⑥ メソッド
「世の中には、天性の才能で時空を移動する者もいます。しかし私は、純粋に科学のチカラで、それを実現しました。」
真田雪子の事かな。と鷹志は思った。
「実は、このクルマに次元転移装置を搭載するまでは……。」
ハンドルを握るサン・ジェルマンが話を続ける。
「キャリーケースに仕込んで、持ち歩いていたんですよ。」
「キャリーケース?」
「ええ、リモワタイプの一番小さなヤツです。シルバーの色が気に入っててね。いかにも未来のギヤっぽいでしょ?」
「ええ、まあ……。」
キャリーケースに詳しくない鷹志は、曖昧な返事をした。
「このタイプの欠点は、基本的に、持ち歩いている本人の移動しかできない、というところでした。つまり、他の大きな荷物を持ち帰ったり、他人を連れて帰ったりすることが出来なかったのです。」
「……なるほど。」
「しかし乗り物に装置を仕込めば、その中に荷物は詰め放題になります。」
「確かに。」
「私はヒントをくれたドクター・エメット・ブラウンに……いやロバート・ゼメキス監督に感謝しています。」
「ちなみに、今開発中のものは一人用で、腕時計サイズまで小さくしたい、と思ってます。幸いなことに未来の出来事が分かるので、資金の方は、いつでも潤沢に準備可能です。しかし私の……いや私のチームの科学力には自負がありますが、装置の工夫にはまだまだ努力が必要なようです。」
そうか。ここまで大がかりなことをするからには、やはり個人のチカラには限界があるのだな、と鷹志は理解した。
二人がそんなことを話しているうちに、車窓から見える景色は通常に戻り、クルマは無事、目的地に到着したようだった。
とは言うものの、ビートルはまだ空を飛び続けていた。
目の前には雲があり、眼下は海だった。
鷹志は、セスナに乗っているのと錯覚しそうだった。
ふと鷹志は、センターコンソールに視線を向ける。
そこに示されたデジタルの表示は、1944年12月15日11時00分。北緯50度0分西経5度10分。となっていた。
イギリス海峡の上空か?
すると目の前に、エンジントラブルなのか、徐々に高度を下げて行く一機の航空機が現れた。
アレは……UC-64か。鷹志は咄嗟に、機体の型式を特定した。
実は鷹志は、航空機マニアであった。
そしてそれゆえ、過去の航空機事故にも詳しかった。
そして、気づいてしまった。
アレに乗っていた有名人は確か…オルトン・グレン・ミラーだ!
まさか今から、あの落ちて行く機体の中の彼を救い出すというのか?
そんな、無茶な!
鷹志には信じられなかった。




