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「アド、護衛になってくれないか?」

 

 それはダリオンからの唐突な提案だった。

 

「もちろん、無理にとは言わない。依頼として頼んだのはラパンまでだ……」


「だけど、この先も恐らく俺は母上や兄上たちを救う為に、大陸中を移動することになる」


「そしてそれには、より多くの人に協力してもらう必要があると思ってる……」


 その突然の誘いに思わず、アドルフも驚く。

 

「待って、ダリオン! なんで俺なの? リナスやガルドには声を掛けたの?」


 ダリオンは真っすぐな目でアドルフに言う。

 

「もちろん、声を掛けるつもりでいたよ……。こんなにも信頼できる護衛はなかなかいないからね」


「でもミレイナさんたちとは、今後も協力者として、取引したいんだ。

そのためには、腕の立つ護衛は常に身近に居た方が良いと思ってね」


 その理由なら自分は省かれると勝手に思っていたところに、ヴァルクが話す。

 

「アドルフ、俺はその場に居た訳じゃないが、殿下を守った際に相当な手練れを退けたと聞いた」


「その時、俺も他の刺客と戦闘になったが、そいつも相当な猛者だった……」


「それと同等又は、それ以上の猛者を退ける戦士は帝国中でもそうはいない。だからこそ、私も殿下の提案に賛成した」


 確かに退けたのは事実だが、あの時はただ夢中だった。

けれど、どこかヴァルクに褒められたような気がして、胸が高鳴ったのは自分でも分かった。

 

「分かりました。少し考えさせてください」

 

 そしてダリオンが最後にこう付け加える。

 

「返事はトラヴィスさんを町まで送った後でも問題ないよ。まだしばらくは、このラパンに滞在する予定だから」


 食事が終わり、それぞれバルナバスが用意してくれた宿舎へ戻ろうとしていた。

 

(ダリオンの護衛……)

 

 それはつまり、皆と別れることでもある。

まさか自分がこんな形で選択を迫られる時が来るとは思っていなかった。

 

 そしてアドルフには記憶が戻ったことで、どうしても知りたいことと、探さなければいけない人ができていた。

自分が住んでいたあの村で何が起こり、どんな結末を迎えたのか。

 

 そんな考え事をしていると、ふと後ろから声を掛けられる。

 

「アド、今日はこっちにも顔を出してあげて、トラヴィスも喜ぶから」


 そこにはミレイナが立っていた。

 

「あ、母さん! はい、そうします! 少しバルナバスさんと話すことがあるので後で行きます!」


「分かったわ……」


 そしてアドルフはピンとバルナバスに話しかけに行った。

  

「アド……」


 小さくアドルフの名前を呟くミレイナのその背中は、少しだけ寂しげだった。


 食事会も終わり、今日は元居た宿場ではなく、

トラヴィスが休んでいる場所へ向かうとバルナバスに伝えた。

 

 ガルドやリナスからは、もう少し休むよう勧められたが、

バルナバスからは、『自身の体調が万全であれば、何ら問題ないよ』と返事をもらった。


 またそれを横で聞いていたピンは、宿場へ帰らない事をエリンへ伝えてくれるとのことだった。


 (ピンはすごく気を利かせてくれるな)

 

 むしろこういった細かいことに気が付いているからこそ、

メイドをやれているのかもしれないが。

 

 そんな考えごとをしながら、ミレイナとトラヴィスが泊まっている宿場まで着いた。

ガルドとリナスはまた別の宿場らしいが、ここのすぐそばだという話だ。

 

 外観や内装は、アドルフが泊まらせてもらっていた宿場と似ていた。

宿場へ入ると、エリンやピンと同じメイド服の店員が部屋に案内してくれる。

 

「アドルフ様ですね? 二階の一番奥の部屋でございます」


 どうやら既に向かうことすら伝わっているらしい。

その情報伝達の速さに驚きつつ、部屋へ案内された。

 

「母さん、入ります!」


 ドアを開けると、トラヴィスはまだ寝ており、ミレイナが看病をしていた。

 

「父さんの具合はどうですか?」


 トラヴィスの額の汗を拭いながら、ミレイナが答える。

 

「既に峠は越えたって、医者が言ってたわ。でも、なるべく安静にするように聞いてるわ」

 

「良かった……」


 静かな吐息が室内に響く。しばらく沈黙したあと、ミレイナがアドルフを優しく抱き寄せた。

 

「アド、もう敬語はおしまい。私たちは家族なんだから、もう何も気を使わなくていいの」


 その言葉に照れ臭そうに、そして緊張しながらも答える。

 

「うん、わかり……分かった」


 言葉が詰まりながらも、アドルフは小さく頷いた。

それにミレイナは、優しく微笑んで答える。

 

 その笑顔で、少し決心したようにアドルフは話をし始めた。

少し緊張もあったのか、少しだけ早口で話してしまう。

 

「ダリオンからさっき、護衛に誘われたんだ……。でも断ろうと思う。父さんも心配だしね!」


「そう……なのね」


 ミレイナは短く返事するが、ミレイナは慎重にアドルフの気持ちを探った。

 

「アドは本当にそれでいいの?」


 それはただの問いに過ぎなかった。

けれど、アドルフはその一言に、ほんの一瞬、心が揺れた。


 だからこそ、ミレイナは静かに、自分の気持ちを伝えた。

 

「アド、こっちの心配はいらないのよ……。もちろん、そばにいてくれたら嬉しいけど……それでも、自分で選んでいいのよ」


 そうは言われるが、トラヴィスの寝顔を見ていると、まだ自分が居た方が良いと思えた。

だからこそ、それは身勝手な事だと思えたのかもしれない。

 

「いや、まずは父さんが優先」

 

「……分かったわ」


 それ以上、ミレイナは聞いてこなかった。それがアドルフの選択だと信じたから。

そして今度はミレイナが緊張した面持ちでアドルフに聞く。

 

「アド、そういえば記憶が戻ったの?」


 どうしても聞きたかったこと。だからこそミレイナは心配そうに聞いた。

そしてそれを察してアドルフは、答える。

 

「うん。でも……思ってたほど、悪い記憶じゃなかったよ」


 その返事にミレイナは心底安堵した。

この子を苦しめるような過去なら、戻らなければ良いとさえ思っていたミレイナにとって、それはなによりの返事だったのだろう。


 そしてミレイナは、一呼吸置いてアドルフの目を見て聞く。

 

「母さんに聞かせてくれる?」


 それはあの時に一度に押し寄せた古い記憶。

嫌な感じは全くしなかった。むしろそれはとても大切な記憶だった。

 

「うん……。これは――」


 それはアドルフが育った小さな村のお話。

自分自身を再確認するように、赤髪の青年は話し始めた。

 

【あとがき】

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

本作は【毎週水曜日と日曜日の21:00】に定期更新しております。


もし「面白い」「続きが気になる」と思ってくださったら、

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それでは、次回の更新もどうぞお楽しみに!

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