⑩ コーヒーブレイク
その後、コーヒーを飲みながら、しばらく三人で世間話をした。
曰く、ここの時空は西暦1987年であること。
この件に関しては、窓から見える風景を確認するだけで、一目瞭然だった。
曰く、このアジトのモデルとなった名護屋テレビ塔について。
これは純粋に、サン・ジェルマンの趣味だった。
まるでエッフェル塔のミニチュアのような、この塔のデザインが、大のお気に入りなんだそうな。
曰く、なぜ名護屋市にアジトを構えることにしたか。
それは、関東には、東京という強い結界を張った都市が有り、関西にも、京都という更に強い結界都市がある。しかし名護屋市だけが、そこそこな規模の大都市なのに、影響するのはほぼ、熱田神宮と愛知縣護国神社のチカラだけという、比較的結界が緩い場所だった。サン・ジェルマンは、そこに目を付けた。と言ったようなことだった。
……などなど、鷹志もグレン・ミラーの隣席で、その他にも色々な話を、一つ一つ興味深く聞いていたが、サン・ジェルマンが、そろそろ話を切り上げる感じになってきた。
「じゃあ杉浦君、キミは姫島君に仕事を教えて貰ってきなさい。私はこの後、少佐をお部屋にご案内して来ますから。」
彼はそう言うと、先ほどの可愛らしい、小柄で金髪の、メイド服の少女を呼んだ。
「お呼びですか?店長。」
「いつも所長と呼びなさい、と言っているでしょう?」
「ええ~。じゃあ、せめて旦那様とか御主人様では?」
「ウチはメイド喫茶じゃありませんよ。」
「ちぇっ。じゃあ、杉浦君、コッチに来て。」
「ああ、ハイ。」
「この私が先輩として、ビシビシしごいてあげるからね!」
「どうか、お手柔らかに。」
「姫島君、キミもバイトでしょ?優しくしてあげてね?」
「やだなあ。冗談ですよお、店長ぉ。」
姫島さんはカラダをクネクネさせて見せた。
鷹志は、やれやれ先が思いやられるな、と思った。
その後、先程の宣言通り、サン・ジェルマンは、グレン・ミラーをエレベーターに乗せて降りて行き、このフロアから姿を消した。多分、あのコレクション・フロアに案内するのだろう。
鷹志は、彼から姫島君と呼ばれていた少女について行き、カウンターの内部に入った。
二人は食器類や調理器具を確認しながら挨拶をした。
「私は姫島冴子。こう見えても、もうハタチのフリーターよ。シフトは土日だけだけど、今日からよろしくね。」
「僕は杉浦鷹志です。大学院の1年生です。」
「へえ。頭がイイのね。私は動物を操るのが得意なんだけど……主に犬や猫ね。鳥も頑張れば何とか出来るかな。そのチカラを見込まれて、伯爵にスカウトされたのよ。貴方は?どんなチカラを持っているの?」
「僕は、ちょっとしたアクシデントで、ここで働くことになったんだよ。だから特に、超能力の類は持っていないんだ。ただ少し、勉強が得意なだけかな。まあ、ちょっとだけ、先のことが見えると言えば見えるけどね。」
「それは定期テストの対策に役立つ程度?」
「……まあ、そうかな。」
「なあんだ。つまんないの。」
彼女は天真爛漫というより、むしろ子どもっぽかった。何だかホントにハタチなのかも怪しい。
鷹志にとってみれば、今まであまり身近に居なかったタイプなので、新鮮だった。




