⑬ ワークシステム
「それでは、そろそろキミの部屋も紹介しておこうかな。」
「⋯…ああ、ハイ。」
鷹志はやっとのことで返事をして、サン・ジェルマンについて行く。
そんな二人に、由理子が後ろから元気に手を振る。
「じゃあ、またね〜鷹志君!」
ついさっきまで、あんな話題を喋っていたのが、ウソのような天真爛漫さを演じる由理子が、鷹志には信じられなかった。
鷹志がサン・ジェルマンと一緒にエレベーターに乗ると、やはりそれは下降した。
目的のフロアに到着して、開いた扉から出ると、そこは最初に鷹志が居た部屋のある、あの廊下だった。
そして彼は、処置室を少し通り過ぎた場所にある部屋に、案内された。
「この部屋を自由に使って下さい。」
そうサン・ジェルマンに言われた部屋に、彼は入ってみる。そこはバス、トイレ付きで、大学で見慣れた実験器具が、これまた実験用の黒い机の上に、いくつか用意されていた。しかも、傍らには冷蔵庫にカウンターバー、ソファーベッドまでもが置かれていた。
それはまるで、品質の良い高級ホテルの一室のようだった。
「先程、グレン・ミラー少佐にも言ったように、貴方にも、研究のために足りないモノは、何でも、いくらでも、補充します。遠慮無く、いつでも申し出て下さい。」
そう言われた鷹志も、グレン・ミラーと同じことを、サン・ジェルマンに尋ねた。
「それで⋯…貴方のメリットは何なのですか?」
「若い才能を育むためになら、私のメリットなど度外視ですよ…⋯と、カッコつけたいところですが⋯。」
「⋯…ですが?」
「⋯…正直に言うと、何か研究の成果があれば、私にも少々分けて頂きたいなと⋯…。」
そんな控え目な言い方をするサン・ジェルマンは、やはり憎めない男だった。
「了解しました。いいでしょう⋯…いや、むしろありがとうございます。」
「こちらこそ。そしてこれで三度目ですが、改めて交通事故の件は、謝罪します。」
「⋯…ああ、もういいですよ。それは。」
鷹志は思わずそう言ってしまった。
やはり自分は彼の術中にハマっているな、という自覚ももちろんあったのだが⋯…。
そして鷹志は、今は春休みだからここに何度も顔を出せるが、4月からは大学院に戻るので、主に月、水、金曜日の勤務になるが、それで良いのかと確認し、サンジェルマンから了承を得た。
ここまでが、鷹志とサン・ジェルマンとの出合い…⋯言うなれば馴れ初めの話だ。
彼はその後、サン・ジェルマンに拘束されることも無く、無事に大学院に戻り、時々名護屋テレビ塔の亜空間に顔を出すようになったのだった。
⋯…もちろん、たまには土日にもそこに立ち寄り、由理子との仲も育んで行くのだが⋯…それはまた、別の話なのである。
……以下、第14巻に続く。




