卵焼き
翌日の日曜日の朝、士郎は卵焼きの焼ける匂いで目を覚ました。
「お母さん、これでいいの?」
「ええ。よくできてるわよ」
どうやら母が妹に料理を教えているらしい。花嫁修業だろうか。
「わたしお兄ちゃんのお嫁さんになるんだから料理くらい出来なくちゃね」
お嫁さんって……優希の最終的な望みはそれなのか。まったく俺より人間的にすごい奴はいっぱいいるのに、なぜ俺にこだわるのかが、意味不明だった。
起きて歯磨きをして食堂に向かう。
「おはよう優希。おはよう母さん」
「はいおはよ。そうだ士郎。優希の作った卵焼き食べてみなさい。美味しいわよ」
「ああ。ありがとう」
テーブルの上に乗った皿の上に黄色い色の卵焼きが乗っていた。
箸を取り早速口に入れてみる。
「うん。旨い」
甘さが控え目で士郎の下によく馴染んだ。母の作った卵焼きより砂糖は少ないようだが、十分美味しかった。
「えへへお兄ちゃん。これでわたしいつでもお兄ちゃんの奥さんになれるでしょ」
好き好きアピールが妹からこんなに来るのが士郎は逆にうざくなってきた。だが指摘はしない。また落ち込まれたら困るからだ。
「なあ優希。お前は他に気になる男子はいないのかよ」
「はい?」
優希が首をかしげる。
「お兄ちゃん以上に気になる男子なんている訳ないじゃん」
「勿体ない。料理上手な女の子を嫌いな男はいないぞ」
「えー~。またそういう事ばかり言う。わたしが好きなのは士郎お兄ちゃんだけだよ」
士郎は迷っていた。優希が自分を好きなのは純粋な恋心かもしれない。出来れば受け入れてやりたい。だけど自分の精神が『妹』を恋人にする事には拒絶反応を示しているのだ。兄妹でいた時間があまりに長過ぎたかもしれない。
ならどうだろう。それだけ長期間妹だった女の子を恋人にする覚悟にはまだまだ時間が必要じゃないのか?
「卵焼き美味しかったよ。ありがとう」
士郎は席を立った。
「え? 卵焼きだけじゃなくてご飯も食べなきゃだめだよ」
「今そんな気分じゃないんだよ」
じっくり考えるために、士郎は自分の部屋に戻っていった。




