【掌編】時空転移者の視線の先
通う学校は、自分が小さな頃に通っていた小学校と同じだった。魔力の適性試験を受ければ、基礎魔力はDと判定された。まぁ、普通の人間よりはあるだろうが、魔術師になるには心もとない。だから、きっとこのまま普通に小学校を卒業して、中学校に上がり、普通科の高校を受験するのだろう。
東條家の遠い親戚だったが、両親と死別し、本家に引き取られたという『設定』の東條エノシマはランドセルを背負い、ため息を吐く。
「エノシマちゃん、どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
席が近く、人懐っこい性格の級友が自分を見て不思議そうな顔をしていた。
彼女に言っても信じないだろう秘密を抱えたまま、自分は二度目の大人になるのだ。
「エノシマちゃん、今日いっしょに遊ぼうよ。駄菓子屋のまめやで集合ね」
「うん、いいよ」
子供として振る舞うのはなかなか疲れる。けれど、こうしてただの子供として遊ぶということも初体験なので、少しだけ心がうきうきする。こんなこと、由比に言えばきっと笑われてしまうだろう。けれど、由比だってただの小学生として遊びたかったはずなのだ。名家の出身、膨大な量の魔力を持ち、期待され、それに答えられない自分が歯がゆかった幼少期。
何故自分は子供の姿で時空を転移したのだろう。
そそっかしい自分のことだ、敷いた陣が間違っていたのかもしれない。
けれど、こうして人生をやり直せる喜びは、きっと神様が与えてくれたチャンスなのだろう。
普通の人間として生きてみたかった、東條由比が見た夢をなぞっているのだろう。
「連花ちゃん」
「なーに、エノシマちゃん」
「今日は何して遊ぼうか」
流行りのゲームもなにも持っていない自分だけど、子供の体力は無尽蔵だ。どんなことだって遊びになる。
二度目の未来はどんな世界になるだろう。それは自分にも解らない。けれど……。
「魔法使いごっこをしようよ! エノシマちゃんの家、魔法使いの家なんでしょ?」
「うん! じゃあ、魔法使いごっこね!」
本当の魔術師だった自分が魔術師の真似事をして遊ぶなんてどうかしている。けれど、それを笑い飛ばせるくらいには、自分も吹っ切れた。
ただ、今は明るい未来があることだけは確信できる。とりあえず、健吾が由比にいつ告白できるかを密かな楽しみにして、今はただの子供を謳歌しよう。
時空転移者エノシマは、無邪気に笑いながらまだ見ぬ未来を夢見る。
平和を勝ち取った代償は、彼女にとって、罰か、誉か。
それすら、今のエノシマには解らないのが、何より喜ばしかった。




