④ アマデウス
「このフロアには……。」サン・ジェルマンがまた話し出した。
「一種のゲストルームが並んでいます。」
「ゲスト?」
「別の言い方をすれば、私のコレクション・フロアなのです。」
鷹志には、❝コレクション❞という言葉のニュアンスが何となく引っかかった。
「見たところ、歴史上の偉人たちの名前が連なっているようですが、ニックネームか何かですか?」
鷹志が当たり前の疑問をぶつける。
「いいえ。とんでもない。各人のれっきとした本名ですよ。」
サン・ジェルマンが"当然だ"という顔で答える。
「……そんな?」
「ただ、実はまだ空室が多くて。今後来ていただいた時に、くつろいでいただくために用意しているのです。」
何だ、そうなんだ……って、今後呼ぶ気満々じゃないか!と心の中でツッコむ鷹志。
「……そうだ。モーツァルトは在室してますよ。お会いになりますか?」
「ええっ!?」
サン・ジェルマンが躊躇なくドアの前に行き、ノックした。
すると中から操作されたのか、自動で扉が開いた。
部屋の壁には、完璧な防音設備がなされているのだろう。
ドアが開くのと同時に、ピアノのような音色……いや、チェンバロだろうか?……美しいメロディが奏でられているのが聞こえてきた。
そして、ブラウンを基調とした、落ち着いた雰囲気の部屋の中央で、鍵盤を叩いている人物は、35、6歳の白人男性……それはまぎれもなく、あの音楽室の肖像画でよく見たモーツァルトだった!
……いや、待て。まだソックリさん、てことも有りうる。鷹志が往生際悪く、そんな事を考えていると、その人物が手を止めて振り返った。
「ああ、お帰りなさい。サン・ジェルマン伯爵。そちらの若い方は?」
それは訛りの有るドイツ語だった。
鷹志は大学でドイツ語を専攻していたので、どうにか意味を掴めた。
「ただいま。アマデウス。こちらは杉浦鷹志君。彼も新しいゲストですよ。」
「はじめまして。どうぞよろしく。Herrスギウラ。」
「こちらこそ、どうぞよろしく。ああ、タカシでいいですよ。」
鷹志は、かろうじてドイツ語で返す。
「今、ちょうど、新しいメロディが降りて来たところなんだよ。続けても良いかな?」
「どうぞ、どうぞ。おかまいなく。」
鷹志はドギマギしてしまった。
モーツァルトは再びチェンバロを弾き始める。
聞こえてくる調べは新しい……でも紛れもなくあの、モーツァルトのメロディだった。今や鷹志は、この状況を信じるしかなかった。




