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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
17/47

一章 16 カエルのオジ様は今、寝てる


 ◇


 過ぎ去ってゆくタクシーを眺めていると、一台のデカい乗用車が止まった。

(おお、Sクラス……水樹んちは、金持ちか)


 後部座席から若い女が、降りてきた。

 

「水樹ちゃん、あんた無事なの?」

「あっママ、別に危ないことしてないし」

 運転席からも男が降りて近づいてきた。

 

 (アレはパパ殿か)


「オッサン、近寄んなよ、うっぜーな!」


 (おぉ〜ザッ思春期だねぇ〜)


「豪樹」

「あっ兄貴」

「フけるぞ」

「いや獅子丸とまだ話さねーと」


 ゆっくりと兄貴らしき男が近づいてくる。

 

 (うわ〜めちゃくちゃ見た目、反社やん)


「豪樹のダチか、豪樹と仲良くしてくれてありがとな」

 見た目とは裏腹に、律儀に頭を下げてきた。

「っで、どうする、余計なこと弟がゲロるなら、一度家族の迎えってことで仕切り直したほうが、いい気がするだが……」

 

「ああ、そうしてもらったほうが、助けたい男のためにも良い」


「マッポは、都合のよい証言を捏ち上げる……ってことかな?」

 豪樹の兄貴は煙草に火をつけ言った。

 

「ええ、なので、豪樹くんをよろしくお願いします」

 豪樹の兄貴に姿勢を正し、一礼した。


「……ふっ、わかった」

「しっかし……お前、本当に中坊か?」


 豪樹の兄貴は少し笑いながら「豪樹、行くぞ」と言い、豪樹の乗ってきた単車で帰っていった。


「尊、尊」

 もう一台、国産車が到着して、尊を呼ぶ声がした。

「ああ、父さん」

「凄いことになってるなぁ」

「うん、一生に一回も見れないような事件だね」

「そうだな、尊、ちゃんと記録しているか?」

「フッフッフ……当然だよ、父さん」


 親子揃って不敵な笑みを浮かべている。

 

 (こ、コイツら親子……)


 遠くから緊急車両のサイレンが聴こえてくる。


 ◇


「通報があった! 被害者はどこですか!」

 救急隊の一人が野次馬へ聞いた。

 

「いや、入ってないからよくわかんないけど、そこに城戸さんの旦那さんが倒れているよ」

 

ストレッチャーが一台、現場へ駆け込んできた。

 

「一台じゃ足りない!」

 手で奥を指した。

 

「一人は死亡確認レベルだ! 奥にもう一人! 心肺蘇生で脈は戻った。止血済みだが危険だ!」


 救急隊員はこちらを見て一瞥した。

「君が?処置したのか?」

 

「説明はあとだ」

 

「二傷病者だ! ストレッチャーもう一台! 資機材持ってこい!」

「了解!」


 そこに二人の大柄な刑事が俺様の目の前に立った。

「お前が残れって言われたのか?」


「あ?」

 二人の刑事を睨みつけた。


「ウチの署にな、先生と二人で自首しに来た子がいてな?」

 

「なら、問題ないだろ」

 

「いやいや、お前が関わっていない証拠はないんだよ?僕ちゃん」


 薄ら笑いを浮かべながら、こっちを見ている。


 女性救急隊員が近寄ってきた。


「君、この手はどうしたの?」

 

「あ、いや……」

 

「ちょっと確認だけするね」


「っ……」


「えっ、この手……」

 女性隊員は、通信機で報告する。


「右手の貫通刺創。恐らく刃物によるもの、受傷後、刃物は抜去済みです」 


「ちょっい待って下さいよぉ。救急の方」

 

「はい?」

 

「この子は重要参考人だ、一度こっちで預かる」

 

「そんな状態ではありません!法律では——」


 刑事は話を遮り言った。

「これは強盗殺人だよ?」


「!?」

 

「コイツが余計なことをして、他の奴らを捕まえられなかったら、救急隊員さんは責任とれるのかい?」


「いえ……それは……わかりませんけど……」


 ◇


 救急車のサイレンの光が遠ざかる。

 右手を押さえたまま、刑事に両脇を挟まれてパトカーへ乗せられた。


「事情だけ聞かせてもらう。任意だから安心しろ」


「へぇ」

 鼻で笑う。

「任意って、断ったら帰してくれるやつだろ?」

 

 刑事の眉がぴくりと動いた。

 

 

 ◇


 取調室。

 音楽室にある防音の壁に包まれた狭い部屋には、机が二個あり、窓の内側には薄いクリーム色の鉄格子が等間隔で、何本も取り付けられていた。


 

(懐かしいなぁ〜、またここに来るとは)

 

 

「事件に関わった理由は?」


「事件?」


「とぼけるなよ?」

 刑事は机を叩いた。

「現場には死体が一つ。重傷者が一人。お前は血まみれだった」


「だから?」


「だからじゃない!」


 若い刑事が身を乗り出す。


「お前がやったんじゃないのか?」


「それを調べるのがお前らの仕事だろ?」


「質問してるのはこっちだ!」


「任意で引っ張って、自白だけ欲しがる……変わらないねぇ」

 椅子にもたれ、口元だけ笑った。


「刑事さん。協力はできねぇな。まず男だし可愛くない」

「入ってくる時にいた、交通課かな?身体の小さいあの女の子と変われ」


 若い刑事は顔を真っ赤にする。

「ガキが……!」


 拳を振り上げたところで、隣のおっさん刑事が腕を掴んだ。

「落ち着け」


「ですが!」


「乗せられるな」


 獅子丸は肩をすくめる。

「原則無罪っすよ〜」


「……」


 部屋に重苦しい沈黙が落ちた。


 その時だった。

 廊下が急に騒がしくなる。


「失礼します!」

 若い署員が慌てて飛び込んできた。


「松丸獅子丸くんの件で面会希望者です!」


「家族なら待たせろ」


「いえ……それが」

 署員は唾を飲み込んだ。


「弁護士が四名。ほかにも市議会議員、会社経営者、それと教育委員会関係者まで来ています」


「何?」


「松丸さんのお父様も一緒です」


 刑事たちの表情が変わる。


「お待ちください! ここは関係者以外——」


「違法な任意同行では?」


 (あの声……ゆるふわ親父?)

 

 直後、取調室の扉が開いた。

 スーツ姿の男が静かに入ってきた。


 (はっ?やっぱ、ゆるふわ親父!?)


 その表情に怒鳴り声はない。

 だが、その静かな目だけで、室内の空気が張り詰めた。


「私の息子を、重傷のまま任意同行されたそうですね」

 いつもと違う低い声だった。


「まずは経緯を説明していただけますか」

 ゆるふわ親父の後ろには、美月と数名の弁護士が並んでいる。

 誰一人、声を荒げてはいない。

 

 それでも取調室の空気は、一瞬で刑事側のものではなくなった。


 ◇


 うっ……息が出来ない……

 あれ……僕は……悠真先輩を追って……

 刺された……死ぬ?


「ぶはっあ……」


 僕は飛び起きた。

「はぁはぁ……」


 目をあけると……水樹……さん?

 見渡すと、点滴?殺風景な部屋……固いベッド……


(また、病院?)


「おぉ〜やはり王子もキスすると目覚めるのか」

「パチパチパチー」


水樹さんは、なぜか僕の上に跨がったまま拍手している。

「な、なにしてんの?水樹さん」

 

「なにって——目覚めさせにっしょ?」


「えぇ?」


 くちびるに残る微かな温もり……

 顔が熱くなってゆくのがわかる……


 ガサッ


 水樹さんが僕に抱きついて言った。

「私だって……女の子なのだ」


「……」

(水樹さん……少し震えている?)


 ガラーッ


「あ、あなた、誰っ!?」

 看護師さんが、入り口で怒っている。


「おっとー、ヤバい、ヤバい」

 水樹さんは、咄嗟に離れると、窓にヒョイっと飛び乗った。


「んじゃ、アタシ、学校行ってくるわ」

 手を上げて、飛び降りた。


「水樹さん!?」

 慌てて窓の外を見ると、ハシゴを降りて、走って行ってしまった。


「こんな脚立まで持ってきて、誰なの、あの子?」


「いやあー誰でしょっ?あの子、アハハハ……ァ」

 僕は咄嗟に気の利いた言い訳も思いつくわけでもなく、笑って誤魔化すしかなかった。


 

 


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