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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
22/47

一章 21 復活キャベツ姫!

 五月三十日 火曜日


 僕たちは学校の来客室に教頭から呼ばれた。

 長机を挟み、向かい側には教頭と学年主任が座っている。


 こちらは僕、水樹、澪、優希、豪樹、尊。

 そして、端の席には綺羅羅――本名、頼岡里子(よりおか さとこ)がいた。


「確認だけど、動画の撮影と編集を中心となって行ったのは誰ですか」


「私」

 綺羅羅さんがすぐに答えた。


「投稿したのも?」


「はい」


「ほかのみんなは、投稿されることを知っていましたか」


「知ってんよ」

 豪樹くんが答えると、水樹さんと優希さんも頷いた。


 教頭は手元の紙へ何かを書き込んだ。


「松丸くんと阪本さんも?」


「知っていました」

 澪が答え、僕も頷く。


「ただ、中心は僕です」

 皆が僕を見たが、僕は教頭から視線を逸らさなかった。


「学校内で撮影した映像はある?」


「ないよ。学校外で撮ったのと、もらった動画だけ」


「提供者について、学校へ説明は?」


「本人の許可なしには言えないよ」

 綺羅羅さんは迷わず答えた。


「動画を削除する予定はある?」


「ない」


「今後も投稿を続けるつもり?」


「内容次第ね」


「学校や教職員を扱う動画も?」


「必要があれば」


 綺羅羅さんの答えは、ほとんど間を置かなかった。

 それでいて堂々としているように僕には見えた。


 教頭は眼鏡を外し、机の上に置いた。


「しかし、動画が公開されて以降、学校には電話やメールが多数届いています。教職員個人への問い合わせも増えています。どういう意味かわかる?」


「それ言われても困んだけどぉ」


 水樹さんが言った。


「問い合わせているのは私らじゃねーし」


「そういう意味ではありません」


「じゃあ、どういう意味ですか」

 僕はすぐに聞いた。


 教頭は少し黙ってから穏やかに言った。

「影響を考えてほしいということかな」


「はぁー? 影響?」

 今度は優希さんが言った。


「よくわかんねーけど、じゃあ俺ら何のために呼ばれたん?」

 豪樹くんが聞いた。


 教頭は手元の紙を揃えた。

「学校として、正式にお伝えします」


 教頭は紙へ目を落とした。


「学校は、皆さんに動画の削除を命じる立場にはありません。ただし、学校名、教職員、生徒、保護者が特定される情報の発信については、十分に注意してください」


 その声は、さっきまでの聴取よりも滑らかだった。

 最初から用意していた文章なのだろう。


「また、校内での撮影、録音、取材活動については、事前に学校の許可を得てください。無断で行われた場合は、校則に基づいて指導します」


 ◇


 廊下へ出たところで、水樹さんが綺羅羅さんに振り返えった。

「結局、なんだったの?」


「注意したっていう記録が欲しかったんでしょ」


 綺羅羅さんはスマホを取り出した。


「あとで何かあっても、学校は事前に注意しましたって言えるからじゃない?」


「でも、大人が嫌がっていることがわかった」

 と、尊くんが言うと「うわっ!そういえばいたよね、尊」と水樹さんが驚いた。


「教頭が出てくるってことはそういうこと」

 尊くんが不敵な笑みを浮かべ、言った。


「まぁ……言われてみれば確かに……」


「そろそろ、出す時期だと思うよ、里子(さとこ)さん」


「なっなっ、ここでは綺羅羅で通ってんの!本名呼ぶなー」


「プッ……」

 豪樹くんが吹き出し、女の子たちも笑いを堪えている。


「ぬぁーお前らー!」


「なによりもコイツがウケんのは、さとこって名前なのに動画で、綺羅羅って超キラキラネームを謳ってんのがウケんだよぉ」


 そう言って、みんな大笑いした。 


 ◇


 五月三十一日 水曜日 午前三時。


『以上報告です 龍馬さん』

 

 部屋の窓の前で紫煙を燻らせ聞いている。

 ボイスメモを停止しようとすると、続きがあった。


『それと……澪のことだけど……』

『お父さんなんだから、僕じゃない時』

『忙しいかもしれないけど』

『話を聞いてあげてほしい』


 そう獅子丸は言うとボイスメモは切れた。

 窓の外に煙を吐き出しながら、ぼんやりと外へ目を向けると犬を散歩させているおばちゃんや、若い女が走っていた。


「そろそろ限界か?もう一人の獅子丸?」

 少し笑いながら、リビングへ向かった。


 ◇


 六月一日 木曜日 朝のホームルーム後

  

「聞いて、聞いて!」

 そう言って綺羅羅さんが、僕の席に駆けて来た。


「見た?再生数?」


「いや、見てないけど」


「はっ?」


「……」


「なんでメンバーが見てないんだよ!イイネも押していないって事か!」


「あっいやぁ」


「スマホ出して」


「えぇ……」


「今すぐ、イイネっ!」


「はい……」

 僕はスマホを出して、綺羅羅さんの最新動画にイイネを押した。


「おはよう、私は見たよ綺羅羅ちゃん」


「おお、澪ちゃんさっすがー」


「確か昨日の夜で七十万くらいは視聴数あったような」


「そう」

 綺羅羅さんはスマホを取り出して、僕らへ見せた。


「今日は百万再生超え!」


「「おおおおお」」


 僕と澪はハモって画面を見た。


「予定通りっちゃあ通りだけどさ、コメント荒れてんねぇ」

 そう言いながら、水樹ちゃんも僕の席に来た。


 水樹ちゃんのスマホを見ると確かにコメントは荒れていた。


『えっ?この記者会見誰撮ってんの』

 

『闇バイト止めれる大人いない草』

 

『三日月は俺の嫁』

 

『いやー教師が開きなおっちゃダメだろ』


『これ教育委員会が三日月になすりつけたんじゃね?』


「しかもだ!なんと!」

 綺羅羅さんは椅子の上に立ち上がった。


「なんと!綺羅羅学校あるある始まって以来の!」


「うんうん」


「コラボ企画けってーーーい!」


「「「おおおおお〜」」」

 雰囲気に飲まれ、とりあえず拍手をした。


「しかも!登録者七十三万人 黒幕ウォッチャーで今勢いに乗っている神谷 レンさんのチャンネルで、対談!」


「マジ?アタシも行きたい!」

 水樹ちゃんが立ち上がって、目を輝かせている。


「そうだぞ!そうだぞ!日頃からイイネを忘れずになぁ」


「押しとく、押しとく!」


(多分これであっているんだよね?龍馬さん……)


 ◇


 五月三十一日 水曜日 ホームルーム前


「うっ、うっ、うっ——」


(えーー獅子丸、なんか泣いているよ、なんでー?)


「獅子丸、あんたなんで泣いてんの?」


「お前……なんかあったのか?」

 豪樹も優希も心配そうな顔をしている。


「いやなっ……」

「なんかスマホで小説が読めんだよ」


 獅子丸が泣きながら話始めた。


「はあ?」

「あんた、小説なんかで泣けるの?」


 アタシはそう言うと、澪が隣で言ってきた。 


「元々獅子丸くんは、そういうタイプだったというか——」


「——で、何読んでんだ?」

 そう言うと豪樹がスマホをヒョイっと取り上げた。

「なになに?」

 スマホをスクロールさせている。


「はっ?まさか……お前……」


「どうしたの?」


「コレだよ」

 豪樹はアタシたちにスマホの画面を向けた。


【百姓ですが、キャベツが人生をやり直します】


「これのどこで、泣けんだよ!?」

 アタシは思わず机を叩いてしまった。


「いや、ここ読んで見ろよ」

 獅子丸が豪樹からスマホを取り返して、アタシに渡した。


 キャベツ姫は静かに目を閉じた。

 葉が一枚、また一枚と土へボトボト落ちていく。

 ――終わった、ワシがそう思った次の瞬間!

 小さな芽が土を割りボコボコボコと音を立て膨らんだ。

 

 『お百姓さん……おはようございます』

 

 こうしてキャベツ姫は、人生をやり直した……

 その朝の畑は、どのキャベツよりも姫は青かった。


「どうだ?泣けるだろ?」


「いやいやいや」


 ◇


 休み時間に澪と二人でベランダへ出た。


「アイツちょっと変わっているところあるよねー」


「獅子丸くん?」


「そう、朝もキャベツ姫って!プックックッ」


 (思い出すだけで笑える)


「うん、ちょっと変わったところあるよね」


 澪は少し笑ってそう答えた。


「でもさー……前も言ったけど、好きになっちったんだよねぇ」


 澪は俯いてしまった。


「いやいや、チゲーよ?『好きな人、取るなー』とか、ダサいこと言わねーし」


「私は……」


 澪は言いかけて止まってしまった。


「今の澪は大切な友達。で、好きな人も同じ」

「それでいいじゃん」


「うん……そうだね」

 澪は微笑みながらアタシを見て言った。


 (本当の正解なんてアタシもわからないのに)

 

 

 

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