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第116話:【決断】騎士の選別――「全員助ける」は、もう言いません

アイリス・ヴォルガのこれまでの配信スタイルは、ある種、異常なものでした。


元自衛官としての責任感ゆえか、彼女は**「拾えるコメントはすべて拾い、すべての悩みに答えを出す」**ことを自分に課していました。


結果、配信時間は連日10時間を超え、睡眠不足で肌は荒れ、声はかすれていました。


それでも彼女は「私が頑張れば、みんなが救われるから」と、フラフラになりながら「全肯定bot」のように微笑み続けていたのです。


しかし、その「優しさ」は、リスナーを甘やかし、彼女自身を壊す毒でしかありませんでした。


配信開始直後。


画面に映るアイリスの目は、いつものように充血していました。


Vtuberゆえに視聴者には伝わりませんが、それでもチャット欄には、彼女を心配する声と、それに甘える声が入り混じります。


 コメント:「アイリスちゃん、今日も12時間配信するの? 無理しないで」  

 コメント:「アイリスさん、また仕事でミスしました。慰めてください……」  

 コメント:「俺の悩みも読んでよ! 3時間待ってるんだけど!」


これまでのアイリスなら「お待たせして申し訳ありません、全員分答えますからね」と無理に笑ったでしょう。


しかし、今日のアイリスは、咲子から授かった「黒いリボン」をマイクに結び、冷徹な声で告げました。


「……本日より、配信のルールを大きく変更します。これまでの私は、全員を救おうとして、結局、誰の悩みも解決できていませんでした。……今日からは、私が『救う価値がある』と判断したコメントだけを拾います」


チャット欄は一気に凍りつきました。  

 コメント:「え、選別するってこと?」

      「冷たくない?」

      「いつもの優しいアイリスは?」


アイリスは、止まらない批判を無視し、淡々と「切り捨て」を開始しました。


「……『上司に怒られたので慰めてほしい』。


却下です。あなたのミスなら、反省して次に活かしなさい。


ここに逃げ場を求めても、あなたの人生は一歩も進みません」


「……『寂しいから構ってほしい』。これも却下。


私はあなたの寂しさを埋める道具ではありません」


アイリスの言葉は、これまでの「全肯定」とは真逆の、鋭いナイフのようでした。


「私は昨日まで、あなたたちを甘やかすことで、自立する機会を奪っていました。それは救助ではなく、**『共依存』**という名の緩やかな無理心中です。……私はもう、あなたたちと心中するつもりはありません」


配信開始からわずか1時間。アイリスはキッパリと「本日の配信を終了します」と告げました。


 コメント:「えっ、もう終わり!?」

      「まだ1時間だよ?」

      「見捨てられた……」


「ええ、見捨てました。……残りの時間を、私は私自身の心身を整えるために使います。私が倒れたら、本当に救えるはずの命も救えなくなるからです。……皆様も、私に依存する時間を、自分自身の問題を解決する時間に変えてください」


アイリスが画面を消した瞬間、コミュニティには大きな動揺が走りました。


しかし、同時に、彼女の疲弊しきった顔が、一瞬だけ「一人の人間」としての凛とした表情に戻ったのを、真のファンは見逃しませんでした。


【佐藤家のリビングにて】

「……おばあ様、アイリスさん、配信をたった1時間で切っちゃいました。あんなに批判されて、大丈夫でしょうか」


咲子は、満足げに紅茶を一口啜りました。


「ふふ、素晴らしい決断ですわ。ましろさんが『嘘』を捨てたように、アイリスさんは『無責任な優しさ』を捨てたのです。……自分の限界を知り、誰を切り捨てるか選べるようになった者だけが、本当の意味で『誰かの命』を背負えるのですから」


咲子の手元のメモには、アイリスの健康状態をチェックする細かな数字が並んでいました。


突き放すような言葉の裏で、咲子はアイリスが「自分自身を救う」ための時間を、強引に作り出させたのです。



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