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21 とある小さな村

 レオフォード帝国の北東に小さな村があった。

その村では七支樹の恩恵は受けられない地域ではあったが、

レオフォード帝国と魔導国家イレインを行き来する商人たちによって、

 

 村でも魔力が込められている魔石と魔道具が流通しているため、比較的過ごしやすい環境にはあった。

 

 そんな小さな村で、少年は育った。

どこにでもあるような小さな村で、村のみんなが家族のような存在だった。

 

 そして少年が八歳になったその日、両親たちに見守られながら、

お祝いとして初めて魔道具を使わせてもらうことになった。

 

 目を輝かせながら、待っていると、母親が魔道具を持ってきてくれた。

 

 それは小さな火を出せる魔道具だ。

 

「みんながよく使ってたやつだ!」


「はい、これがあなたの分ね!」

 

 その少年は目を輝かせて、少し体を踊らせて腕を前に出した。

そして母親に腕輪型の魔道具を嵌めてもらう。

 

 まだ小さな腕にはピタッと嵌らず、その腕輪は油断すると腕から滑り落ちてしまいそうになる。

少年は落ちないように左手を添えながら、母親に聞く。

  

「お母さん! これで、ぼくも火がだせるの?」


 少年は嬉しそうに手をぶんぶん振りながら、母に問いかけた。

 

「えぇそうね。これで今晩の夕食作りは手伝ってもらえるわね!」


「手伝うー! 手伝うー!」


 こんなにも早く夕方になってほしいと思った事はなかった。

だが、その日少年は目を腫らすほど泣いてしまった。

 

 自分と同じくらいの年齢の子たちが魔道具を使って火起こしを手伝っている中、自分だけ扱えなかったのだ。

 

 ――魔法が使えない。


 その事実を知った瞬間に、大泣きしてしまったのだ。

 

 顔を真っ赤にして、力一杯に魔道具を握りしめても、うんともすんとも言わない。

その現状に苛立ち、挙句の果てに母親に泣きつきに行ってしまった。

  

「いつかうまく使えるようになるから、大丈夫よ」


 そう言って、母さんはあやしてくれた。

 

 けど、火の魔道具だけでなく、氷の魔道具も扱えなかった。

 

 そこからむきになって、躍起になって魔道具をいじっていたら、魔石を壊してしまったこともある。

その時は、お父さんにこっぴどく怒られた。

 

 魔石はこういう小さな村では貴重で生活に欠かせないモノだからだと。


 そんな少年の父は村長でもあり、小さな財政管理も担っていた。

だからこそ、その価値を村の誰よりも分かっていたのかもしれない。

 

 少年が十歳になる頃に、ある一人の女性が村を訪れた。

綺麗な長い黒髪に、吸い込まれそうになる金色の瞳をしていた。


 彼女の名はドロミン。世界中を渡り歩いている“冒険者”だという。

それは聞いたこともない職業だったし、そもそもどんな職業かも想像がつかなかった。

 

 “冒険者”とは、依頼を受けて魔物を専門的に狩る職業と彼女は説明した。

魔物からは魔石が取れるため、それを売り生計を立てるとのことだった。


 だがその説明を聞いても、うちの村では誰もそんな仕事を聞いたことがなかった。

もしかしたら、帝国とかであれば、当たり前なのかもしれない、皆そう思っていた。


 なんせここは小さな田舎の村だ。都市や町ではないため、情報と言える情報もない。

子供に伝わるのは、年老いた爺さんや婆さんから聞く、昔話くらいしかない。

 

 けれど魔物に関しては、こういった村でもたまに見かけることがある。

まだ村が存続できているのは、単に運が良いだけということもあるだろう。


 そして万が一出くわした際に出来ることは、逃げることと、祈ることのみ。

そもそも魔物を狩れる人間など普通はいない。

 

 仮に見つけた場合は、村総出ですぐにでも避難できるようにはしている。

とても狩ろうなどとは思えない存在だ。

 

 だからこそ、彼女のその話は荒唐無稽なものだと思えた。

けれど、彼女がその証明とばかりに、バッグから大量の魔石を見せてくれた。

 

 魔石の価値は高い。だからこそ、それは何よりの証明になり得た。

少年も少し覗いてみたが、魔石の中には紫や黒色なんかもあった。

 

 そして彼女は、今は旅の途中で少しだけ休ませてほしいと言ってきた。

村の人々も、特に断る理由もなかったので彼女を歓迎した。

 

 そしてしばらく彼女が村に滞在することになったときに冬が来た。

少年の父は、彼女にしばらくは村に滞在した方が良いと勧めた。

 

 そして彼女からも提案される。

 

「それではその代わりに、魔物が付近に出た場合は、私が狩ります」


 その提案は、村長でもある父さんにとってもありがたい話だったみたいだ。

魔物はたしかに強力だが、何より数が少ない。というより目撃数は多くないため、数は多くないとされている。


 その為、魔物を一匹でも狩れれば、それだけ遭遇する確率は確実に減るからだ。

 

 村の情報は村長の家に集まりやすい。もちろん魔物の情報も。

また謂わば彼女はよそ者でもある。だからこそ、村長が責任を持って滞在させる名目もあったのかもしれない。


 いろいろあって、彼女は少年の家に住むようになった。


 お母さんは「娘ができたみたい」とはしゃいでいた。


 少年も姉が出来たみたいで嬉しかった。


 夜になると、彼女はたくさんの冒険譚を少年に聞かせてくれた。

 

「そしたら次はね――北の山に住むドラゴンのお話をしましょうか?」


「うん!」


 その冒険譚を少年は無我夢中で聞いた。

北の山岳地域にいる竜の話や、砂漠にいる巨大な魚、そして数は少ないが国くらい大きな洞窟なんてものも世界にはあるらしい。


 そんな彼女は世界中の魔物と戦ってきたのだという。

そして彼女はどのようにして、魔物を見つけ倒していったかをすごく詳細に話すのだ。


 そして彼女の話し方には、とても臨場感があった。

実際に彼女がどれも経験した事だからなのだろう。


 その後の訓練で培われる魔物の“探索”という事に関しての知識はもしかしたら、

この時の話をどこか頭の片隅で覚えていたから飲み込みが早かったのかもしれない。

 

 そんな日が続くようになり、いつも母に読んでもらっていた絵本は棚に置かれたままになり、

気づけばドロミンの話を聞くのが少年の日課になっていた。

 

 そしてある日、彼女は泊めてくれたお礼と言って、「興味があれば剣を教えられるよ」と提案してくれた。

 

「将来は村の狩を手伝ってもらうから、体力があったほうがいいからな」と父は賛成し、

母も、将来を考えると自衛の手段として、そういったことをどこかで学ばせたかったという節もあり、快諾してくれた。


 なによりドロミンという女性を信用していたこともあるだろう。

 

 それ以来、少年は彼女を“先生”と呼び、剣の手ほどきを受けるようになった。

 

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

本作は【毎週水曜日と日曜日の21:00】に定期更新しております。


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、

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それでは、次回の更新もどうぞお楽しみに!

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