⑫ ポーカーフェイス
「杉浦鷹志君という友だちが居ることは、昔、お兄ちゃんから聞いて知っていたの。」
よく喋る少女は話し続ける。
「⋯…でもまだ名前と顔が一致していなかったから、さっき貴方が名乗った時は、正直、驚いたのよ。」
「⋯…そうだったんだ。」
この子、実は中々のポーカーフェイスなんだな、と鷹志は思った。
「ウチのお兄ちゃん、当時つきまとわれていた、雪子さんのことまで相談したらしいじゃない?あなた、余程聞き上手なのね?」
確かにそうなのだった。鷹志はあの頃、一緒に勉強する合間に、雪村からよく、謎の少女雪子の話を聞かされていたのだ。
ただあの頃は、受験勉強の疲れから、半ばノイローゼ気味の妄想話かな、とも思っていたのだが⋯…その後も中学校を卒業するまで、彼が似たような話を繰り返していたので、鷹志としても、気にはなっていたのだった。
「まあ、私もベラベラ喋っちゃったけど⋯…だって貴方はイイ人よね?私には分かるの。」
「⋯…さあ、どうかな?」
「ねぇ。サン・ジェルマンなんかの言いなりにならないで。私の味方になって。」
「僕だって、そもそも彼の言いなりになんか、なるつもりは無いよ。」
「ホントに?もうすっかり、彼の術中にハマっているのに?」
そう言われてみれば、確かにそうかもしれない。何だか、あれよあれよと言う間に、ここで働くことになってしまった。鷹志はあらためてそう思った。
「ねぇ。貴方が遭遇したアクシデントって、どんなモノなのかしら?そこからもう、彼の仕業かもしれないのよ?」
⋯…あの交通事故か。確かに自分らしくない、注意力散漫な感じだったな。由理子に言われて、鷹志の心の中にも、違和感が出て来た。
そうだ。彼は時間の魔術師、サン・ジェルマンなのだ。その気になれば、止まった時の中で、好きなように活動することもできるはず⋯…?
「⋯…ずいぶん仲良くなったようですね?」
突然、背後から声をかけられて、二人ともビクッとしてしまった。
いつの間にか、サン・ジェルマンがフロアに戻って来ていたのだ。
彼は相変わらず、笑顔だった。
今となっては、その微笑みも何だか怖い。
油断していた。まったく気配を感じなかった。
鷹志は心の中で舌打ちした。
「このフロアでの仕事は覚わりましたか?」
「…⋯え、えぇ。何とか。」
鷹志はどうにか平常心を装った。
「バッチリです!」
由理子がウインクして答える。
やっぱり、この娘のポーカーフェイスは凄いな。
鷹志はあらためて、そう思ったのだった。




