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意地のフリーダム号

 アマランタを乗せたフリーダム号は、伯爵の馬車を見付けて、伯爵の足を止めようと近付きかけるたものの、レメディオスに構わないでと命じられた。

 そのままま馬車を追い抜いた。

 しかし追い抜いた後、黒い翼人が追いかけてきて、激しく撃たれた。路地に逃げ込むと、木箱が前に立ちはだかっていた。


「もっと飛びますで」


 ぐいっと夜空へ飛んで疾駆した。


「捕まってなはれや」

「撃たれてるわ」


 アマランタが二の腕を押さえた。

 当たらないんじゃないの?


「ありゃ?特殊な弾ですわ。おかしいな」

「呑気なこと」


 他の翼も空を飛んでいた。

 普通の敵ではない。


「ママ……」

「平気平気」

「マズイですわ。どこかであんさんを降ろしますわ。これは目立ちすぎますわ」

「あなたはどうなるの?」


 レメディオスは、美しい瞳をフリーダム号の耳の近くに添えて尋ねた。


「レメディオスはん、わいも修羅場くぐってきた聖獣ですわ。こんなことしてたら昔の主に叱られますからな。うまいこと降ろしてから引き返しますわ」

「囮になる気なの?」

「そないなことしますかいな」


 スレート屋根を駆け抜けて、フリーダム号はアマランタに降りるように速度を緩めた。これがいけなかった。アマランタがレメディオスを抱いて滑るように降りると、フリーダム号は突っ込んできた敵に後ろ足だけで立ち、身を挺した。翼人が驚いて屋根で翼を引っ掛けた。


「フリーダム号!」


 アマランタにはフリーダム号が撃たれて血を流すのが見えた。筋肉が動くたびに血飛沫が飛んでいる。翼人が放ついくつもの弾が食い込んでいた。


「フリーダム号、逃げて!」

「こんなことで逃げてたら、わいの名折れですわ。あんさんらは行きなはれ!」


 これでは殺される。アマランタの喉から重い苦しみが込み上げた。瞬間、遠くから単調な発砲音がした。敵か味方か。アマランタは身を潜めると、一発一発と敵が燃えながら軒から転げ落ちた。まるで昼を知らせる鐘でも鳴らしているように、怠惰な間隔で、翼人は一人一人、撃ち抜かれた。


「ロベルトだわ……レメディオス!」


 レメディオスは屋根の斜面を滑るように落ちるフリーダム号へ駆け込んでしがみついた。アマランタも飛びついた。


「起きなさいよ!」


 レベッカが叫んだ。


「あんたの主が嘆くわよ!」


 彼女たちごと軒から落ちた。アマランタも滑り落ちる。一陣の風が吹いた。セラ、レベッカ、ミランがフリーダム号ごとアマランタとレメディオスを地面スレスレで持ち上げようとした。瞬間、息を吹き返したフリーダム号は、勢いを取り戻して全員を引きずるように街路を駆け抜けた。


「お花畑見えましたわ」


 夜空には、乾いた音が淡々と敵を狙撃していた。翼人の体からあふれた炎が新しい街並みを照らした。筋肉の巨漢がライフルに弾を装填しながら、街路を挟んだ棟を歩いていた。フリーダム号が敵のバリケードを蹴散らした。途中レベッカとミランが呼吸を合わせて離れた。


「ママ、ロイロット発祥の地へ。ね、フリーダム号、怪我は?」

「平気です」

「セラさん、フリーダム号の怪我を何とかしてあげて。このままじゃ死んじゃうわ」


 レメディオスが叫んだ。

 三人は光のトンネルを抜けると、フリーダム号は活力を取り戻した。川をひとっ飛びでロイロットの敷地まで越えた。

 彼はセラに、


「あんさんは凄い人ですわ」


 と褒めた。


「わい、はじめて飛べた日のことを思い出しましたわ。あのときも乗せてた人の力がわいの体を突き抜けてましてん。体の芯をですな……」

「話は後で聞くわ」


 まだフリーダム号の血は、風に煽られてアマランタの頬をかすめた。湿地特有の土と苔の臭いが込み上げてきた。フリーダム号はようやく地面に降りて歩みを緩めた。


「フリーダム号、ありがとう」


 アマランタの腕に抱かれたレメディオスはフリーダム号の首に涙をこぼした。


「お嬢様に会えて光栄ですわ。まだせんといかんことおますのやろ。泣くのは早いです。わいももうひと働きせんと」


 アマランタは敷地に降りた。


「ロイロット伯爵夫人と、まだ舞踏会場近くにおるはずですわ。今のブレンディア伯爵は死神も手下にしてます」


「フリーダム号、やっぱり戻るの?」


 レメディオスは見上げた。


「ロイロット伯爵夫人が土地の管理者ですからな。グロウはんもそこんとこ理解してるんやおまへんか。すぐ連れてきます」

「待って」


 レメディオスは腕を伸ばすと、フリーダム号は彼女に頭を押し付けた。


「カルディ、聞こえてるならフリーダム号を守ってあげて。あなたでしょ?このどこかにいる」


 レメディオスは、アマランタの想像を越えていた。これからレメディオスを都市の礎石にでもしようとしているカルディに頼むなんて、普通ではない。


「あきません。あんさんを守るように頼んでください。もうわいは守られてますねん」


 レメディオスは退くと、


「必ず帰ってきて」

「わいはかわいい女の子を乗せて野駆けするのが夢ですねん。夢のために死にませんわ」


 アマランタを見て土を跳ねて駆け出したかと思うと、姿は一瞬にして小さく消えた。レメディオスは祈りを捧げた。


「ママ、わたしのせいでごめんなさい。嫌なことをしなければならないかも」

「あなたのためなら何でもするわ」

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