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大阪から東京へ、東京から大阪へ

 西ノ宮健吾は悩んでいた。スマートフォンをじっと見つめて、悩んでいた。


 電話はダメだ。いつもの調子で喧嘩腰になってしまう。

 メールなら、少しはマシだろうか。

 だが、無視されてしまったら立ち直れる自信がない。それでも、これしか道はない。

 子供の頃のように。さりげなく。かといって媚もせず。自分らしく。……非常に難しい。


 脳内で何度もシミュレーションしてみるが、うまく出来るか解らない。こればっかりは、相手がどう出るか想像ができない。


 今までの自分の行いを悔やむ。

 何故、ああまで意地を張ってしまったのか。

 それでも意を決し、最初の一文字目を打った。



 夜、由比がひとり勉強をしていると、スマートフォンが震えた。誰だろう。この間アドレスを教えた砂月くんだろうか。

 そう思いながら由比がメッセージアプリを開くと、意外な人間からのメッセージが届いていた。


「んん……?」


 しかし、内容がおかしい。いつもの嫌味ったらしさはなく、数年ぶりに連絡をしてきた幼馴染のような気楽さが文面から読み取れた。なので、それに自分も応じることにした。返事の文句を考えているが、妥当に済ませる。



「返ってきた!!」


 健吾はスマートフォンに飛びつき、メッセージアプリを開く。そこにはそっけない返事が書かれていた。けれど、無視されなかったというだけで、彼にとっては大金星だった。どうやら今勉強をしていたらしい。

 あまり邪魔をしてもいけないかもしれない。そう思い、簡潔に労いの言葉を打つ。返事は期待しない。そう思いながら。



 間髪入れずに返事が返ってくる。由比がペンを置き、スマートフォンを見ると、そこには彼らしからぬ労いと自分を褒める言葉が綴られている。

 ……相手の意図が解らない。

 彼は、仮にも敵だった人間だ。少なくとも、自分はそう思っていた。そんな人間に褒められても、喜びより気味の悪さが際立つ。なので、それを素直に打ち込んだ。



「あー……アカンか……。そらそうか……」


 誰に言うでもない独り言を呟き、ベッドに突っ伏す。それでもスマートフォンは手放さない。無意識に打っていたのは、いつもの厭味ったらしい言葉。送信した後に後悔しても遅かった。



「……ふふっ」


 いつもの調子に戻ったメールの相手に、思わず由比は笑みが浮かぶ。こうでないと彼らしくない。嫌味を言わない健吾なんて、健吾らしくない。そう思いながら、相手の用件を訊く。



 由比の用件を訊ねるメッセージに、健吾はすこし迷う。用事。なんだろう。特に無い、と言えば相手は怒るだろう。

 だが、実際そうだった。今、何をしているのか気になった。それだけだ。なので、素直にそれを打ち込む。送信。



「……はぁ?」


 健吾からの返信は、思いもよらないことだった。本当に、数年ぶりに連絡をくれた幼馴染のような内容だ。

 スマートフォンを置き、由比は少し悩む。

 ……昔、仲が良かったのは事実だ。幼馴染と言っても、間違いではない。健吾は少し年上で、それでも由比の子供っぽい遊びに合わせて遊んでくれた。

 それを思い返すと、何故あそこまで嫌い合うようになったのか、解らない。きっかけは健吾からだったように思う。ある日突然高慢になり、自分を劣等生と見下すようになった。

 しかし、今のメール相手は昔の健吾に戻ったような、そんな空気を感じる。

 少し背の低い自分に目線を合わせ、話しかけてくれているような。

 労いの言葉に素直に返事を打つ。そして、送信のボタンをタップした。



 由比からの返信はそっけないが、素直な言葉だった。健吾は喜びに打ちひしがれながら、更に激励の言葉を打つ。

 あぁ、自分はこんな些細なことで喜ぶような人間だったのか。

 なにがきっかけであんなに捻くれてしまったのか、今ではもう思い出せない。父親の「東條の末っ子はできそこないだ」という言葉を鵜呑みにし、自分が遥かに優れていると勘違いしたのが始まりだったのかもしれない。

 けれど、今はそんなことは思えない。

 由比は立派な召喚獣を召喚できるほど優れた才覚があり、そして、今もそれをもっと伸ばそうと努力を怠っていない。だから、今なら素直に思える。

 東條由比は、自分より優れた魔術師であり、愛らしい普通の女の子でもあり、自分が恋い焦がれている相手であるのだと。

 けれど、それを伝えるのはまだ早すぎる。

 出足は遅れた。だから、これからゆっくり追いつけるように、自分が頑張らないといけないのだと。

 ただ、彼女には無理はしないで欲しい。そう思い、返事を打って送信した。



「……変なの」

 健吾からの激励のメールを見て、由比は少し微笑んだ。

 また戻れるだろうか。まだ戻れるだろうか。幼い頃、一緒に遊んだあの頃のように、仲良くなれるだろうか。

 自分の中のどこかで燻っていた感情が溢れてくる。

 まだ、彼のことを「けんちゃん」と呼んでいたあの頃に感じていた、仄かな恋心。幼すぎて、恋だとすら思わなかったあの頃。

 今の感情はそれとはずっと違うけれど、友達に戻れるなら、戻りたいと思った。もしも、彼もそう思っているのだから、こんなくだらないメールをくれたのだとしたら、嬉しい。

 だから、返事を打つ。なんてことない、お礼の言葉。


「ありがとう、勉強頑張るね」と。

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