【掌編】あれるぎぃの対処には
「っックション!!」
由比が盛大にくしゃみをするのを見て、テオは驚いて駆け寄る。
「ゆい、びょうき!?」
「んん……。病気って言えば病気なのかなぁ。花粉症だよ。アレルギー性鼻炎。目もかゆいし……」
それを聞いて茅は呆れたようにため息を吐く。
「アレルギーの薬、ちゃんと飲んどきなって言ってるじゃない」
「だってあれ、眠くなるんだもん。勉強に集中できな……ックシュン!」
重度の花粉症を患っている由比の為に、春と秋は空気洗浄機がフル稼働されている。それでも限界はあるもので、特に春は由比はいつもくしゃみと目の痒みに悩まされていた。
「かふんしょー……あれるぎぃ?」
テオの疑問には湘が答えた。
「春とか秋には、植物が子孫を残そうとして花粉を飛ばすんだ。でも、人間の体はその花粉を悪いものだって過剰に反応して拒否反応が出る。それがアレルギーだよ。他にもアレルギーは色々あるけどな。食べ物で拒否反応が出る人もいる。花粉症はその中でも疾患してる人が多いメジャーなアレルギーなんだ」
「ふぅん。カルジャネスのようせいみたいだ」
その言葉にきょとんとするのは東條の家の面々だった。
「カルジャネスの……妖精? それ、シオドミアンのフェアリーか?」
湘の言葉にテオは頷き、言う。
「そう。はなさくころと、くさかれるころに、こどもをつくるちいさなフェアリー。でも、そのフェアリーのりんぷんはにんげんにはどくなんだって。しにはしないけど、くしゃみがでたりするんだ。だから、にんげんはそのシーズンは、いえのなかにフェアリーがはいってこないように、げんかんにナッツクッキーとミルクをおくんだって。そうしたら、フェアリーはそのいえにはいってこない。それでもすこしははいってくるフェアリーはいるけど」
「テオくんの世界にも花粉症みたいなのがあったのねぇ。ナッツクッキーとミルクがアレルギーの対処法か。面白いわね」
興味深げに茅が頷きながら聞いている。テオは由比に大真面目に言う。
「ゆいもナッツクッキーとミルクをおくといいよ。すこしだけど、らくになるらしいよ? おかあさんがいってた」
由比は鼻を啜りながら笑う。
「あはは、ここがシオドミアンならそうするんだけどなぁ。でも、この世界にそのカルなんたらの妖精はいないよ。あるのは鬱陶しい花粉だけ。あーあ、なんでこんなに花粉飛ぶのかなぁ」
笑いながら湘が言う。
「植物だってカルジャネスの妖精みたいに、子作りに必死なんだろうさ。ほら、由比。落第は逃れたんだから、勉強はそこそこにしておいて薬飲め」
それに次いでエノシマが言った。
「今の時代ではまだこれといった花粉症の特効薬はでておらんからのう。今ある対処法でどうにかするしかないじゃろう。由比、勉強が楽しいのは結構じゃが、まずは体を正常に保ってからじゃぞ」
「そういえばエノシマは平気そうだね。私なのに。エノシマの時代には花粉症の特効薬が出来てたの?」
「うむ、今から50年ほど先のことじゃったが、花粉除けの魔術が開発されてのう。儂もそれを施し、花粉症は克服したぞ」
それを聞いて由比はエノシマの肩を掴み、揺する。
「えぇー!! そんな便利な魔術があるなら真っ先に教えてよ!!」
しかし、エノシマは素知らぬ顔でせんべいの袋を開ける。
「馬鹿者。この時代に無いものを教えたら、儂がまた特魔の世話にならねばならんじゃろう。あと50年の我慢じゃ。耐えろ、由比。平和になった今の時空ならば、それまでに魔術ではなく薬で対処できるようになるかもしれんしな」
「くぅっ……」
悔しそうに由比はうなだれる。そして茅に薬の箱を手渡された。
「ほら、私達の世界のナッツクッキーとミルクよ。しっかり予防しときなさい」
「はぁい……」
諦めたように由比は箱からカプセルの詰まったシートを取り出し、数粒手に乗せて水で一気に飲み干した。
それを見ていたテオは、湘に耳打ちする。
「しょう、やっぱりナッツクッキーとミルクはあったほうがいいよ。このせかいにもカルジャネスのようせいがまぎれてないとはかぎらないもん」
「そうだな、明日作ってみるか」
湘はお茶を飲みながら笑って言う。
翌日、由比は半日眠そうにしていたが、くしゃみの回数は減り、目も充血が抑えられていた。
どちらのアレルギーの対処法が効いたのか、知るものは家にはどこにもいなかったが、テオは満足そうにしていた。




