⑤ コレクター
モーツァルトの作曲の邪魔にならないよう、二人は早々に退出した。
「いかがですか?コレが証拠の一つですが。」
サン・ジェルマンが鷹志に尋ねる。
「彼は確かにあのモーツァルトにしか見えませんね。」
そう答えるしかない鷹志。
「それはそうと、コレクションとは、どういう意味なんですか?」
「言葉通りの意味ですよ。私の趣味なのです。歴史上に散らばった才能を収集することが。」
「死んだ人間を生き返らせる?」
「いえ、連れて帰るです。」
「!?」
「各人物の生きた現場に行き、生死不明か、亡くなったのに遺体が見つからない人物を、です。」
「⋯…。」
「さらに言うなら、私の嗜好に合う人物だけを選定しています。」
「⋯…そんな。」
「ですから、その人物たちが、文字通り私のコレクション、という訳なのです。」
サン・ジェルマンは、涼しい顔でとんでもない事を鷹志に語るのだった。
二人はまたエレベーターに乗り、さらに上の階に上がった。
扉が開くと、そこは地下駐車場のようだった。
サン・ジェルマンは鷹志を一台のクルマの前に案内した。
それはシルバーの車体色の、旧式のワーゲンビートルだった。
「そしてこちらがもう一つの証拠。私自慢のタイムマシンです。」
「えっ?」
「まあ、乗って下さい。」
そう言うと、サン・ジェルマンは助手席のドアを開けた。
続いて彼自身も左ハンドルの運転席に乗り込んだ。
鷹志が車内を見ると、確かに見慣れない機器がセンターコンソールに並んでいた。
「実はバック・トゥ・ザ・フューチャーと言う映画に感銘を受けましてね⋯…。」
「ああ、その映画なら僕も観ました。でも、まさか⋯…。」
「その、まさかなんです。」
サン・ジェルマンは、愉快そうだった。
「少しドライブに行きましょう。」
彼はそう言うと、エンジンを始動した。
「いったい、どこへ?」
「どこへでも。何しろ、"道は必要無い"のですから。」
彼はニヤリと笑った。
ビートルはゆっくり駐車場から出ると、すぐにその場で垂直上昇した。
「ああ、そうそう、先程貴方にぶつけてしまったのは、このクルマです。重ねてお詫びします。」
サン・ジェルマンは、今さら思い出したかのように鷹志にそう言ったが、今彼はもう、それどころでは無かった。
「クルマが空を飛ぶなんて!⋯…と言うか、目撃者多数ですよ?いいんですか?」
「大丈夫。光学迷彩で外部からは探知不能です。」
そう言いながらサン・ジェルマンは、コンソールのボタンを何やら操作して、ギヤをドライブに入れた。
車窓から眼下に見える、名護屋市栄町の風景が、滲むように流れ出した。
クルマは確かに時空を越えつつあるようだった。




