第131.7話(後編):【牙を研ぐ荒野】勝負師の微笑み
「おほほ! だからこそ、わたくしは彼女に笑顔で卒業証書を渡しましたの。泥を啜り、風に吹かれ、それでもなお自分の言葉で叫びたいというのなら、行ってみなさい……とね」
咲子は最後の大福をゆっくりと平らげると、満足げに自分でお茶を注ぎ足しました。
「みゆちゃん、覚えておきなさい。本物の教育とは、自分がいなくても生きていける人間を作ることですわ。看板ライバーがいなくなって櫻守が傾くというのなら、それまでの組織だったということ。わたくしは、カニという一人の人間が、わたくしの掌を飛び出して世界を驚かせる瞬間を、一人の観客として心から楽しみにしているのです」
「……おばあ様。信じてる、なんて言葉じゃ足りないくらい、カニさんのこと買ってるんだね」
みゆがそう言うと、咲子はいたずらっぽく片目を閉じました。
「確信しておりますわ。彼女は必ず、わたくしの予想を超えてみせます。……もし道に迷って泣きついてきたら、その時はまた、たっぷりとお説教をして差し上げるだけですわ」
咲子は再びモニターを指差しました。
掲示板には、いまだに「敗北」という文字が躍っていますが、それを眺める咲子の横顔には、一点の曇りもありません。
「世間には、好きなだけ負け惜しみを言わせておきなさい。わたくしたちプロにとって、最大の勝利とは数字ではありません。育てた魂が、自分を超えていくその瞬間の『震え』を特等席で味わうこと……これに勝るジャックポットはありませんもの」
咲子の高笑いが屋根裏に響き、みゆは自然とスマホを閉じました。
カニが選んだ険しい道は、咲子にとっては「敗北」ではなく、50年の時を超えて繰り返される、尊き「自立への祝杯」だったのです。
「さて、みゆちゃん。カニさんが実写で成功した暁には、わたくしも負けていられませんわね。三郎に自撮り棒を固定して、わたくしが三郎に跨がって爆走する『実写配信』でも始めましょうか?」
「それこそ、別の意味でネットが壊れるから! あとおばあ様の腰が壊れるから絶対にやめて!」
佐藤家の夜は、卒業の寂しさを超えた、新しい挑戦の予感で満たされていました。




