⑧ ネゴシエーション
「いやあ、間一髪でした。初めての共同作業、上手く行きましたね杉浦君?」
作戦が上首尾に終わって、すっかりゴキゲンのサン・ジェルマン。
「こんな時に、ヘンな冗談言わないで下さいよ。笑えませんよ。」
そう言いながら、鷹志の頬も緩む。
※ 毎度おなじみの注意事項ですが、以下の会話は全て英語でなされています。しかし、物語の描写の都合上、日本語表記になっています。悪しからずご了承ください。
「キミたちは一体何者なんだ?」
グレン・ミラーが当然の疑問を口にした。
「ああ、申し遅れました、少佐。私はサン・ジェルマン伯爵。歴史調査団長です。そしてこちらは、今日から助手になった杉浦鷹志君です。」
「ええっと、正直、どうするか迷っていたのですが、先ほど共犯者になってしまったので、事実上、彼の助手の杉浦です……って、歴史調査団!?」
鷹志はびっくりした。
「私には色々な肩書があるのですよ。」
サン・ジェルマンがウインクして見せる。
「……ところでグレン・ミラー少佐。」
次の瞬間、彼はもう真面目な顔に戻っていた。
「貴方は歴史上、今の事故で生死不明となっています。」
「そう……なのだろうな。理解できる気がする。」
グレン・ミラーは複雑な表情だ。
「そこで貴方には、選択肢があります。」
「なんだね?言ってみたまえ。」
「私と一緒に来て安楽な隠遁生活を送るか、それとも別の時間、別の場所で、名前を変えて自力で暮らすか、です。」
「このまま家族の元に戻るというのは?」
「無いです。それだと、歴史が狂ってしまいます。そうすると、恐らく時間を管理する者たちに睨まれて、やっかいなことになります。」
「そんな者たちがいるのか?」
「私のような小物ですら、時を越えられるのです。彼らはそれ以上の……まあ、言うなれば、神のような存在です。」
「こんな優れた科学技術を持っているキミでも、勝てない相手なのかね?」
グレンミラーは、相変わらず空を飛んでいるビートルを指して言った。
「まったく。憤りには共感しますが、残念ながら我々とは、文字通り次元の違う存在なのです……まあ無謀にも、ソレに立ち向かおうとしている、女性も居ますがね。」
真田雪子のことだな。鷹志はそう思った。
「どうしますか?」
「……分かった。キミたちについて行こう。」
「ありがとうございます。いやあ、良かった、良かった。もしこの交渉が決裂したら、第三の選択肢❝貴方を海に突き落とす❞を実行するところでした。」
サン・ジェルマンは笑顔でシレっと恐ろしいことを言った。
グレン・ミラーは顔色を変えた。
「もちろん、ジョークですよ。そんなことも可能だった、というだけの話です。」
こんな時の、サン・ジェルマンの笑顔は、なんだか怖い。
「付け加えておくならば、このまま貴方がここを去っても、後継者に引き継がれた貴方の楽団は、未来永劫安泰です。どうぞご安心ください。」
彼は蛇足のようにそんなことを最後に言う、やはり食えない男だった。




