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死刑囚、中ニになる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
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3/7

一章 2 アレクサってなんだ!

「獅子丸ちゃんどうする?お昼どこかで食べてく?」

 車の助手席にいる女が、後部座席に座っている俺様に聞いてくる。


「そうだねぇ、母さん。給食も食べてないだろうからね」

 運転をしている男が、満面の笑みで、そう言った。


 あの後、教師共から殴られたりするのかと思ったが、からかっていたガキの内容と、児童相談所の職員も来たが、とりあえず様子見ということで、学校からは一度帰されることになった。

 最近は教師だけじゃなく、色々な大人が動く時代なのか。


「それより、ブック・オフに寄ってくれ」

「ご飯食べないの?」

「欲しいものがある」

「そうなの?じゃあお父さん。ブック・オフに行きましょう」

「そうだね。そうするのがいいね」


 なんだこの恐らく俺様の親と思われる奴らは。

「なんで暴力振るったんだ!」

 など、言われる気配もない。

 迎えに来るなり、教師や、からかっていたガキの親に一通り謝っただけで、車に乗った瞬間ニコニコしてやがる。

「ブック・オフで何が欲しいの、獅子丸ちゃん」

「情報だ」

「情報?なんの」

「はは、母さん、獅子丸も年頃なんだ、色々あるんだろう」

「それもそうね」

 緩さ全開のこの親は、そのままブック・オフへ向かった。


 ◇

『本を売〜るなら、ブック・オフ♪』

 と、何分かに一度流れてくる。

 あの頃、こんなの流れていたか?

 


「十三万六千円になります」

「おう、買ってくれ」

 レジのカウンターには、転スラ、リゼロ、東京リベンジャーズのBlu-ray BOXが山のように積まれていた。

「獅子丸ちゃん!高いわよ。どうすんの?こんなの」

「いいじゃないか。こんなんでストレス発散できるなら、異世界?タイムリープ?……こんなのに興味持ったんだな?獅子丸」

「ああ、とりあえず払ってくれ」

「わかった、じゃあこのカードで」


 拘置所でもこんな小説やら漫画があったが、飛び飛びでよくわからなかった。

 概ねどんなものかは理解しているが、なにかヒントがあるかもしれん。手っ取り早いのは、アニメで知るほうが早い。そもそもそんなことが、現実にあるのかも、疑わしい。


 ◇

 

 家はデカく玄関だけで実家より遥かに広かった。

 勝手にカーテンが開き、変な箱が喋り出す。

 「アレクサです」

 「誰だ!?」

 十年ぶち込まれていると、こんなからくり屋敷のような家に住んでいるやつも出てくるのか。

 

「俺様の部屋はどこだ」

「ええ?」

「ど忘れしてな」

「二階の右奥じゃない、やーね。獅子丸ちゃんてば」


 こいつの親なら疑いもせず、そうだろう。

 短時間でなんとなく感覚でわかる俺様は、やはり天才である。


「お昼、外で食べなかったからUberで済ませましょ、獅子丸ちゃんも選んで」

「はっ?」

「ほら」

 でかい、あいふぉん?

 こんなにデカいのか、今のあいふぉんは……


「いや、適当に頼んでおいてくれ」

「自分で選ばないの?」

「ああ、俺様は今からこれを見る」

 そう言い、袋に入ったブルーレイを指した。

「あらそう。じゃあ頼んでおきますね」


 ◇

 

 中々の広さだな。

 自室と言われたコイツの部屋は、十二畳くらいだろうか。

 綺麗に整頓され、勉強机が一つ、デカい本棚、デカいベッド、デカいテレビがあり、小さな本棚には、参考書や教科書らしきものが、並べられていた。


 しかし違和感がある。

 俺様は探索を開始しなければならない。

 うん。十三歳。きっとあるはずだ。そう。

 ベッドの下に秘密があるに違いない。

 そっとベッドの下を覗く。

「バカな!?」

 ベッドの下まで埃一つなく掃除されているだと!

 しかし俺様の目は誤魔化せん。

 ベッドの下へ手を差し込み、手前の隠しスペースを探る。

「十三歳だぞ!なにもないはずが……!?」

 これは……

 重みを感じる鉄?のような物を取り出した。


 嫌な予感しかしない。

 クラフト紙をほどくと、黒く細い短剣が出てきた。

 

「……フェアバーン・サイクス・ファイティングナイフか……」

手に取った瞬間、重心で分かる。観賞用じゃない。

「なんで十三歳のガキが、こんな物を持っている」

「しかも研ぎ方が素人じゃない——」


「獅子丸ちゃーん、来たわよぉ」

 突然ドアがバーンと開き、コイツの母親が入ってきた。

「のわっ」

 咄嗟にナイフをベッドの下に蹴飛ばし、滑らせた。

「あら〜獅子丸ちゃん、なにを隠したのぉ」

「……いや」

「年頃ね。お父さんには内緒にしてあげる」

「ああ」

「じゃあこれ机に置いておくわね、お寿司」

「あ、ありがとう、ございました」

「ございました?」

「いや、なんでもない、早く出ていけ」

「はいはい。ではごゆっくり」

 ニコニコして出ていったな、含んだ顔をしやがって。

「寿司か……ん?」

 なんだこの量は、三?いや四人前はあるぞ。

 デカい寿司桶に大量の寿司が詰められている。

 出所祝いか?そういえば、粗末なものしか食っていなかったからな。

 俺様の大好きなイクラもある。

「!?」

「————美味い!」

 麻薬か?脳内のなにかが大騒ぎしているのが、わかる。

「刑務所から出たら……アレを食って——」

 こんな話しか聞かなかった十年間。

 判決が死刑となった俺様がとっくに諦めていた美味い飯を食うことがあるとは……

 夢中で寿司を食べまくり、あっと言う間に四人前ほどある寿司を平らげた。

 

「そうか、コイツは食べ盛りか」


 ◇

 

 俺様は調査を開始する必要がある。

 今やるべきことは、寿司を食うことではないのだ。

 買ってもらったブルーレイをドサドサと出し、順番をきにせず色々突っ込んで見た。

 

 転生……頭の中で『レベルアップです』と喋る女の声も聞こえない。

「はぁぁぁぁ」

 左手を壁に向けてまぶたを閉じて念を込めた。

 火とか出ない。


 「……なにをしとるのだ。俺様は」

 

 タイムリープのようなきっかけについては、まだわからない。

 そもそもタイムリープではなく、()()()だ。

 

 あと、死に戻り。

 よし、とりあえず死んでみるか。

「……んっ?」

 そう。一回しか試せんことは、しないのが大人だ。


 そんなことをしていると、急に眠気が襲ってきた。

 時計を見ると午前0時を回ろうとしていた。


 ◇


 眩しさを感じる。フワフワとした布団の温もり、柔らかいマットレス。畳に惹かれたせんべい布団の固さではない。

 やはり走馬灯ではなかったのか。俺様は生き戻りしたような気分で身体を起こした。

 時計の針は五時半を指している。

 拘置所もこれくらいの時間に目を覚ましていたな。


「ん?Tシャツにハーフパンツ?いつ俺様は着替えたのだ?」

 確か、制服のまま寝てしまったような気がする。

 ブルーレイは綺麗に片付けられている。

 ……ナイフは?

 そう思いベッドの下を調べた。

 滑らせたままであるはずのナイフはなくなり、ベッドの下の手前のスペースに隠してあったナイフはなくなっていた。


 午前六時少し前に一階へ降りてゆくと、まだ誰も起きていなかった。

 リビングにある巨大なテレビをつけると、CMが流れている。

 柔らかい本革のソファに腰をかけテレビを見ていると、ニュースキャスターが挨拶をしている。


『おはようございます。四月二十九日、土曜日です。大型連休初日の日本列島は広い範囲で晴れとなる見込みです。それでは最初のニュースです』


「なっ、なに 四月二十九日、土曜日?」

 思わず立ち上がってしまった。

 俺様は育ちざかりの子どもになったら、一日半も寝ていたことになるぞ。

 なんだ、この身体は。


 バタンッ

 ギシッギシッ

 誰かが、ドアを開け階段を降りる音が聞こえた。

 コイツの両親のどちらかであろう。

 

「あんた、朝っぱらからうるさいよ」

 

 聞いたことのない声。

 振り向くと、ピンク色の髪の毛をし、下着の女が立っていた。

「誰だ。お前は」

「誰って!?獅子丸大丈夫?」

「破廉恥極まりない格好をしているお前に言われることではない。誘っているのか?」

「はぁ?どこの世界に中坊の弟を誘うねぇちゃんがいるんだよ」

「弟?コイツには姉がいるのか?」

「んもう。話にならない、ママァ?ママァァァ!」


 コイツは姉もいたのか。しかし昨日部屋を物色したが、アルバムなどなかった。

 家族なのに写真もないのか?


 コイツの姉に呼ばれて、また二階から降りてきた。

「どうしたの?愛羅(あいら)ちゃん」

「あ・い・ら……だと?」

「そうよ、愛羅ちゃん。で、どしたの?」

「コイツ、朝からなんか変なこと言ってんのよ」

「変なこと?」

「誘っているのかーとか、マジウザい」

「そうなのよ、突然アニメのブルーレイ買ったり……」

 

「ちょっと待て」

 そう言うと二人ともこちらを見ている。

「話が見えないのだ。まず俺は何時間、寝ていた」

「もう一つは、何故姉が気合の入った名前で、俺様が獅子丸なのだ」


 コイツの母親はきょとんとしている。

「名前は言ってなかったっけ?」

 

「いや……」

 とりあえずそう答えておいた。

 

「二人目になったら、面倒になっちゃってー」

「なんとなくよ。お正月の後だったし」

 と、ニッコリと笑顔で答えやがった。

 

「なっ、なんとなくだと……」


「あと何時間?獅子丸ちゃんが寝ていたって言われても……」

「知らないわよ、昨日、学校から帰るなり、普通に寝てたでしょ?あんた」

 下着の姉は、そういうと、冷蔵庫のほうへ向かった。

 

「それも覚えていないの?やっぱ病院連れて行ったほうがよかったかしらねぇ」

「うん。変よ。コイツ」


 なんか疑われているな。そりゃそうだろう。こいつらは、死刑囚の俺様が、突然お前らの家族になったなど知らないのだ。

 詮索は気をつけないと、ことを大きくしかねないぞ。

 しかし、昨日、俺様が学校へ行った……?

 

 

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