一章 19 盗撮✕盗聴
五月二十四日 水曜日
ハァハァ、ハァハァ
(だいぶ、走れるようになってきた……)
住宅街の外れに、山の斜面をまっすぐ切り開いた石段がある。数えれば、百段ほど。
その頂上に、小さな神社がある。
「おいっ調子こいてんじゃねーぞ!」
「?」
「さーせん!勘弁して下さい」
神社の後ろから、ありがちな台詞が聞こえてきた。
こっそり覗いてみると、ウチの学校の一年生が正座させられている。
そして、怒っているのは、C組の要くんだ。
小一から知っていて、小学校の頃は一緒にスイッチやったりしていた仲だった。
「あれ?要くん、どうしたの?」
「あんっ?……って、獅子丸さんじゃないっすかー」
(ええっ!?……さん?)
「いやね?ちょーっとトラブルがあったんで、注意してただけなんすよぉ」
(おーい、一年生がシラーッて顔してるぞぉ〜)
「さっ、君も次から気をつけて! もう行きなさい」
要くんはそう言うと、一年生を立たせて、帰らせた。
解放された一年生が僕に言った。
「ありがとうございました……獅子丸さん」
(一年生もっ!?——さん?)
要くんだけじゃない。残りの四人まで僕と目を合わせようとしてくれないし、明らかに怯えているぞ?
少しでも、誤解を解きたい!
「いやっ、あのぉ……ねっ?要くん?僕たち小学校の頃は——」
「さーせんでした!以後、年下には優しくします!」
「「「「さーせんでしたっ!!」」」」
一斉に五人はお辞儀して、動かなくなった。
(ああ〜僕の数少ない友達が、アレのせいで離れてく〜)
◇
学校へ来ると、美月先生は体調不良により、一時的に休職することになったと教頭先生が言っていた。
龍馬さんのボイスメモには、『とりあえず慰めておいた』と入っていた。
(また色色じゃないと、いいけど……)
そして、もう一つ。
『お前の判断は間違っていなかった』
それがどういう意味まで含んでいるのか具体的なことを龍馬さんは、明言をしなかった。
美月先生のことは朝、姉ちゃんが見ていたテレビで知った。
『学校ぐるみの隠蔽か!? 危険を知りながら放置された児童』
『"気付いていた"教師たち…なぜ誰も止めなかったのか』
『また学校の責任逃れ!? 子どもを危険にさらした大人たち』
いつものように似たようなことを、みんなが勝手に騒いでいた。
教頭のホームルームが終わると、澪が教室のベランダに一人でいたので話しかけた。
「澪、元気ないね」
澪は視線を景色に向けたまま答えた。
「あんなことあったからね……」
(こんな時、龍馬さんなら、なんて声をかけてあげるんだろ)
「でも、獅子丸くんには、感謝してるよ」
「ぼっ、俺は……なにも……」
「私、わりと良くしてくれる職員さんに聞いたの」
「……」
「獅子丸くんは、最後まで悠真先輩の罪が軽くなるように動いたんじゃないかーって」
「俺は……」
「今日はスーパーパワーの獅子丸くんじゃない日だね?」
(ええ!?……バレた?龍馬さんのこと?)
「いや……俺様もいつもあんなテンションじゃ疲れちまうからな!ガッハッハッハ」
「……」
「でも、前から知っている優しいだけの獅子丸くんも……澪は、嫌いじゃないよ」
(嫌いじゃない?)
澪は振り向き、優しく微笑みながら僕へ言った。
柔らかな風が吹き、澪の髪が少しだけ揺れた。
「ふふっ」
パンッ!
澪は僕の腰を叩き「教室、戻ろっ」と、言い中へ入っていった。
そのあとも、水樹さんや、尊くんの話では、僕(龍馬さん)は、答えを出さず終わっていたようで、美月先生を助ける方法をあれこれ僕の席で話をしていた。
『ふっふっふ!校長先生を付け回して、スキャンダルを盗撮してユーチューブで流してやりましょ——』
尊くんが、そんなことを言い始めたから、みんなで慌てて止めた。
(まてよ!スキャンダル?ユーチューブ?)
ニ時間目後
「要くーん」
C組へ行って要くんと話そうとしたが……
「ひぃぃぃ!今朝の事はすいません!ナイフ投げないで下さい」
「要くん、やめてよ。僕はそんなんじゃないから」
「し、獅子丸さん?それじゃあ」
「『さん』もやめて。小学校の頃は毎日スイッチとかで遊んだじゃん。僕はあまり上手くなかったけど」
「えっ、まぁな。あの頃は地元で一番上手かったからな……俺!」
「そうそう」
僕らは少し照れくさそうに二人で笑った。
「ところで、なにしに来たんだ?獅子丸」
「それなんだけどさ?このクラスにユーチューバーの子いたよね?」
「ああ、底辺ユーチューバーの綺羅羅ね」
要くんは、含みながらそう言った。
「なんか芝岡の事件でB組とE組の女子が、事件をリアルタイムで流してフォロワー増えた子何人もいただろ?」
「うん」
「『獅子丸め、何故C組女子は誘わないんだ!ちくしょーめが!』って、言ってたぞ?」
「ええ!?」
(話する前から敵じゃないかよぉ〜)
「んで、綺羅羅がどうしたの?」
「ん?いや、ちょっと昼休みに僕が話したいって、間を要くんに取り持ってもらいたいんだ」
「ああ、いいよ!昼休みね!言っとくわ」
(は〜普通に話せれば良いけど……)
◇
給食。
「ええ?綺羅羅と話をするの?」
水樹さんが、そう言うと澪と顔を合わせる。
「ぶぁはははは」
「ちょっ、水樹ちゃん、悪いよぉ、プッ」
二人とも笑っている。
「えっ?そんなにおかしな子なの?」
「ごめんごめん、プックックッ」
「いやね、あの子普段は普通だけど、配信になると力入り過ぎちゃってね」
「全然バズんないからさ、わざとパンチラするような動画取ったのよ」
「そしたら大人は集まるは、コメントがカオスになって荒れるはで、一回垢バン食らってたんよ」
「先生に『下着を見せる配信は原則禁止です』とか、マジギレされてて、プッ……原則って!」
「もしかして!?私の噂かしら?」
「いっ!?」
僕はゆっくりと、後ろを振り返るとセミロングで栗色の髪の女の子が、仁王立ちをして立っていた。
「君が、綺羅羅さん?」
「スマホ貸して?」
「はっ?」
「相談があるのでしょ?」
「ええ、はい」
僕のスマホを取り上げるとロックを解錠しろと「はよっせんかーい」と脅迫され、ユーチューブを開いた。
「登録されてない!」
「はっ?」
「だから、私のチャネル!」
後ろで澪と水樹さんがクスクス笑っている。
「ああ、ごめん登録するよ……今?」
「今っ!」
僕が渋々登録すると、綺羅羅さんは穏やかな顔に戻り、
「んで?どんなネタ持っているの?」
と、ニッコリ笑って隣へ座った。
(うわ〜この子、情報量多いなぁ〜)
◇
「尊くん、今空いてる?」
尊くんは頷くと僕の席に集まった。
「申し訳ないんだけど、録音して、あとでみんなへ回せるようにしてほしいんだ」
(龍馬さんへ判断してもらうためだけど)
尊くんは、頷くと小さなカメラのようなものを取り出した。
そして椅子の下にカチャカチャと取り付け、綺羅羅さんの方へ向けた。
「ちょ、ちょ、ちょい待った!コイツ堂々と盗撮してるぞ?」
綺羅羅さんは慌て立ち上がりスカートを抑えた。
僕と水樹さんはため息をついた。
「尊くん……盗撮じゃなくて、録音」
「——ああ、盗聴ね!オッケー」
そう尊は言うと親指を僕へ向けた。
(((コイツ……)))
「今日来てもらったのは、『美月先生の件』なんだ」
「えー知ってるわよ。それはネタにするつもり」
「あの、テレビの内容以上のことがあるとしたら?」
「なんですって?」
綺羅羅さんは食いついてきてくれ、また椅子へ腰を掛けてくれた。
「僕らの仲間内でその内容について、賛否があったんだ」
「見せてよ」
「とりあえず待って」
「待てるかー!芝岡事件の時、美女勢揃いのC組を2つも飛び越えて、あんな悪の巣窟Eー組の子をわざわざ呼んどいて!」
(あ〜あの二人を筆頭に言っているな〜)
(澪も水樹さんも視線が逸れゆくー)
「いや、待ってほしいのは、『計画的に』行いたいんだよ」
「計画的?」
「短絡な考えかもしれないけど、『ただ流す』だと、あまり見てくれないのかもしれないって思ってさ」
「それは……登録者も言うほど多くはないけど……」
「僕らは美月先生に教室へ帰ってきてもらいたいんだ」
「うんうん」
「そして君はバズって登録者数を増やす」
「マジ?」
「わからないよ。でも手を組む価値、僕らにあると思ってくれたら嬉しい」
「わかった!それと競合他社は入れちゃダメだからね!」
「競合他社?なにそれ?」
水樹さんが首を傾げている。
「つまり、綺羅羅チャネル独占スクープにするのだ!」
立ち上がった綺羅羅さんは、拳に力を込めて言った。
「あ〜ね……」
僕は苦笑いした。
澪や水樹さんも、どこか呆れたような顔をしていた。




