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09 各々の役目

 ガルドとヴァルクの勝負を見終わった後、リナスはアドルフと一緒に夕飯の準備をしていた。

 

「リナス、食材取ってきたよ!」


 森の中からアドルフが帰ってきた。

籠に、キノコや山菜などが山盛り積まれている。

 

「相変わらず、よくこんなに見つけてこれるねアドは!お姉さんが褒めてあげる!」

 

 いつも通り、リナスがアドルフの後ろに回り込み抱きつく。

 

「ちょっとリナス!食材落としちゃうよ!」

 

「もう、アドが可愛いからいけないんだよん!」

 

 リナスにとって、アドルフは年の離れた弟のような存在だ。

そしてアドルフにとっても、それは変わらない。

 

 記憶を失ったアドルフにとって、ミレイナとトラヴィスが父と母であり、

ガルドとリナスは、年の離れた兄や姉に近い存在だ。

 

 ガルドとリナスはあくまで護衛という雇われの立場であるが、かなり長い付き合いでもある。

もはや親戚のような感覚すらある。

 

 そして行商という仕事は危険な仕事であることに違いない。

何度も死線をくぐり抜けるというのは、並みの信頼関係では切り抜けられないものである。

だからこそ、こういった感覚になるのも無理はないのだ。


 食材を選別しながら、アドルフはふと気になったことをリナスに訊く。

  

「リナス、そういえばラパンにも”魔晄炉”はあるの?」


「あったよ……七支樹があるということは、魔晄炉は確実にあるんだろうね」


「やっぱりあるんだね……」

 

 ――魔晄炉。


 七支樹の話をすれば、避けて通れないモノがある。

それは魔晄炉と呼ばれている建物。


 七支樹を囲うように建てられている建造物である。

この魔晄炉に関しても、七支樹と同様にその起源はよく分かっていない。


 その見た目は、巨大な七支樹を円柱のように囲んでいる建造物。

外から見たら、どこに大樹があるかなど到底分からないほど巨大な建造物である。


 世間一般的には、魔晄炉のおかげで魔物が寄り付かないという話になっている。

それが嘘であるともいえないが、本当のことは誰にも分からない。


 アドルフは、レオフォード帝国で魔晄炉を見たことがある。

帝国の端でも、魔晄炉は見えるほど巨大だったことを覚えている。


 とても人間が作れるようなモノではないと感じた。


 だからこそ、あんな巨大な建造物が、他の国にもあるのが不思議に思えたのだ。

 

 そしてアドルフが食材を切りながら、リナスに何気ない質問をする。

それは特段、深い意味のない疑問だった。

 

「リナスは護衛以外に何かやりたいことはないの?」

 

 その質問にリナスは考えながら答える。

 

「んー……。やりたいことねぇー」


 リナスは、昔から護衛をやっていた訳ではない。

狩人であった父から弓を教わり、たまたま弓の腕が良く、その技術で稼げる職業が護衛であったというだけだ。


 そして運の良いことに、優しく温かい雇い主に出会えたことで続けている。

この世界では幸運な方だとリナス自身も思っていた。

 

 どこかに泊まれるだけのお金があり、飢えないための狩猟も行え、またトラヴィスという行商にも出会えた。

また護衛稼業に身を置いてきたことで、他の生き方を考える余裕もなかったのかもしれない。

 

 かと言って、いつまでも護衛という仕事を続けていけるのか分からないのも正直なところでもある。


 (何かやりたいこと……)


 そこで一つだけ、リナスは古い記憶を思い出す。

 

 それは昔、父が語ってくれた伝承。

代々狩人を生み出してきた小さな村に伝わる伝承だ。

 

 とても古い木には、精霊が住むという。

どんな物でも千年の時を越せば、そこには魂が宿り、そして木には精霊が宿るらしい。

 

 リナスが住んでいた町に伝わる伝承だ。


 遠い昔の祖先は、その精霊から弓を教わったとのことだった。

またその精霊は、人々に狩りの仕方を教え終わると暗い森に帰っていったという。

 

 もう故郷を飛び出してからだいぶ経つ。

 

「一度で良いから、精霊を見てみたいかも……」


 その意外な言葉にアドルフは首を傾げる。

 

「精霊?精霊っていうのはあの絵本とかに出てくる?」


「昔ね。父さんが話してくれたのよ。村に残っている伝承で、大きな木には精霊が住んでるって。

その精霊に会えば、どんなことも教えてくれるってね」

 

 その言葉に、アドルフは少し微笑む。

 

「リナスが精霊に会いたいなんて言うと思わなかったよ」

 

 その発言に少しむくれる。

 

「私はロマンチストなのよ?」

 

 アドルフは馬鹿にもせず、肯定する。

 

「でも、もし会えるなら会ってみたいね!」

 

「そういうアドは何かあるの?」


 その問いにアドルフも考える。

そして最近になって強く思うことがあった。でもそれは少し恥ずかしくもあることだ。

 

「ガルドやリナスのように護衛になりたいかな……」

 

 リナスは少し驚いたようにアドルフを見つめた。

 

「へぇ、アドがそんなこと言うなんてね。でも、護衛なんて危ない仕事よ?私らは運がいいだけ……」

 

「うん……前回の夜襲も正直怖かった」


「けど、あの日のガルドとリナス、ヴァルクさんはなんか……かっこよかった。

そして暗い森で合図を送ったとき、皆の役に立てるのは、なんかこう……気持ちが良かったんだ」


 それは、ごく普通の青年が、自分の役割を果たせたことに誇りを感じた、ただそれだけの感想だった。

けれど、それはアドルフにとってとても大切なことだった。

 

「ふふっ、私のことも憧れてくれてたんだ。……ちょっと嬉しいかも」


「リナスみたいに、遠くからでも仲間を守れるって、すごいと思ったよ」


 リナスは、アドルフのその言葉を胸の奥で大切に抱きしめるように感じていた。


  (この子は、ちゃんと見てくれてるんだな……)

 

 そしてアドルフはリナスを見る。

 

「リナス、今度弓を教えてよ。今は剣を握れないけど……いつか弓も使えたらってリナスを見て思ったんだ!」


 その言葉に、リナスは一瞬だけ目を見開き、すぐにふっと笑った。

リナスは、照れくさそうに笑いながら、アドルフに頷いた。

 

「じゃあ、護衛の仕事が終わったらね。ラパンに着いて、落ち着いたら……その時に教えてあげる」


「ほんと? 約束だよ!」

 

「うん、約束」

 

 リナスは、アドルフの笑顔を見ながら、心の中でそっと願った。


 (どうか、アドと一緒にその日を迎えられますように――)

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

本作は【毎週水曜日と日曜日の21:00】に定期更新しております。


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それでは、次回の更新もどうぞお楽しみに!

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