月は扇子でゆっくり扇いだ。
「いつからいなくなったんだ?」
「んーなんともだけど、盆前にいた先生の所に教育委員会の人らが来たらしくてねー、それで、もしかしてみたいな噂が広まったのよ」
「——ちなみに優希のことは」
「E組の優希さん?それは連絡入ってないなぁ」
(関わりは……流石にないか)
「わかった、サンキュー美月」
「……ほほう、それだけですかぁ」
「ん?なんか他にあったか?」
腕を組み、すべてお見通しと言いたげな笑みを浮かべた。
「夏休み前からなが〜い、お休みとって、お楽しみだったと報告がありましたが」
「お楽しみ?俺様は楽しくなかったぞ」
「澪さん水樹さんがお泊まりに来たとも、私の耳には入っていますが〜真相は、どうなんでしょうねぇ〜」
「なっ、なんで知ってんだ!」
「あ・た・り・前でしょ!あんた達の担任なんだから」
「ああ!なるほどね!」
手をポンと拳で叩き、感心したように振る舞い——
「でわでわ」
(逃げるが勝ちでござる!)
「ちよっ、待て!獅子丸!私、呼ばれてないっ!」
◇
放課後
まだ暑い夏が残っている中、澪をはじめ、仲間内全員がB組の教室に集まった。
七月から始めた俺様のブートキャンプ。その二ヶ月の間にあった、みんなの話を要約すると――
仲間内で最後に優希から連絡があったのは、八月四日の澪。
話も特に気になるようなものではなく、施設の外出範囲を聞かれただけだった。
美月から得られた確かな情報は少なかったが、屋上で話したあと調べてもらった限りでは、優希の母親は教育委員会のお偉いさんというのは、間違いないだろう。
尊の話では、八月初旬、最近家出した子どもたちが集まる場所で優希を見かけたらしい。
近づくと、気づかないふりをしてどこかへ行ってしまったという。
「そりゃ尊が繁華街で出没したら、変質者だと思って女の子は逃げるだろ」
「そこは否定しないけど、なんか慌てた様子があったから、ちょっと気になってはいたんだ」
「……慌てた様子?」
「ん〜主観だけど『ヤバッ』みたいなリアクションあるでしょ?そんな感じがしたんだよね」
「でも、変じゃない?優希ちゃんの性格見てると、尊を繁華街で見かけて、逃げるかな?」
(澪の言うことはもっともだな……)
「ん〜休み明けに学校フけるのは、問題ないとしても、誰も連絡取ってねぇってのはなぁ」
頭の中で整理しながら、首を突っ込む事なのか、放っとくべき事なのかを考えていた。
「ん、じゃあ行けばよくね?優希んち」
「おお、豪樹、奇跡的にごもっともな答え出したな」
「奇跡的ってなぁ」
「ん?でもそれ気づくのになぜ、豪樹は優希んちに行かない?」
「いやっ、獅子丸が言った通りあそこの親、教育委員会の母ちゃんと、父ちゃんは弁護士だぜ?俺が単独で行ったら通報されんだろ?普通」
「そうだな、犯人が家に来たらまず通報だな」
「とりあえず……みんなで行かね?心配でしたーみたいな?」
水樹の一言でまとまり、優希の家に行くことが決まった。
◇
住宅街の一角にある『桜木』の表札がある黒い家が優希の家だった。
「弁護士」と「教育委員会幹部」。
そんな肩書きを、そのまま家にしたような一軒家だった。
「ん、じゃインターフォン押すか」
「豪樹、お前はきっと気づいたら墓の中に行くタイプだな」
「墓って!押して聞くだけだろ?」
俺はため息をついて豪樹を無視した。
「尊、遠隔のマイク持ってる?」
「ああ、持ってる」
「それを水樹につけて……それから澪はここの親とメインで話せ」
「うん」
「あと里子は、スマホを出して撮らずに持っておくだけでニコニコして立ってろ」
「綺羅羅ね!でも撮らないの?」
「そう、いるだけで充分、あと俺様と豪樹は窓を見る、豪樹は家の右側、俺様は門扉の正面から二階の窓を見る。尊は隣家との間にある勝手口を見てろ」
「なんで優希の事聞くだけなのに、そんなことすんだ?」
豪樹は呆れた顔をしている。
「念のためと、これだけ人数がいるんだったら、普通そうするだろ」
「普通、しねーよ!」
「いいから行くぞ」
◇
ピンポーン
『はいっ』
(出るのが早い)
「あの、優希さんと同じ学年の阪本澪です。優希さんと連絡が取れなかったので、心配で来ました」
『……』
(詰まった?)
『ちょっと待ってね。今出ますから』
(カーテンに揺れはない)
尊を見ると、首を振っている。
出てきたのは母親で、優希とはあまり似ていなかった。いかにも『教育関係者です』といった、当たり障りのない格好をしている。歳は四十代半ばくらいだろう。
『優希のお友達? わざわざ来てくれてありがとね』
お決まりの教員のような笑顔を口元に浮かべ、門扉へ寄ってきた。
「あらっ、あなたは」
優希の母親は里子へ目を向けた。
「こんにちは! ユーチューバーの綺羅羅でーす」
「知ってる。あなたのお陰で私も忙しいからね」
優希の母親はいたずらっ子のような笑顔で答えた。
「それで、優希さんは大丈夫ですか? 連絡が取れなくて」
「ごめんねー。優希、今コロナウイルスにかかっちゃってねー」
「!?」
「治ったら、連絡させるように伝えておきますね」
「あっ、そうでしたか……では、優希ちゃんにお大事にと伝えてください」
「は〜い。阪本さんね? 伝えておきますね」
◇
「なんだー、優希のやつ、コロナならそう連絡くらいしろっつー話だよな?」
帰り道、豪樹が頭の後ろで腕を組みながら言った。
「いやいやいや、あのオバちゃん嘘っしょ?」
「はぁ? うそぉ?優希の親が?」
「なんでコロナにかかっている娘の親が、マスクもしないで出てくんのよ」
(水樹、気づいたか)
「しかも澪が話したのって八月頭っしょ? どんだけ重症なんだっつー話!」
「おっ!? また、あるあるネタになるかな?」
「いや、今回は優希ちゃんだから、動画はちょっと……」
澪は里子の袖を少し引っ張った。




