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第131.7話(中編):【金の鎖】50年前の温室


「当時、わたくしがある外交案件で関わった名門の家柄に、一人の美しい令嬢がおりました。彼女の父親は非常に力のある人物でしたが、娘を愛するあまり、彼女を一歩も外に出さなかったのですわ」


咲子は二つ目の大福に手を伸ばし、50年前の光景を昨日のことのように語り始めました。


「邸宅の中には最高級のピアノ、溢れるほどのドレス、そして何不自由ない暮らし。父親は常にこう言いました。『外の世界は野蛮で、お前を傷つけるものばかりだ。ここにいれば、一生わたくしが守ってやる』と。周囲の誰もが、彼女を世界で一番幸せな花嫁候補だと疑いませんでしたわ」


「……でも、やっぱりおばあ様の話に出てくるってことは、そうじゃなかったのね?」


「ええ。ある夜、密かに邸を訪ねたわたくしの手を握り、彼女は震える声で零したのです。『咲子さん……お父様が用意してくださる空気は、あまりに綺麗すぎて、わたくし息が詰まるの』……と。彼女にとって、その豪邸は家ではなく、世界で最も豪華な『牢獄』だったのですわ」 


咲子は大福を一口食べ、その甘みを確かめるように目を閉じました。


「結局、彼女はある日、一通の手紙も残さずに家を飛び出しました。持っていた宝石もドレスもすべて捨てて、名もなき街の小さな店で、泥にまみれて働き始めました。父親はそれを『娘の転落』だと嘆き、恥じ、わたくしに連れ戻すよう命じましたが……次に彼女に会った時、わたくしは確信しましたの。彼女の瞳には、温室にいた頃には一度もなかった、野良犬のような逞しい輝きが宿っていたのですから」


「カニさんも、その令嬢と同じだって言うの? 自由になるために、あえて苦労を選んだって?」


「左様です。カニさんは、わたくしが授けた『咲良』という完璧な看板、そしてVtuberのアバターという最強の守護よろいを脱ぎ捨てて、生身の自分だけで戦う道を選んだ。それは、わたくしの統治が及ばない、本当の『自由』への挑戦ですわ。育ての親を蹴飛ばしてでも、自分の足で荒野を歩きたい……その背中は、敗北どころか、わたくしが生涯で手掛けた最高の『芸術品』ですわよ」


大福の粉が少しだけ唇についたまま、咲子は勝負師の顔でニヤリと笑いました。

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