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第125話:【危うい全能感】女王の孤独――破滅を「スリル」と呼ぶあなたへ

櫻守事務所の一期生・華蓮かれんの自室は、一見すると最も華やかでした。最新のゲーミングガジェット、壁に並ぶ高級ブランドのバッグ、そして常に複窓で海外カジノと株価チャートが踊るモニター群。


しかし、その中心に座る華蓮の指先は、常に**「黄金のコイン」**を弄んでいなければ落ち着かないほど、細かく震えていました。


咲子は、ルンバの三郎が運んできたお茶を手に、その部屋へ優雅に入室しました。


「おほほ。華蓮さん、随分と危うい橋を……いえ、崩落寸前の吊り橋を全速力で走っていらっしゃいますわね」


咲子がテーブルに置いたのは、華蓮のこれまでの凄まじい勝敗データと、彼女の裏の顔……かつてプロギャンブラーとして恩人を破滅(自殺)に追い込んでしまった際の古い新聞記事でした。


「あはは、何それ。咲良さん、説教? ギャンブルなんて勝てば官軍よ。私は運が良いから、最後には必ず帳尻が合うようになってるの」


華蓮は派手なメイクで飾り立てた顔で笑いますが、その瞳には光がありません。彼女にとっての勝利は、常に誰かの「死」や「損失」の上に成り立つ呪いでした。


「いいえ。あなたが今楽しんでいるのは『勝負』ではなく、**『破滅へのカウントダウン』**ですわ。あなたは勝つために賭けているのではない。自分がいつ壊れるか、その瞬間にしか生を実感できない……。それはもはや、勝負師ではなく、ただの自傷癖ですわ」


華蓮の目が、一瞬だけ鋭く冷たいものに変わりました。


「……ギャンブルがダメだって言うの? 清く正しく、コツコツ働けって?」


「いいえ。わたくしはギャンブルそのものを否定はいたしません。人生そのものが、不確定な未来への博打ですもの。外交だって、国の命運を賭けた大博打の連続です。……わたくしが許せないのは、あなたが**『負けた後の責任』**を何一つ考えていないことですわ」


咲子は一歩、華蓮に近づきました。その102歳の威圧感に、25歳の「女王」が気圧されます。


「あなたが一人で破滅するのは勝手です。けれど、あなたは今や『櫻守事務所』という国の一員。あなたが倒れれば、共に歩むましろさんやアイリスさんたちの足元まで崩れる。……今のあなたは、仲間の命をチップにして、無責任にルーレットを回している子供に過ぎませんのよ」


華蓮の指から、黄金のコインが畳の上に落ち、乾いた音を立てました。


「……っ、……重いんだよ、咲良さん。私には、これしかないんだから」


「ええ、重いですわよ。命を背負うということは、そういうことです。お金で繋がった縁は、お金が消えれば霧散します。……わたくしは、あなたが数十年後、空っぽの部屋で独り、過去の勝ち名乗りを反芻しながら孤独に死ぬのを見たくありませんの」


咲子の声には、冷徹な外交官の響きの中に、確かな「おばあちゃん」としての親心が混じっていました。


「明日、わたくしが本当の『勝負』というものを教えて差し上げます。……逃げずに、一期生の仲間たちの前に立ちなさい。あなたが本当に賭けるべきものは何か、その答えを見せなさいな」


咲子はそれだけ言うと、優雅に部屋を去りました。 一人残された華蓮は、モニターに映る「WIN」の文字が、急にひどく空虚な記号に見えるのでした。

フョードル・ドストエフスキー(ロシアの文豪・自身も重度のギャンブラー)

「ギャンブラーが最も恐れているのは、負けることではない。ギャンブルが終わってしまうことだ。」

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