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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
21/47

一章 20 一生左折で右に行く

 五月二十六日 金曜日


『お前のプランと議事録は聞いた』

『今回はお前が仕切ってやってみるんだ』

『悪いが、俺様は学校へ行っている暇がない』


 (どうゆーこと?……)


 ◇


 昼休み、綺羅羅さんが僕の机を叩いた。

「獅子丸!」

「昨日考えたけど、普通に出しても伸びないわ」

 

「え?」

 

「炎上させる」

 

「……はい?」

 

「最初に嫌われるの」

 

水樹さんが顔をしかめる。

「えぇ……?」

 

「でも炎上したチャンネルって、おすすめ乗りやすいのよ」

 

豪樹くんが笑う。

「経験者が言うと説得力あるな」

  

「うっさい!」


 ◇


『ど『どうもー!綺羅羅でーす!』

 

『普段は学校あるあるを紹介していますが……今日は特別企画です!』

『闇バイト事件が起きたのは、実は私たちの学校なんです』

『なので今回は!「こんな学校はなし!」ということで――』

『学校なしなし放送!』

『今日は、三日月(みかずく)先生について生徒の皆さんに聞いてみたいと思いまーす!』


『先生は普段、どんな人でしたか?』

 

「え? いい先生だったよ」

「早く戻ってきてほしい」

 

『ありがとうございました!』

 

『次の方です!』

「優しかったよ。箸を忘れたら割り箸くれたりしてさ」

 

『ありがとうございました!』

 

インタビューは、その後も続いた。

『優しかった』

『相談しやすかった』

『面白い先生だった』

『怒鳴るところなんて見たことない』

 画面には、似たような証言がテンポよく切り替わっていく。

 

 ◇

 

 コメント欄は、開始十分で炎上していた。

『ヤラセ』

『学校から金もらってるだろ』

『顔も出せない証言なんて意味ない』

『モザイク外せ』

『テレビの方が信用できる』


五月二十七日 土曜日


「なるほどねぇ……大したもんだ」

 獅子丸からのボイスメモで、綺羅羅という奴の動画を見て言った。


 ティローン


 スマホを開くと豪樹のラインから、一つの画像が届いた。


「澪、上手くやってくれたな」


 ◇


「む——」


「豪樹?あんた、なに悩んでんの?」


「いや——澪のスマホ、施設の人が、管理してるから、俺のスマホと今、交換してんだろ?」


「そうね」


「優希?これ——開いたデータも残るのかな?」


「はぁ?女の子のスマホを見んなよ!」

 優希はそう言うと、スマホを俺から取り上げた。


 (……女子のスマホって……魔性だ)


 ◇ 

  

「ええ、そうです、同じ学校の先輩で……」

「よろしいですか?では十五時頃までには伺えますので、宜しくお願いします」


「獅子丸くん、誰と電話してたの?」


「……悠真の母親だ」


「悠真くん……か」


「車借りるぞ?」


「ちょっ……乗れるんでしょうけど、あなた中学生でしょ?」


「しかし、電車で行くと〇時までに戻れなかった時不味いからな」


「なら、私が運転する」


「美月……」


「大丈夫よ」


 ◇

 

「くっマジか……」


 美月はナビ通り右折レーンに入り、信号で止まった。

 右折信号が青に変わる。


 ゆっくりと左右を確認し、前へ出た。

 ゆっくり……そう慎重に……


 そして右折信号は赤へ変わり、後続車の何台かは、クラクションを鳴らしまくっていた……


『てめー!一生右折すんなー!左折だけで走れー』


 (うわ〜野次まで飛んできているぞ)


 俺は美月の方を見た。


「あー惜しい!でも次は行けるね!獅子丸くん」


 俺はそっと助手席の外を眺めた。


 (夜が明けちまうよぉ〜)


 ◇


 ニ時間くらい経っただろうか。

 ようやく悠真の親の家についた。


 二階建ての古びたアパートは、外壁の塗装がところどころ剥がれ、錆びた鉄階段が脇に張りついていた。

 狭い駐車場には色褪せた軽自動車が並び、二階の手すりでは洗濯物が風に揺れている。


 (102号室……ここか)


 キッチン前の窓と思われるガラスは新しく、ドアには石などがぶつけられたような傷や凹みが無数にあった。


 美月の目に緊張が見える。

「美月!辛かったら俺だけでいいぞ」

 

「……だっ大丈夫」

美月は唇を結び、小さく息を吸った。

「そうか」


 インターフォンを鳴らすと、三十代中頃の女性が出てきた。


「松丸さんね、悠真の母です」

 悠真の母親は会釈をし、俺も会釈で返した。


「えっと、そちらの女性は……テレビに出てた?」


「はい、私の担任の三日月(みかずく)氏です」

 

「三日月です。この度は力が至らず申し訳ございませんでした」


 美月は、深々と頭を下げた。


「どこか近くのファミレスとかに移動しますか?」


「いえ狭い部屋ですが、どうぞお上がり下さい」


 部屋の中は、使用感がほとんどなく、物も少なく閑散としている。

 奥の棚の上には幼児の写真が飾ってあった。

(悠真か……) 


「ご主人は」


「仕事です、お茶でよろしいですか」


「いえっお構いなく」


「粗茶ですが」


「いただきます」

 そう言い、一口茶を飲んだ。


「八女の玉露ですか」


「あらっ、わかるのね?」


「昔、お世話になった方がよく淹れてくれました」

「悠真さんの事は警察からなにか伺っておりますか?」


「いえ……児相が間へ入って、ずっと会っておりませんから……」


「ずっと?一度も?」

 美月の声は裏返りながら言った。


 悠真の母親は苦笑いして美月を見た。


「そんな……」


「実はあの子が何処にいるのかも連絡をもらうまでは、知りませんでした」


「では、どうやって状況を」


「警察と児相からは概ね聞きました」

「あとは……」

 美月を一瞬見た。

「テレビなどでなんとなくです」


「お時間がよろしければ、少しお話ししてもよろしいですか」

 俺が尋ねると、悠真の母親は黙って頷いた。


 しばらく俺の知っていること、美月の知っていることを話した。

 美月は途中、涙声になりながら、事実だけを話し、至らなかった点や、他にもっといい方法があったのではないかと自責の念を語った。


「この松丸さんも手を……」

 咄嗟に美月の腕を掴み、首を振った。


「わざわざ、なにがあったのかを聞かせていただきまして、ありがとうございます」


 悠真の母親はテーブルから横にズレ、深々と頭を下げた。


「ところで悠真さんのお母さん、貯金はありますよね?」


 俺がそう言うと驚いた顔をし、少しだけ目を細めた。


「ちょっ、し、松丸くん!」


 無視して話を続ける。

「私の知っている代理人弁護士がおります」

「優秀だと思いますが、報酬は高い」

「悠真さんに、使ってもらえませんか?」


 悠真の母親は黙って俺を見ている。

 しばらく部屋は静まり返ったが、ゆっくりと、口を開いた。


「ずいぶん大人びた、可愛い中学生さんですね」

 

「……」


「児童相談所は、私たちから子を奪いました」

「それで終わり、もう悠真とはニ度と会うことはないでしょう」


「悠真さんは、あなたを諦めていません」

 

「……え?」


「では、あなたは?」


「……」

 

「それは悠真を諦めたからです」


悠真の母親の顔が僅か震えている。


「私の知人に同施設にいる女の子がいます」

「施設で、悠真さんに最後に会ったのは、その女の子」


「あなたへ会うために、犯罪に手を染めた」

 

「……」

 悠真の母親の目から涙がこぼれ落ちた。


「目的はお金を手に入れ、施設を抜け出し、あなたの元へ帰ろうと彼はした」

 

「今度は あなたの 番です」


「ううっうう……」

 悠真の母親は、必死に声を噛み殺しているようだった。


 しばらく俺と美月はなにも言わなかった。


「ごっごめんなさいね、あなたの言うとおり、貯金は少しはありますよ、でも何故?」


「夫婦、二人、六畳一間あれば……ってところだと思いました」


「大人みたいね。あと一つ、君のメリットは?」


「回帰です」


「……わかりました」

 悠真の母親は美月を見てクスッと少しだけ微笑み答えた。


「松丸さん、こちらこそ、宜しくお願い致します」


 ◇


 悠真の家を出るときには、茜色の空に変わっていた。

 そして車に乗り自宅へむかった。


「獅子丸くん?」

 含みを持たせた言い回し。

 

 (吹っ切れたかな?)

 俺の口角が少しだけ上がる。


「なんすかー!せんせーい」


「あなたね?あんなにちゃんと喋れるなら、私にもちゃんとした言葉遣いしなさいよ!」


「やだー!」


「なんでよ!悠真さんのお母さんには、ちゃんと話してたじゃない?」


「あの人は……相当なやり手だよ」


「やり手?」


「品格も次元がちげー!」


「人を比べるなぁー」

「ん?ここ右だ?」


(まっまさか……)


「あー行けなかった、でも次行けるね!獅子丸くん」


(まだ続くのか……)


 対向車線まで、はみ出た美月の車へ

 クラクションや怒号が聞こえた。

 

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