一章 18 夜中に書き出すラブレター
五月二十三日 火曜日 十時半
黒板には、『読書』と書かれている。
尊くんの周りには、私と、豪樹くん、水樹ちゃん、優希ちゃんが集まっていた。
「これ、美月先生……ヤバくね?」
尊くんのスマホから流れる動画を見て優希ちゃんが言った。
「なんで?俺ら想いの、いいこと言ってるじゃん」
と、豪樹くんが話すと
「そーそー、美月っち、流石だよねぇ」
と、水樹ちゃんが、頷きながら言っている。
「いやーヤバいっしょ?多分」
優希ちゃんが、首を傾げて、動画を見ている。
「なんでよ?美月っち、生徒想いじゃね?」
「いやーこれ、教育委員会とかダメっしょ?都合よく解決したかったんじゃね?」
「どういうことだよ?優希?俺は良いと思うけどなぁ、ウチの担任より優しくね?」
「そういうことじゃないの!学校は、生徒達が事件を解決したとか、ダメだろ?管理責任とかさ?」
「優希、お前難しいこと知ってんな?」
「だってアタシ、今回の中間も六位だし」
「「「えっ……?」」」
「なんだよ!その『えっ』て!」
「「「いやぁぁ」」」
「でも……」
「ん?」
みんなの視線が私に集まった。
「あの……施設の先生たちも……こんな感じの、優しい先生……いなくなっちゃうよ……」
「「「「はぁ?いなくなるぅ?」」」」
◇
五月二十三日 火曜日 十時四十分頃
(さいっっっ悪だった!あの超絶過保護め!)
「獅子丸ー!」
水樹が飛び込んで、抱きしめて来た。
クラスメイトの視線が痛いぞ……
そんな中、澪が視線を逸らした。
(澪?)
「おう、獅子丸、お帰り!」
「大丈夫なん?手?」
豪樹と優希が駆け寄って来て、声をかけてくれ、差し出した豪樹手を握り、固く握手を交わした。
「俺様、本日、復活だ!」
すると、横に尊が寄ってきて、一枚の封筒を手渡してきた。
中を見ると……嫌な予感はしたが……
数万円の金が入っていた。
「おまっ、この金なんだよ!」
「……快気祝い!」
不敵な笑みを浮かべながら、親指を立てている。
「いらんわ!中坊のやることじゃねーだろ!」
「ふっふっふ」
「それより……獅子丸くん、美月先生が」
澪も寄ってきて、悲しそうな目で言った。
「ああ、ゆるふわ親父の車内テレビで見た」
「なんか都合よく、まとめられていたような気もしたが」
「都合よく?」
「わかんねー……けど、生放送と言っても、途切れ途切れにMCとかが、なんか意見しているから、よくわからんかった」
「獅子丸くん……これ」
「ん?なにこれ」
「全容……盗撮している!」
そう言うと尊はまた、親指を立てて、ドヤ顔していた。
「「「これ!盗撮だったのかよ!?」」」
◇
「確かに、ヤバいな、澪の言うとおりかもしんね」
そう言って、椅子を俺は傾けて、少し考えた。
「うん……子どもを考えている先生ほど……いなくなっちゃうことが多くて」
澪はそう言うと、少し俯いた。
「でもさ?アタシらが、言ったら変わるんじゃね?」
「そうだね、一度校長先生のとこ行って、美月っちはやめさせるなーって言えば——」
水樹と優希が話している。
「おお、俺らの仲間も誘って抗議しにいくか?」
と、豪樹も意気投合した。
「でも……そういうの……子どもが言っても、聞いてくれないと言うか……その……」
「そんなこと言ったら、結局なにもできねーじゃん?今までも、俺ら結構出来てたじゃん」
「あっごめん……そういう意味じゃ……」
澪の声が小さくなった。
「いや、澪に賛成かな?アタシは」
「そうなのか?優希?」
豪樹は首を傾げている。
「ほら一年の時もいたじゃん、理由わかねーけど、突然、体調不良とかで先生変わってるクラス」
「ああ、浅田のこと?」
「そうそう、あんな感じになるんじゃね?」
優希はため息混じりで、椅子の背もたれに頬杖をつきながらそう言った。
◇
午後五時十分頃。
ピンポーン、ピンポーン、ピンポーン――
真っ暗な部屋で、あまり飲めない酒を飲みながらうずくまっている……
チャイムの音に、私の心が跳ね上がったのがわかる。
(あさましい)
そんな自分を嫌悪している自分がいる。
モニターを見ると、俯きながら、いつものようにニヤリと嘲笑う彼が制服姿で立っていた。
「Honey, I'm home」 (ただいま、ハニー)
口元が緩んでしまう自分が恥ずかしい。
なにも言わずにオートロックを解錠し、私はインターフォンを切った。
「You already know, don't you, boy?」
(もう答えはわかっているのでしょう? 少年)
誰にも聞こえない部屋で、そう呟いた。
今頃、彼はエントランスからエレベーターへ歩いている。
エレベーターは一階にあった?
それとも最上階?
私の鼓動が聴こえてくる……。
彼はエレベーターに乗っている。
もう私の階に着いた? 聞こえない……。
玄関前のチャイムが鳴った。 答えられない……。 しばらくすると、鍵をかけ忘れたドアが開いた。
(忘れた? どうだか!)
彼は部屋に入ってきた。 近づいてくる……。
動けないよ。
立っている……彼は、私のすぐ横に……。
なにか、なにか言わなくちゃ……言わなくちゃ!
「ごめんねー。先生もお酒飲んでて、動けなくってさ」
「そうだ、獅子丸くん、お腹空いてる?」
「冷蔵庫に――」
真っ暗な部屋……。
彼はなにも言わず……。
優しく……。
涙が湧き上がり、溢れてくる。
止まらない。
「こらっ……先生……だぞ」
声が震えてしまう。
そう言うのが……精一杯なんだ。
今の私は。




