夢路の語らい
深い眠りの底で、クララはまた、あの場所にいた。
そこは、現実の森よりもずっと静かで、どこか懐かしい湿り気を帯びた場所だった。足元には、くるぶしを浸すほどの清らかな水が満ち、銀色の光を反射してゆらゆらと揺れている。
傍らには、透き通るような青い髪をなびかせた青年が座っていた。その瞳は、深い淵の底を覗き込んだときのような、静謐な孤独を湛えている。
「クララ。僕はニックス。……かつてこの場所にあった、泉の精霊なんだ」
青年は、寄る辺ない風の音のような声で囁いた。
「まあ。あなたは、精霊様だったのですね」
クララは驚きに目を丸くしたが、不思議と恐ろしさは感じなかった。むしろ、その涼やかな存在感に、火照った心が静まっていくような心地よさを覚えた。
「精霊、と言ってもね。今はもう、あの小さな祠に閉じ込められた、力のない、か細い存在に過ぎないんだ」
「まあ……そんな。かわいそうに」
「泉が五百年も前に枯れてしまってね。僕はこの世界に踏み止まるための、居場所を失ってしまったのさ。僕を哀れに思った当時の人間が、この祠を設えてくれた」
「でも、閉じ込められたなんて……」
青年の細い指が、水面をそっとなぞる。そこに、かすかな波紋が同心円状に広がった。
「居場所を失った泉の精霊というのは、ひどく不安定なものなんだ。いつ正気を失い、災いを成すか分からない。それを恐れた魔法使いが、僕が祠から出られないように、強い結界で閉ざしてしまったのさ」
「なんて、意地の悪い魔法使いなのでしょう」
クララが憤るように言うと、ニックスは淡く、哀しげな笑みを浮かべた。
「魔法使いのことは、恨んではいないよ。彼らには、彼らなりの都合と、守るべき世界があったのだろうから。ただ、理に従ったまでだ」
「ニックスは、とてもお心が広いのね」
「……けれど、もう十分だろう。僕はもう、あの狭くて暗い場所から、外の世界へ出してほしいと思っているんだ。風を感じ、星の光を浴びたい。ただ、それだけなのだがね」
ニックスの瞳が、じっとクララを見つめた。その眼差しに含まれた「渇き」のようなものが、クララの胸を締めつける。
「私に……私にお役に立てることがあるかしら、ニックス。あなたをそこから出してあげるために」
クララの問いかけに、水面を渡る風がかすかに騒いだ。
精霊と少女。理の異なる二つの魂が、夢の淵で静かに溶け合おうとしていた。




