18 再会
時刻は夕方を過ぎ、夕日がまもなく沈もうとしていた。
この時間帯になっても、閉まっているお店を見つける方が難しかった。
そこら中で、自慢の商品たちを売ろうとする人がおり、酒場の喧騒も止みそうになかった。
「これが貿易都市ラパン。父さんが憧れていた場所……」
トラヴィスから、アドルフもよく聞かされてはいた。
貿易都市ラパンは商人が憧れる都市であり、最も活気がある都市だと。
その噂に負けないほどの活気がこの都市には感じられた。
そんな光景に圧倒されていると隣を歩くエリンから声を掛けられる。
「アドルフ様は、ラパンは初めてですか?」
エリンは変わらずメイド服のまま同行しており、人目を引いている。メイド服が人目を引いているというより、エリン自体の容姿と町での評判がそうさせていた。
そしてそんなエリンの隣を歩いているのが”男”となれば、尚更視線は集まった。
「は、はい! よく行商でいろんな国を行き来はするのですが……
いつも国と国の間にある小さな町までがほとんどなんです」
「だから実際にその国に入ることは珍しくて……とても活気がありま……すね?」
ただの商店街なのに、妙に鋭い視線がアドルフに突き刺さる。特に男性からの視線が妙に痛い。
「あの、エリンさん。なんだか視線をやたらに感じるのですが、ラパンではこれが普通なんですかね?」
「いつも通りかと思います」
当の本人は意に介さないらしく、全く気にしていない様子だ。
(エリンさんはこの町では人気者なのかも…)
ガルドに可愛い子と一緒に歩く時は、絡まれないように気を付けろと教わったことがある。
どんな教訓からその教えが生まれたのか、その当時はよく分からなかったが、その理由が分かった気がした。
そんなところに前方からエリンと似たようなメイド服の女の子が大きく手を振って近寄ってくる。
「メイド長ーー! こちらですー!」
アドルフより、年下くらいの子がエリンに手を振る。
そしてそんな手を振ってくる彼女にエリンは、頭を抱えながら
「ピン! 仕事中なのだから、気を引き締めなさい!」
「す、すいません~。以後気を付けます!」
敬礼のような仕草をして返答してきた小さな女の子を見て、ため息をつきながらも、エリンは彼女を紹介してくれた。
「アドルフ様、こちらはピンと申します。最近うちで働いてもらっているメイドでございます。少し至らない点はございますが、どうかご容赦ください」
そしてエリンは、メイド長らしくピンを叱りつける。
「バルナバス様に迷惑が掛からないようにね? 分かった?」
「分かりました……。このピン! 頂いたご恩には必ず報います!」
あからさまに凹んだピンであったが、素直な性格が垣間見える子だ。
「分かったから、それじゃあアドルフ様を食事会の場所までお願いね?」
「かしこまりました!」
またも敬礼のような仕草をして、少しのため息をエリンが吐いたあと、ピンによって食事会の場所まで案内された。
(ようやくみんなに会える……)
案内されたのは、既に店じまいをした場所だった。
どうやら人払いのために、すでに店を閉めているらしい。
閉じたドアをピンが開けてくれ、中へと案内してくれる。
「アドルフ様! どうぞ中へ!」
店内に通されると、いくつもの丸いテーブルとイスが並んでいた。
もちろん客は一人もいない。
そしてそのまま奥へと案内されると、そこには地下へと続く階段があった。
階段を降りる途中、既に美味しそうな匂いが立ち昇ってきていた。
階段を降り切りると、一目散に二人が駆けてきた。
「「アド!」」
ミレイナとリナスが駆け寄り、アドルフを抱きしめる。
抱きしめられた時に、少し体が痛んだが、少しも気にならなかった。
ミレイナがすぐに体の具合を確認してくる。
「大丈夫だったかい? 怪我はしてないかい?」
「大丈夫です。心配かけてごめんなさい…」
そしてリナスにお礼を言う。
「リナスもありがと」
「うん……」
短い返事だったが、抱きしめる強さがいつもより強かった気がした。
そしてアドルフも聞く。
「父さんの具合は?」
ミレイナは間を置いて話す。
「今もベッドで休ませてもらっている…。ヴァルクが持ってる魔石で助かるって……これで全部解決」
そう言うとガルドも寄ってきた。
「効果なら俺が保証するぜ姐さん! 正直、俺も死にかけたが、あの魔石に助けられたんだからよ!」
アドルフはガルドと固い握手をする。
「ガルドも無事で良かった!」
ガルドは苦笑を浮かべながら頭を掻いた。
「まぁ正直ヴァルクの旦那が、居なかったら俺はあそこで死んでた……」
あの日、ガルドは死ぬまで戦ってくれたのだ。
それはもはや護衛という役割ではなく、騎士道に近い誠実さだった。
「それでもガルドは生きてる……。もうそれで十分だよ」
その言葉に、いつものガルドに戻る。
「あぁ! それで十分だな!!」
アドルフも笑みをこぼした。
そしてダリオンとヴァルクが声を掛けてくる。
「アド、よく戻ってきた。君が居なかったら、俺は自分の使命を果たせずにいただろう。
王族として、いや一人の友として礼を言わせてくれ!」
「私からも言わせてくれ。殿下を守ってくれたこと心より感謝する……。そして……記憶が戻ったのか?」
その言葉にその場にいる全員が固まった。
特にミレイナの心臓は早鐘のように鳴っていた。
「はい……。でも、今はトラヴィスさんの治療の話からお願いします」
その返答にダリオンとヴァルクはゆっくりと頷いた。
そんな緊迫した場面でも、一人だけ変わらない人物がいた。
ピンがいつのまにか食事の準備を終え、声を掛けてくる。
「みなさ~ん、もうすぐバルナバス様が来ますので、そろそろ席についてくださ~い」
なんとも緊張感のない声に、その場の空気が一瞬で緩み、誰もが自然と笑みをこぼした。
もしバルナバスやエリンがこの場にいたら、二人はピンの振る舞いに凍りついていただろう。
何せ、王族に席を催促したのだから。
(あとで、エリンさんに怒られないかな……)
アドルフはそう思いつつも、小さな彼女が、またエリンに敬礼している姿を思い浮かべていた。
【あとがき】
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