共鳴する孤独
夢路の底に広がる静謐な水面で、クララはニックスの細い指先が描く波紋を見つめていた。その一つ一つの輪が、彼の五百年という途方もない歳月の重なりのように見えて、胸の奥がぎゅっと締め付けられる。
(ニックスは、ずっと独りだったのね……)
それは、今のクララにとって、他人事とは思えない痛みだった。
「私にも……私にも分かるわ、ニックス。あなたのその寂しさが」
ぽつりと漏らした声が、水鏡のような世界に溶けていく。
伯爵である父も母も、一年の半分は王都での政に追われ、屋敷を空けてしまう。二人の兄たちも学び舎のために遠く離れ、この広大な館に血を分けた家族は一人もいない。
もちろん、家令のベルナーさんや侍女頭のクラウゼさん、それにリーゼたちは、この上なく優しく自分を慈しんでくれる。けれど、彼らが差し出してくれるのは、あくまで守るべき主への献身であり、同じ痛みを分かち合える「家族」のぬくもりとは、どこか手触りが違っていた。
「このお屋敷は、とっても広いの。でも、広すぎるから、独りでいると時間がちっとも進まないのよ。窓の外に流れる雲を数えたり、誰もいない廊下に響く自分の足音を聞いたりしていると、自分がどこにいるのか分からなくなるくらい」
同年代の友も、この辺鄙な領地まで遊びに来ることはない。
たった半年間の不在。たった一日の静寂。
子供であるクララにとってのそれは、精霊が耐えてきた五百年という悠久の時と、等しい重さを持って迫っていた。
「あなたは五百年もの間、誰にも触れられず、誰にも話しかけられず、あの小さな祠に閉じ込められていたのね。……私なら、きっと一日だって耐えられないわ」
クララはそっと手を伸ばした。
目の前に立つ青い髪の青年は、冷たい霧のように儚げで、けれど同時に、この世の何よりも純粋な「孤独」そのものに見えた。
その寂しさを救ってあげたい。その渇きを癒してあげたい。
純粋ゆえの同情は、時にどのような魔術よりも深く、異界の理をこちら側に引き寄せてしまう。
情をかけるということは、相手の運命に自らの魂を絡ませるということだ。
ましてや、相手は人ではない。
クララは、自分が今、崩れやすい岸辺の縁に立っていることに気づくには、あまりにも幼すぎた。彼女の目に映っているのは、ただ一つ。自分と同じように、深い水の底で震えている、孤独な魂だけだった。




