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死刑囚、中二になる  作者: 凛1129
ナイス・ガイの一学期
16/47

一章 15 だいたい間違う毎日♪

 ◇


 街灯の少ない歩道を、自転車が風を切って走る。

(運動公園なら、この道しかねーだろ)


「澪ー!」

 (ったく〜どこいんだよー)


 しばらくすると、街灯の明かりの先に、小さな人影が見えた。


「あれか?」


「澪!」


 振り返った顔が街灯に照らされる。


「優希さん?」

 

「どこ行くの?」


「運動公園」


 おお〜あの澪っちが即答〜。

 

 澪は立ち止まったまま、真っすぐ優希を見ている。


「悠真先輩を止めなきゃ」

 また歩き出そうとした。


 自転車を降り、その前へ回る。


「いや、行っちゃダメじゃね?」


「どいて」


「ムリムリ」


 澪は少しだけ眉を寄せた。


「私は変わらなきゃいけないの」


「どゆこと?」


「今まで何もできなかったから。今度は私が――」


 首を横に振った。


「いやいや、もう十分じゃね?」


「……え?」


「土曜日に悠真が動くって、獅子丸へ伝えたじゃん」

「あれで十分っしょ」


「でも……」


「難しいことはよくわかんねーけど……」


 自転車のハンドルへ手を置いたまま言う。


「でもさ、スポーツとかでも勝手なことしたら負けんじゃん?」


「……」


「獅子丸が考えて動いてるなら、今は信じるしかなくね?」


 澪は唇を噛んだ。返事はない。


「戻ろっ」


 そう言うと、澪は静かに目を伏せた。


 ◇

 

 城戸と書かれた表札が、玄関灯に照らされていた。


「押せ」


 背中に何か硬いものを当てられる。

 震える指を必死に押さえ、インターホンを押した。


 しばらくして、スピーカーから老人の声が聞こえた。


『はい』


「け、警察です。夜分遅くすいません」


 声が裏返った。

 (俺は……ビビっている……)

 

『警察?』


「ちっ近くで事件がありまして……少し、お話を」


 沈黙のあと、玄関の鍵が外れる音がした。


 (開けるなっ)


 扉が少しだけ開く。


「はい、なんでしょうか」


 白い髪の男が顔を出した。


 その瞬間、身体が横へ突き飛ばされた。


「入れ!」


 男たちが扉を押し開け、家の中へなだれ込んでいく。


「な、なんだお前たちは!」


「金どこだ!」


 奥から女の悲鳴が聞こえた。


「警察呼ぶぞ!」


「うるせえ!」


 鈍い音がした。


 一度。


 もう一度。


 聞いたことのない打撃音と、人間の命が奪われていく声が、頭の中を駆け巡っている。


 俺は玄関に立ったまま動けなかった。

 目の前で、老人の身体が崩れ落ちる。


「何してんだ! お前も入れ!」


 腕を引かれ、倒れた老人の横を通らされた。


 開いたままの目が、俺を見ていた。

 いや、見ているように思えただけかもしれない。


「金庫を探せ!」


 奴らは、もう老人を見ていなかった。

 俺は倒れた老人から目を離せないでいた。


 ガンッ。


 後頭部に強い衝撃が走る。


「うっ」


 視界が銀色に弾けた。

 膝から力が抜け、その場へ崩れ落ちる。


「お前は、なんにも役にたってねー」

「……はっ?」

「生きてんなら、余計なことは言うな。一人でやったと言っとけ、中坊」

「そうそう。言ったら、年少から出たあとも追い込みかけっからな!」


 男たちは笑った。


「おいっ、開かねーならそのまま運べ!それから……」

 声が遠くなってゆく。


 笑い声だけがいつまでも耳に残っていた。


 ◇


「どうする?獅子丸?」

 

「いや主語がねー」

 

「いや、現地まで行く?それともちょっと手前で止める?」

 

「……いや現地でいい」

 少し悩むが、どのみちもう始まっているはずだ。


「じゃあ……あそこだ」

 豪樹が三軒先の家を指している。

 

「おまっ、今のやり取り意味あったか?」

 


 玄関が開いている……遅かったか!?

 単車から飛び降り走って向かった。


 玄関へ飛び込むと鉄のような臭いが鼻を突いた。

 うわっ!ジジイが頭から既に血を流して倒れているぞ。


 頸動脈を触り瞳孔を見た。

 「間に合わなかったか……」


「なっ……死んでんのか?その爺さん」


「豪樹はそこで、待ってろ、誰か来たら呼べ」


 玄関に入って奥を見ると、廊下に悠真が倒れている。

 気を失っているのか?

「悠真、悠真、おいっ!」

 

「うっぅぅ」


「起きたか、悠真、時間がない、簡潔になにがあったか、話せ」

 

「……話?ってお前、獅子丸?なぜここに」

 

「頭の悪いやつだ。時間がない、話せ!」


「いや、あの、とりあえずじいさんとばあさんを殺して、金を奪った……」

 

「ばあさん?どこだ?」


 悠真が震える手で奥の部屋を指した。

 奥の部屋に移動すると老女も倒れていた。


 (死戦期呼吸か……助かるか?)

 悠真のいる廊下へ振り返った。


「悠真!」


 部屋の入口で立ち尽くしていた悠真が、びくりと肩を震わせた。


「こっち来い!」

 

 悠真はふらつく足取りで近づくる。


「胸の真ん中、ここを両手で押せ!」

 圧迫する手の形を悠真に見せた。


「お、俺……」

 

「いいからやれ!」

  

「どうやんだよ」


 俺は、右手を悠真の目の前に広げた。

「生憎、お前らのお陰で俺様にはできねぇ」

 千パーセント皮肉に満ちた顔で言ってやった。


 悠真は震える両手を胸へ当てる。

 だが、力が入らない。


「そんな弱ぇんじゃ意味ねぇ! もっとだ!」


「で、でも……」

 

「骨なんか折れてもいい! 生きてりゃ治る!」


「それともお前の後輩の豪樹も来ている、てめえのケツを後輩に拭かせるか?」


 悠真は歯を食いしばり、もう一度体重を乗せた。


「そうだ。そのまま止めるな」

 頸動脈に指を当てた。

 微かだが、一定の拍動が伝わり始めた。


「脈が戻った」


 バタンッ タッタタタタ

 

「獅子丸くん!」

 玄関から美月の声が聞こえた。


 (車?タクシーか!)


 急いで玄関を出ると、タクシーが発車しそうだ。

 

「ちょ、ちょ、待て待て」

 タクシーの運転席の窓をバンバンと叩いた。

 

「おいおい、強く叩きすぎだよ、君」

 

「そりゃすまん、もう一件行ってくれ」

 

「はぁ?」


 今度は悠真のところへ戻り、項垂れている頭をぶっ叩いた。


「ってー」

 

 しかし、いつものように顔を上げ、睨みつけてくることもなかった。


「——悠真、お別れの時間だ」

 

「……わかってるよ」

 

「警察、何人ぐらい、いた?」

 

「おっ?ヤンキー、ビビってんのか?」

 

「んなんじゃねーけど……」

 

「警察はまだ、いない、少し野次馬はいるが」

 

「センコーが連れてきたんじゃねーの?」

 

「甘ったれるなヤンキー、これからお前は自首しろ」

 

「はっ?」

 

「俺ができるのはここまで()()()……」


 部屋は静まり返っていた。

 

「……ありがとう」

 

「礼を言うのはまだ早い!二つやることがある」

 

「……二つ?」

 

「一つはタクシーの中で()()()救急車を呼べ」

 

「もう一つは——」

 

 悠真の顔がゆっくりと俺を見上げた。

 

「煙草は俺様が、没収だ!きらしちまった」


 悠真は少しだけ笑うと、煙草とライターを差し出した。


 ◇


「美月、話した通りだ。悠真を最寄りの警察署へ連れて行き自首させてくれ」

 獅子丸くんの言葉に黙って頷いた。


 後部座席の窓がゆっくりと閉まる。

「お客さん、向かっていいですかね?」

 

「はいっ管轄の警察署へ」


 俯いて座っていた悠真くんが顔を上げ、みんながいるほうを見た。


「ば〜か!ば〜か!犯罪者!()()()で反省しとけ」

 

「「えぇぇ……」」

(さいご、こんな感じぃぃぃ?)


 獅子丸くんが、口を両指で広げ、むちゃくちゃ悠真くんを煽っている。


 その後ろで、集まった三名のニ年生たちが、心配そうに悠真くんを見ていた。


 そして……タクシーはゆっくりと動き出し、警察署へ向かい走り出した。


 悠真くんは、リアガラスを悲しそうな目で見ていた。


 

「はい、ええ、場所はそこで、あってます。城戸さんです……はい、よろしくお願いします」

 


 悠真くんは119に電話を済ませると、黙って窓の外を見ていた。

 

 なんと言ってあげれば良いかわからない。


「俺……」

 

 悠真くんはそう呟いたが、それ以上なにも言わなかった。

 気の利いた言葉でも思いつけば、教師として立派なんでしょうけど、あんなの映画の中だけだ。


 いつもギラギラして、なにかに対して、怒っていた悠真くん。

 

「ふふっ小学生みたい——」

 

「はっ?」

 

 思わず笑ってしまった。ヤバ……

「いやね?いつも殺すぞーとか、てめーらーとか言っているでしょ?悠真さんは」


「いや……あれは……」


「しょんぼりしている悠真さん見てたら、可笑しくて……ふふっ」


「あんなこと、しちまったんだ……俺だって……」


「——アタシね、獅子丸くんに恋してるの」


「はぁ〜?お前、なに言って……生徒だぞ」


「カッコいいじゃない、今日だって、咄嗟に判断して、奥様は助かるかもしれないんでしょ?」


「それは……そうっすけど……」


「あなたも、最後までカッコよく堂々としていなさい」


「カッコよく……堂々と……」


「そして、どんな時も……そうっ!」


 (悠真くんの顔をしっかり見て言わなきゃ)

 

「今日来てくれた、みんなの目を思い出しなさい」


 タクシーは警察署へ到着した。


「どうされましたか」

 見張りの警察が近づいてきて、窓の外から私へ聞いてきた。


「この子の学校の教員で、保護しました」

「そして児童から事情を聞き、自首させにきました」  

 

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