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ゼムナ戦記 英雄の条件  作者: 八波草三郎
第六話

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ハユミの焦慮(1)

(タイキ先生はあんな経験をされてたのね)

 デン語が少し話せると言った理由が解った。


 南方の何ヶ国かで使われる、いささかマイナーな言語を修得しているのを不思議に思っていた。言語として学ぶにしても、メジャーなメタリヤ語やホロニア語、ハルメノ語に比べて資料が少ない。そもそもタイキは理系専攻だ。


(それに比べて私にはなにもない。生徒とさえ……)

 環境に差ができている。

(両親とも普通に連絡できてるし、無事にしているんだもの)


 父母は北方大陸(ハヌレシア)の東の国ビフロデアで暮らしている。名門カースコン工専大に研究員として招待された長男と一緒だ。

 ビフロデアの女性と結婚した兄は両親を呼び寄せ同居している。永住する気なのだろう。ハユミも招かれたが、ダジェンの風土が好きなので残ったのだ。


(ダジェンとメタリヤからの話には気を付けるよう伝えたけど……)

 詳しい事情までは話してない。

(連合軍側だったビフロデアも、今はメタリヤとは一線を引いた関係。無理をすれば対立するので心配ないはず)

 単に運の問題だが恵まれているのには変わりない。


 慕われている自覚はある。生徒はなにくれとなく話してくれるし、自分も一人暮らしのことや趣味のことなど普通に話していた。

 しかし、タイキと生徒の親密さ、敬愛と呼べるそれには届かない。彼女は大人として行動し決断する姿を見せられていないから。


(最近だって、こそこそとなにかしているんだけど、教えてもらえてないもの)

 以前のように自由時間に艦内で遊んでいる様子が見られなくなったと気付いていた。


 孤立感ほどではないが寂しいと感じる。頼りない大人と思われているのだろう。相談もしてもらえないのはそういう意味だと解していた。

 自動的に緑の家(リシュ・クル)の責任者といえる艦長席に収まっているのが空しく思えてくる。無力なくせに肩書きだけでそこに祭られている気分。


『接近する機影を確認しました。航空機と思われます』

 システムが警告を発する。

「タイキ先生に連絡して! そ、それとターナ霧(ミスト)を散布!」

『ターナ霧(ミスト)、戦闘濃度で散布します』

「どこの戦闘機かも確認して」


 メタリヤとの大規模戦闘から、地星(キアズ)勢力との戦闘時もターナ霧(ミスト)を散布する方針が決まっていた。大部分の索敵や誘導を電波に依存する戦闘機ではかなりの機能を失わせることができる。


「戦闘機ですか、ハユミ先生?」

 タイキが駆け込んできた。生徒たちも少し遅れて到着。

「まだ解りません。もう少し……」

『該当機名SI6B「シークアイ」と判明』

「知ってるか、クスト?」

 軍事オタクでもある眼鏡少年に訊いている。

「メタリヤの偵察機だよ。見つかったかも」

「でも、ターナ霧(ミスト)を出したから」

「それだったら通信はされてないかも。観測はされてる」


 通報を遅らせる判断ができたようでホッとした。しかし、タイキは考え込んでいる。


「フォルセアが来るな。ターナ分子が検出されてるだろう」

 彼はリュセルに目をやっている。

「近くの町の検出器が発報してるのん。風向きからだいたいの位置はつかまれるのん」

「俺はライバーンで待機します。引き続き監視を」

「タイキ先生、待機中ー」

 タマテが茶化す。


(私ったらまた失敗を。メタリヤを遠ざけるつもりでフォルセアを呼んでしまって)

 泣きたくなってきた。


「どうすれば良かったの……」

 こぼしてしまう。

「おそらく戦闘開始直前までターナ霧(ミスト)は使わないほうがいいと思います。妨害したいのはレーダー照準やミサイル誘導なので」

「そうなのね、ザイハ」

「電波攪乱物質の正確な使用法を把握しているのは一部だけだと思いますよ。コウヤなんかは理解してないでしょう」

 フォローしてくれる。

「オレだって解ってるって!」

「どんな状況ならどうするって鋭敏な判断はできないでしょう? ハユミ先生を責めてはいけません」

「ごめんなさい」


 フォローされるほどにつらくなる。また醜態をさらしてしまった。


「リュセ、システムは判断してくれないの?」

 今一つ自信は持てない。

「システムは人間の指示を実行するだけのものなん」

「せめて推奨してくれるとか」

「戦略的判断は人間がするものなのん。そこまでシステムが代行すると相手に解析されてしまうん」


 条件付けで有利な状況作りができてしまうという。理解できるだけに反論できない。


(重荷だわ。私だってタイキ先生と同じくらい生徒を守りたいのにそれだけの能力がない。一緒にいるだけの存在)

 焦りばかりが募る。


「…………」

「なにかしら、リュセ?」

「なんでもないん」


 意味ありげな視線に尋ねるが答えはない。もしかしたら不要な人間だと思われているのかもしれない。


「ハユミ先生、中継子機(リレーユニット)を上げましょう」

 ザイハが提案してくる。

「谷あいに隠れているので走査範囲が狭くなっています。敵襲の探知が遅れてしまいます」

「そうね。システム、中継子機(リレーユニット)を打ち上げて?」

『中継子機(リレーユニット)を射出しますか?』

 語尾の迷いを捕らえられて再度尋ねられる。

「射出して。早く」

『中継子機(リレーユニット)を射出します』


(システムにまで迷惑をかけているようでは駄目。もっと明確な判断と指示ができるようにならないと)


 焦りで空回りしつつあるのをハユミは気付いていなかった。

次回『ハユミの焦慮(2)』 (情けないにもほどがあるわ)

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― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 子供ならではの順応の高さとの差だな……。
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