リセーてきへの道
校門の近くでそわそわとテオが待つ。待っている相手は主である由比でもあるが、別の用件もある。今日は野球部の練習は休みの日だと聞かされていた。だから、テオが待つのは『マブダチ』の二人だ。
「お、テオ。東條ならこの間の筋力強化の小テストの補習を受けてるぞ?」
砂月と連れ立ってやってきた阿方がそう言うと、テオはもじもじしながら二人に言う。
「うん。おそくなるってきいて、むかえにきた。でも、それだけじゃない。ようじとせいすけにもはなしがあった」
「俺ら? お、マブダチの本領発揮って感じだな!」
砂月が笑って言うが、テオは神妙な面持ちのままだ。
「うん。テオとようじとせいすけは『マブダチ』だ。『マブダチ』は『しんゆう』でしょう? しょうにきいた。『しんゆうだからできるはなしもある』って。ひみつのはなし、できる?」
俯いて言うテオに、阿方が心配そうに訊ねる。
「東條に話せないことなのか?」
「うん。ゆいがきいたら、きっとかなしいかおをする。おとぎりや、しょうにははなせない。かぞくだから。だから、ようじとせいすけにききにきた。すこし、はなしできる?」
それを聞いて、砂月がどんと胸を叩く。
「そうか……。よし、俺はいいぞ! 清輔は?」
「俺も別にいいけど……何か悩みか、テオ?」
テオは小さく頷いて言う。
「テオ、あたまにちがのぼると、なにをするかわからないんだ。このまえ、ゆいがおそわれたときも、あいてをころしたいっておもった。テオはもっと『リセーてき』になりたい。ようじはとにかく、せいすけは『リセーてき』だから、そうだんにきた」
「俺はとにかく、って酷ェな、テオ……」
「まぁまぁ、陽二。俺が理性的かはとにかく、テオはその相手に何をしたんだ?」
「ゆいに『ころすな』ってめいれいされた。だから、ころさなかった。すこしおどしただけ。でも、ころしたいくらい、あいてがにくかった。ゆいにこわいおもいをさせたから」
それを聞いて砂月も阿方も悩むように唸り声を上げる。
「……俺、ガキの頃にテオじゃないワーウルフを見たことある。確か、オールドエンドのだった。すぐに通報されて、特魔に撃退されたけど、そいつ、無差別に人間を襲ってた……。俺、怖くて縮こまってることしかできなかったんだ」
砂月の告白にテオは驚き、声を上げた。
「でも、ようじ、はじめてテオをみたとき、そんなそぶりみせなかったよ?」
「そりゃ、由比の召喚獣だって知ってたからだよ。由比は、まだ埋もれてるだけで、立派な魔術師になれる才能があると思う。だから……その、まぁ、とにかく、俺は由比を信用してる。あいつが、妙なものを召喚しないって」
砂月は言葉を慎重に選びながら言う。
「お前は十分理性的だよ、テオ。本当に本能に飲まれた幻獣は、見境なく、思ったままに動くから。陽二が見たワーウルフもそうだったみたいにな」
それを聞いて阿方も小さく頷き、言う。続けるように砂月が言葉を繋げる。
「テオが、これを由比が知ったら悲しむと思ったのは、自分が変わろうとしてるのを由比が望んでないから、だろ? 聞けば、お前は今年召喚されたばっかりって聞くじゃないか。でも、ちゃんと由比に従ってる。普通、召喚獣をきちんと従わせるには、少なくとも2~3年の時間は調教しなきゃいけない。だから、俺もテオは十分理性的だと思う」
そして、阿方と砂月は声を揃えて言う。
「テオは無理に変わる必要はない」と。
テオは不思議そうに首を傾げる。砂月が言葉を続けて言った。
「そうなりたいって思う理想って、誰にだってあると思う。でも、その人には自分は絶対になれないから、なろうと努力する気持ちが大事だと思うんだよ。テオの理想が誰なのか俺には解んねーけど、そうなりたいって誰かがテオの中にいるんだよな、きっと。でも、テオはテオだ。その人にはなれない。でも、そうなりたいって思えるってことは、理性がきちんとあるからだと思うんだけど……うーん、俺、賢くないからうまく言えないな……。清輔、頼む」
砂月にバトンを渡された阿方は苦笑いを浮かべながら首を横に振った。
「いや、陽二の言う通りだ。テオが自分で考えて、なりたい理想がいるから努力したいって思うなら、それは十分理性だよ。だから、テオはそのままでいい。陽二も言ってたけど、急に変わったら東條が驚く。だからお前は『東條が悲しむ』って思ったんだろ? でも、テオがそのままなら、東條だって悲しまないだろ?」
「テオは、テオのままでいい?」
テオの言葉に、阿方と砂月は笑って「そうだ!」と太鼓判を押した。
「変わるとしたら、自然に変わってくる。何があったのか知らないけど、それこそ東條がもっと立派な魔術師になれば、テオも自然と何が良くて、何が悪いのか、もっと理解できるようになるさ。お前も、東條も、まだまだ成長段階なんだから」
阿方の言葉にテオは納得したように頷いた。
「ゆっくり、せいちょうすればいいんだね」
「そーだ! だから、焦ることねえって。でも、俺嬉しいよ。テオが俺たちに内緒の話をしてくれるなんてさ! これでこそマブダチって感じだよな!」
「はは、そうだな」
ワーウルフと、亜人の子孫と、人間が笑い合う。通りすがる人々はそれを不思議そうに見ていた。けれど、彼らは気にしない。
「じゃあ、俺たち先に帰るな。由比によろしく!」
「わかった。ようじ、せいすけ、バイバイ」
「またな、テオ」
テオは歩き去る自分の『友人』二人を見送り、再び校舎を見上げる。この建物のどこかに、自分の主がいる。
「ゆい、テオはテオのままがんばる。だから、ゆいもがんばって。ゆいは、ゆいのままで」
主に届くわけでもない言葉を呟き、テオはそっと笑いを噛み殺した。




