⑨ メリット
「ところで…⋯。」
グレン・ミラーが話を続ける。
「キミのメリットは何かね?」
もっともな質問である。
「見たところ、私一人の救出のために、相当な技術と労力を費やしてくれているようだが…⋯。」
「⋯…私のメリットは。」
サン・ジェルマンが答える。
「貴重な才能を持つ、貴方の存在そのものを、身近に置く、と言う贅沢です。」
「ほう。」
「もちろん、貴方には、専用の寛げるお部屋を用意いたします。運転手付きのクルマで、外出も自由です。ただし、未来社会の混乱を防ぐため、本名や正体を明かしての活動はできません。」
「そして、貴方の作曲活動に必要な、あらゆる物資を、こちらで調達いたします。不自由な思いは、決してさせません。更に、生活に慣れてきたら、覆面作曲家として活動できますし、新しく楽団を編成するなら、手助けもいたしましょう。」
「よく分かった。しばらく厄介になることにしよう。」
「重ねて、お礼を申し上げます。これで貴方にも、貴重な友人を紹介できます。」
「⋯…友人?」
「まあ、それは、いらしてからのお楽しみということとで⋯…。」
サン・ジェルマンはいつもの含み笑いを見せた。
鷹志は、きっとそれはモーツァルトのことだな、と思った。
やがてビートルは時空を越え、無事に久屋大通公園地下駐車場と、微妙にズレた亜空間に帰って来た。
鷹志から見た感じでは、ホンモノとの違いが分からなかったが、サン・ジェルマンによると、そういうモノらしい。
その証拠に、実際の場所には無いはずの、更に地下深くまで、彼のアジトは広がっているのだった。
しかしながら、グレン・ミラーにクルマから降りてもらうと、彼をエレベーターに乗せ、更に上階に向かった。上昇の途中で地上の様子も見えたが、それはもうテレビ塔から見る景色そのものだった。
これは言われなければ、ホンモノと見分けがつかないな、と鷹志は思ったのだった。
目的のフロアに到着し、3名はエレベーターから出た。そこは、見かけ上は、実際のテレビ塔のレストランと見分けがつかない場所だった。
「今後、暇な時は⋯…。」
歩きながら、サン・ジェルマンが鷹志に話しかけてきた。
「⋯…こちらのフロアで、ウェイターとして待機して下さい。」
「はあ。」
「いつもいつも、今日のような冒険があるわけでは無いのでね。」
「⋯…。」
「もちろん、貴方にも、自由に研究できる時間は差し上げますから。」
「分かりました。」
鷹志は渋々承諾した。
「さて、こちらのテーブルに座りましょうか。」
サン・ジェルマンにそう言われて、3名が席につくと、可愛らしいウェイトレスがやって来た。
「皆さん、コーヒーでよろしいかな?」
グレン・ミラーも、それでいいということだったので、すぐに三杯のホットがリクエストされた。




