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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
18/47

一章 17 かつて三日月先生と呼ばれたこともある女

五月二十ニ日 月曜日


 水樹さんが来たあと、僕はスマホでボイスメモを確認したが、メッセージは入っていなかった。


 ただ、仲間のグルチャを見る限り、警察の聞き取りはあったが、誰かが捕まったりすることもなく、澪を含めて日常へ戻ったようだった。


 コンコンッ


「はいっ」


「あんた、凄いじゃん!」

 

「姉ちゃん?」

 

「なんか、おばあさんの心臓マッサージを悠真って子?にやらせて、自首までさせたんでしょ?」


(そうか……龍馬さんが次の日、起きて)


「なんか、警察もパパに謝りにきてー、おばあさんも生きているらしいのよ!」


「こらこら、愛羅、獅子丸くんは、怪我人なんだから、それくらいにしておきなさい」


「そうよ、愛羅ちゃん、獅子丸ちゃん大変だったんだから」


 パパとママが病室へ入って来てそう言った。


「松丸くん、体調はどうだい?」


 白衣姿のお医者さんが、パパとママに軽く会釈をしてから僕のベッドへ近づいた。

 

「手の傷は問題ありません。腱も神経も無事です」

「輸血はしましたが、経過は順調です。このまま異常がなければ、明日の午前十時に退院できます」 


 お医者さんはそう言って病室をあとにした。


 ◇

 

 午後になると、面会に澪が来ていると、看護師さんから連絡があった。

 デイルームへ向かうと、中央にある四人がけの席に澪は座っていた。


「獅子丸くん」

 

「学校、終わったの?」

 

「うん」


「あっそうだ、これ」

 そう言うと澪は、封筒を手渡してきた。

 中身を開けると、中間テストの結果だった。


「美月先生に渡して来いって言われた」


 僕は、恐る恐るテストの結果を一瞥した。


 【英語……4点】

 (僕じゃないのに……終わった……)

 

 血の気が引くのがわかった。

 輸血がまだ必要かもしれない……

 


「テスト……悪かったの?」 

 少し笑いながら、澪は外の景色に視線を向けた。


「獅子丸くん……」

 

「ん?」

 テストの結果を眺めながらぼんやり答えた。


「今日……朝、水樹ちゃんと会った?」


「えっ!?」


 僕は狼狽えたが、澪は景色を見たままだった。


「いや、まぁ……朝来たよ」

「そー窓から入ってきて、看護師さんに怒られて……逃げていったよ、凄いね。水樹ちゃんも」


(……慌てている?)

 澪は振り向かない。


 しばらく澪はなにも言わなかった。


 そして……

「そっか」

 と言い、振り向いた澪は笑顔だった。


「おばさんに聞いたよ?明日退院なんでしょ?」


「う、うん……お医者さんが言うには」


「そろそろ帰るね、明日これたら学校でね」


「……」


 澪はそのまま振り返ることなく、デイルームを出ていった。



 ◇


「梨恵……このニ度目の出会いは偶然ではない」

 

「……」

 

「今日で俺様は退院する」


「……」


「そこでだ。快気祝いに、ディナーでもどうかな?」


 ガラーッ


「おお、朝から看護師さんをナンパするとは、獅子丸くんも元気になったねぇ」


(うわっ!良いところで、ゆるふわ親父が入ってきたぞ)


「そうねぇ、梨恵さんと言うの?うちのコをよろしくお願いしますー」


(ゆるふわ親父の嫁!)


「いえっ……私、そういうのはちょっと、アハハァ……」


「そうだ。よかったら、うちにご招待しようか」


「あらっ、それもそうね!梨恵さん、是非ウチにいらっして下さい」


「いえっ、あの、失礼します」


 そう言って梨恵ちゃんは、出ていってしまった。


「って、事は……?」

 

「そうね、お父さん。今日の獅子丸ちゃんは」


「うん」

 なんかゆるふわ親父がニコッとしたぞ?


「僕をゆるふわ親父って呼んでくれる獅子丸くんの日だなぁ」


 そう言うとゆるふわ親父は、俺様に抱きついてきた。


「うわーやめろー!」


(溺愛しすぎだろーコイツの親——)

 


 ◇


 五月二十三日 火曜日 午前十時

 県庁・記者会見室


「読売新聞の佐々木です。まず、えっと……三日月(みかづき)美月先生でよろしいですか」


「いえ、みかづくです」


「失礼しました。では、三日月(みかづく)先生に質問します」


 記者は手元の資料へ一度目を落とした。


「被疑者となった少年が事件を起こす可能性を、事前に把握していたとされていますが、その点についてはどうですか?」


「はい。クラスの生徒から、そうした()()は聞いていました」


 会場がざわめいた。


 隣に座る校長が、口元を隠すようにして囁く。


「先生、想定問答どおりに」


 わずかに頷き、すぐ記者たちへ目を戻した。


「では、事前に止めることはできなかったのですか?」


「それができれば、中高生の加害者は生まれないのでは?」


「どういう意味ですか、それは」


「言葉のとおりです」


「事前に生徒さんから予想を聞いていたとのことですが、それを受けて、先生はどのような行動を取ったんですか」

 

「弁護士の佐藤です。その点については、私からお答えします」

 佐藤弁護士はマイクを引き寄せ、手元の資料へ目を落とした。

 

「当初、事件は五月二十一日に行われる可能性があると、生徒から相談がありました」

 

「三日月教諭は直ちに関係する生徒へ危険を伝え、現場へ向かわないよう指導するとともに、緊急時には自ら連絡を受ける体制を整えました」

 

「その後、決行日が五月二十日に前倒しされたことを把握すると、単独で現場へ向かった生徒を追い、事件現場へ急行しています」

 

「現場では、被害女性に対する救命措置を継続させるとともに、被疑者となった少年を説得して自首へ導き、警察署まで同行しました」

 

「結果として、被害女性の命は救われ、少年の逃走やさらなる被害も防がれました。三日月教諭は、限られた状況の中で、生徒と被害者の安全を最優先に行動したものと認識しています」


 (違う……私じゃない)


「事前に指導を適切に行っていれば、このような事件になることはなかったのではないですか」


「そちらについても、こちらでお答えします」

「匿名・流動型犯罪は、非常に巧妙化しており——」


(だから私は……私には止める力なんてなかった)

 

「その集合場所から現場に向かった生徒さん、実は仲間であった可能性はあるんじゃないですか」


「それについては、現在も警察が捜査を進——」


 (獅子丸くん!)


 私は気づいたら立ち上がっていた。


「三日月……先生?どうされましたか」


 校長が慌てて私の腕に手を伸ばす。

 私はその手を振り払った。


「違います!」

 

 会場が静まり返る。

 隣で校長が私を見ている。


 (知ったことか!)


「現場へ向かった生徒は、仲間なんかじゃありません!」

 

「止めようとしたんです! 一人で! 怖かったはずなのに、それでも追いかけて、傷ついて、それでも止めようとしたんです!」

 

 息が苦しい。

 胸が熱い。

 

「私たち大人は……」

 言葉が震えた。

(獅子丸……くん)

 

(うん……わかっている。カッコよくだ!)

 

 私は記者の人達を見回した。


(大丈夫、もう……怖くない)

 

「私たち教員は、あの子たちを守れませんでした」

 

「三日月先生!?」

 

「今、ここで褒められているのは私です。でも違う!」

 

 涙を堪えながら叫ぶ。

「命懸けで動いたのは、あの子たちです!」

 

「私は……何もできなかった!」

 

 フラッシュが何度も光る。

 

「私から言えることは、それだけ……です」


 私はマイクから離れた。

 背後で誰かが名前を呼んでいたが、振り返らなかった。


 

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