二章 2そう!プロテインだよな!
七月八日 土曜日
「流石に……連絡しないとダメかもなぁ」
ラインを見るとパパとママから合わせて六千件近く入っているようだった。
全て無視していたが、これ以上無視し続けると別荘に来てしまうかも。
「あっママ?」
『やっと繋がったね〜ちょっとみんなー獅子丸ちゃんよー』
『ホントか、やっとか!』
『良かったな〜自衛隊に相談しようとしてたもんなぁ』
(はっ?自衛隊?)
『ちょっと〜みんな顔みたいって言うからビデオ通話に変えて〜』
(なんか……ハズいな……)
そう思いながらも、ビデオ通話に切り替えた。
「うわぁっ!」
画面にはジイジとバァバが二人ずつと、端にパパとママがニコニコして映っていた。
「全員……勢揃いだねぇ」
『そうよ?心配でみんな来てくれたのよ』
『獅子丸、腹減ってないか?よければマグロあるから送るか?』
「いやぁ大丈夫、送ってもらったら来た意味がないなら」
『そうか?ジイジはさみしいぞぉ?』
「いや、夏休み終わったら帰るからその時に、ねっ」
(やっぱ、電話しといて良かった〜)
電話が終わると洗濯機の終わりの合図がなった。
洋服を干して、ナイフの入った段ボールを外に持っていった。
落ちていた木の板に的を書いたものに、ナイフを投げる。
全く当たらない。
ブックマークしてある動画を見直して、何度も投げ続けた。
ひとしきり投げると、片付けて、マップを開き自作で作った竿を持って沢に向かう。
途中虫を捕まえては餌にして、魚を捕まえにいった。
(今はイノシシは無理でもいつかは僕も……)
◇
八月十日 木曜日
あれから一ヶ月とちょっとが経った。
シャワーを浴びたあと鏡を見ると、髪の毛も雑に伸びて、ちょっとワイルドになったかも?
と、ちょっと嬉しくなっていた。
八月に入ると別荘の利用する家族も現れるようになり、事情を話すと、野菜などもらえたりすることもあり、今までなんとも思っていなかった野菜の甘みも感じられたことに感動した。
ピンポーン
(ん?ここに人が来る?どこかの別荘の人かな?)
ドアを開けると澪と水樹さんだった。
「あんた、なんで上半身裸?なにやってんのよ?」
水樹さんが呆れた顔をして言ってきた。
「えっ、ごめん、別荘の利用者が来たと思って」
「なら、尚更でしょ?のぞき穴見ないの?」
「ここ、お年寄りの方多いから良いかな〜って」
「獅子丸くん、あの、これ……」
澪が恥ずかしそうに袋を手渡してきた。
「ん?なにこれ?」
「なにってあんたが持って来いって言ったんでしょ」
水樹さんはそう言って「はい、こっちも」と渡してきた
。
米とパスタが袋の中に大量に入っていて、後ろにいた車へ水樹さんが戻ると重そうに段ボールを持ってきていた。
「ちょっ!獅子丸が持って来いって言ったんだから自分で持っのが普通っしょ?」
「ああ、ごめん、ごめん」
僕も駆け寄って段ボールを見ると、ビールだった。
(犯人が今ハッキリした……)
一通り持ってきてもらったものを部屋に運び入れて、澪と水樹さんにお礼をして僕は聞いた。
「今日は、これを届けるために?」
「なんでそうなんのよ!獅子丸が泊まりに来いって言うからアタシら来たんでしょ?」
そんな話をしていると水樹さん達の後ろから声が聞こえた。
「水樹ちゃーん、パパも挨拶とかしたほうが——」
「うっせー!ジジイ!早く帰れ」
「うっうん……じゃあ気をつけてね、水樹ちゃん」
(うわ〜水樹さんのパパ、かわいそー)
◇
炊飯器は静かに湯気を吐き続け、部屋いっぱいに甘い香りが広がっていた。
一か月ぶりのお米。
ただそれだけなのに、炊飯器から立ち上る湯気が宝物みたいに見えてしまう。
蓋が開く瞬間を想像するだけで腹が鳴り、気付けば僕はカウンター席へ座ったまま、じっと炊飯器を眺め続けていた。
「ふふっ獅子丸くん、ずっと炊飯器見てる」
澪は笑いながら僕を見てそう言った。
「いやね?ひと月ぶりのお米ってヤバいよ?」
「可愛いギャルが二人も来てるのに、どういう界隈の人になっちゃったの?獅子丸?」
水樹さんはビールを飲みながら……
「ビール!?」
「水樹、ビール飲むの?」
「えー自分飲むのにおせっきょーすかー」
顔を少し赤めてニヤニヤ言ってきた。
「あー……ね。そうでしたよねぇ」
僕は炊飯器へ視線を戻した。
(僕は飲まないのにー)
龍馬さんの声が頭に浮かぶ。
「そういえば澪、よく五日も外泊許可おりたね」
「えっ、それも獅子丸くんのお父さんが手配してくれて……」
澪は首を傾げキョトンとしている。
(だ・か・ら!重要事項の報連相!澪の親父め!)
「獅子丸、鍋グツグツしてるけどこれどうすんの?」
水樹さんは鍋を指して言った。
「いや、イノシシの肉残っているからそれを入れようかと」
「はっ?臭みの処理は?」
「臭み?」
「獅子丸、この肉鍋に入れてアタシらへ食べさせようとしてたの?」
「いつも茹で上がったら塩つけて食べてる」
「獅子丸……仙人にでもなるの?」
「いや、そんなつもりは」
(もしかして、僕……バカ舌になってる?)
「ちょっと、見るよ〜」
そう言うと水樹さんは冷蔵庫を開け、料理酒とチューブの生姜、それから近所の人にもらった長ネギを取り出した。
手際よくネギを斜めに刻み、生姜を鍋へ落とし、料理酒をひと回し。
そこへイノシシの肉を入れると、ぐつぐつと煮立つ鍋から丁寧にアクを取り立ち上る香りが少しずつ変わっていく。
さっきまで鼻についた獣っぽい匂いは消え、代わりにネギの甘い香りと、生姜の爽やかな匂いが部屋いっぱいへ広がった。
「うわあ……」
思わず声が漏れた。
毎日食べていたはずのイノシシなのに、こんなにも美味しそうな匂いになるなんて思ってもいなかった。
「料理って、こういうことっしょ?」
水樹さんは少し得意そうに笑った。
「意外すぎる……水樹さんがねぇ料理を」
「あーね。ウチあまり親がいないし、自分で作っては、ママとジジイに昔から食わせてたんよ」
(お父さんの扱い!)
「なんか……初めて食べた気がしない」
澪が首を傾げ不思議そうな目でイノシシの肉を見ている。
「なんか、小さい時、食べたことがあるような」
「イノシシの肉なんて小さい時食べないっしょ?」
「そう……だよね」
(龍馬さん……普通小さい子には与えないようです)




