下級天使vsロイロット伯爵
ロイロット伯爵がいた。彼らの部下が待機していたが、レベッカとミランは恐れることなく伯爵を前にして武器を構えた。
「レベッカ・イーストを覚えてる?」
レベッカは震える唇で尋ねた。するとロイロット伯爵は少し考えて、何やら昔を思い出したようにニヤニヤと頷いた。
「彼女は私を誘惑するのでね。イースト伯爵夫人にやめるように訴えたんだ」
「レベッカはあなたからの手紙は燃やして捨てた。怖くて誰にも相談できずに」
「レベッカはふしだらな子だよ。私以外にも多くの恋文を出していたんだ。私は悟らせようと手紙をしたためていたのに」
ロイロット伯爵は唇を舐めた。レベッカは気味悪さで逃げ出したくなった。しかしここで逃げれば、前世の二の舞だ。ミランを守るためにも、絶対に戦わなければならないと自分に言い聞かせた。
「レベッカはね!」
ミランは体を折るように叫んだ。
「まだ恋なんて知らなかったのよ!恋文の意味すらね!今も知らないのよ!」
ミランが続けた。
「ミ、ミラン……あの……」
「好きな人なんて誰もいなかったわ。好きになってくれる人もいなかった!」
「ちょ、ちょっと……」
レベッカは涙が出てきた。ミランの勇敢さになのか、恥ずかしさなのか。
「レベッカは誰かを好きになることを経験する前に殺されたの。わたしの腕で死んだわ」
「身を恥じて死んだのが証拠だ」
「わたしは守れなかった」
「下級天使だからなっ!」
ロイロット伯爵は笑い捨てた。ついに尊大な自尊心に押された。後ろの仲間が銃やライフルを余裕の仕草で構えた。今、彼自身が力を持ったように錯覚していた。
「私が召使いに命じてレベッカ嬢の偽の恋文を出させたんだ。この私を無視するとは愚かな娘だよ。復讐は当然の権利だ」
ミランが傘の柄を抜いて、光の鞭が地面に垂れ落ちた。溶岩のように花崗岩を融かした。レベッカのスティレットの剣が涙を流すように雫を落とした。
「わたしのレベッカが!」
「わたしの天使が!」
二人が動いたとき、紫の弾丸がロイロット伯爵の左腹に食い込んだ。左腹を押さえたロイロットは、しばらく状況を理解できずにいた。後ろによろけながら腹から離した手を見て目を剥いた。次に太ももを撃ち抜かれて倒れた。月に照らされた花崗岩が飛び散った肉片で汚れた。
レベッカは振り向いた。
「おまえらがやる仕事じゃない」
イシグロは地面で藻掻いているロイロット伯爵に近付くと、ついでのように頭にとどめを刺した。セラが放った光がロイロット伯爵ごと、バリケードの手下どもを蒸発させた。レベッカとミランは伏せて、さすがにイシグロも首をすくめていた。
「もう憎しみは捨てなさい。これから街も新しくなる。人も天使も変わるのよ」
背後からそっと柔らかく抱かれた。
セラのやさしい光に包まれた。セラも建物に消えた。レベッカはミランの頬に流れる涙を指で拭いながら「ありがとう」とほほ笑んだ。
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イシグロは裁判所の正面、閉ざされた頑丈な扉を開けようとすると、「退け」とセラの声が聞こえて、たった一枚の扉ごと廊下の床や天井も砕け飛んだ。イシグロは耳をつんざく衝撃波に嫌な顔をした。
「もうおまえらだけでやれよ」
「これはおまえの試験でもある」
「試されるの嫌いなんだ。てか何の試験なんだよ。死神なんて続ける気ねえぞ」
「わたしには裁判にかける権利はないわ」
「俺にもねえよ」
「あなたにはあるの。昔よ。今の天使と死神に別れる前にひどい争いをした。停戦の条件に天使を罰する権利を与えること。鍵を持つもの」
二階の手摺から、数人、平等の女神が建つエントランスに落ちてきた。
「もう上は誰もいない」
「師匠、あんたに任せたい。俺はアマランタとレメディオスを救えればいいんだ」
ロベルトが弾丸を放り投げてきた。
「丘の精霊の墓場で預かってきた」
「人の話を聞いてるのか?」
「地下から行くがいい。ここはロイロット伯爵の土地の発祥地へと繋がる地下通路がある」
「なぜあんたがやらない」
「彼とは薔薇の庭でよく話したんだ」
「意外にロマンティストだな」
「おまえに似ている」
「冗談じゃない」
「セラ、貴様が案内役だ。ロベルトの唯一の弟子を守れることを光栄に思え」
「ありがとうございます」
イシグロは耳に詰まった衝撃波の屑を指でほじくりながら奥へと歩いた。
こいつら、訳わからんわ。




