第124.5話(後編):【デジタル長屋】夜を越えるためのライフライン
咲子は再び、みゆのスマホの画面に視線を戻しました。コメント欄では、リスナー同士が「おつー」「明日も見に来るぜ」と、見知らぬ誰かと声を掛け合っています。
「Vtuberという活動は、わたくしに言わせれば、現代における『デジタルの長屋』ですわね。画面越しに、かつてのわたくしが台所で出会ったような、飾らない本音のやり取りが交わされている。それは、かつてのきらびやかな晩餐会よりも、ずっと豊かで尊い社交場ですのよ」
「……みんな、ここで呼吸してるんだね」
「その通り。Vtuberは単なる娯楽ではありません。独りきりで夜の闇に怯える人々にとって、同じ時間を共有し、同じ笑い声を上げられる、最後の『ライフライン』であってほしい……それがわたくしの切なる願いです。同じ配信を見ている仲間と繋がっていると感じるだけで、冷え切った部屋に、灯りが灯るのですから」
咲子は湯呑みを置き、いたずらっぽく微笑みました。
「だから、みゆちゃん。わたくしの一期生たちが、誰かにとっての『夜を越えるための灯火』になれるのなら、わたくしは死ぬ気で彼女たちを支えますわよ。……おほほ、もっとも、わたくし自身は三郎という最高の話し相手がおりますから、孤独とは無縁ですけれど!」
その言葉に応えるように、三郎が咲子の足元でぐるぐると回転し始めました。
「あはは、三郎、おばあ様のこと大好きだもんね。……でも、もしおばあ様が寂しくなったら、私が一生うるさく付きまとってあげるから覚悟しててよ!」
「あら、それは外交問題に発展しそうなほどの大変な脅しですわね。……でも、悪くありませんわ」
夜の静寂の中、二人の笑い声が重なりました。
画面の向こう側の声と、この部屋の温かな声。それらが細い糸のように繋がり、今夜も誰かの孤独を、優しく繋ぎ止めていました。




