ハユミの焦慮(2)
中継子機がメタリヤ戦闘機群の接近を検知する。すでにターナ霧が散布されているので光学確認。数分で到着するというもの。
「了解です。出撃しますんで、フォルセアに動きがあったらすぐに教えてください」
「はい……」
ハユミはもうなにをすればいいのか分からない。ただ、情報をタイキに中継するだけになってしまっている。
ライバーンには超光速受容器という機器が搭載されていて、どんな状況でも会話できるのが救い。そうでなければパニックになっていたかもしれない。
「すぐに来るよ。みんな席に着いて」
エイマが生徒を主導する。
「対空レーザーあるけど、メタリヤはリシュ・クルにも体当たり攻撃しかけてくるかもしんないから衝撃に備えてね」
「はーい」
「リュセ、ビームの水平発射は誤爆の可能性ある?」
きびきびと確認作業を進めている。
「重力干渉はわずかなん。流れ弾が都市に落ちたりはしないのん」
「宇宙に出るんだね」
「その前に大気で拡散減衰してしまうん」
大気圏内では射程は短くなるという説明。それを聞いた彼女はちょっと微笑んだ。
「ハユミ先生、フォルセアのアームドスキンが接近してきたら対空防御をビームに切り替えて。水平以上に限定を指示すれば大丈夫みたい」
段取りを整えてくれる。
「そう……ね」
「システム、引き続き監視。地星の戦闘機は重力場レーダーで検出可能?」
『軽量なのでこの位置では精度が低下します。上昇すれば精度維持は可能です』
「あっちゃあ」
顔をしかめる。
「諦めましょう、エイマ。高度を上げるのは危険なだけです」
「そうだね、ザイハ。じゃ、現状維持で。この高さなら艦底側に飛び込んでくる度胸はないでしょ」
「賢明だと思いますよ」
対応がさくさくと決められていく。この場面でもハユミはシステムへの指示役しかできなさそうだ。
(情けないにもほどがあるわ)
恥じてばかりで女子生徒の知識が妙に深まっているのには気付けない。
『アームドスキンの接近を検知しました』
途端に警告が発せられる。
「やっぱり来た。誰か小さい子のハーネスバーを見てあげて」
「確認済み」
「ありがと。じゃあ、中継子機からの戦闘映像を大パネルでよろしく」
彼女の指示で天井方向に大きなパネルが表示される。ちょうどライバーンが上がっていくところだった。
(私には祈ることしかできないみたいです。ごめんなさい、タイキ先生)
ハユミは唇を噛んだ。
◇ ◇ ◇
(ほぼ同時か。面白くないな)
以前ならメタリヤ航空隊は無視してもよかった。
(特攻はコストパフォーマンスが悪いと判断してくれてたらいいが)
脅威となる攻撃はそれだけ。ミサイル以外の迎撃判断はタイキがするしかない。
(したくはないが撃墜も有りだな)
ベイルアウトを多用する戦法を採るならコクピットを直撃しない限りは脱出するだろう。
(キアズの戦死者は今後に悪影響が大。最悪の選択でもリシュ・クルの安全が第一だ)
異星人以外に戦死者が出た場合、本格的に居場所がなくなる。宇宙に出て、管理局に保護を求めるくらいの覚悟が必要になってくる。
「システム、アームドスキンの数は?」
データリンクで入ってくる。
『五十機規模だと推定されます』
「おーい、大盤振る舞いだな!」
『実数確認は少々お待ちください』
そんな意味ではない。誤差が出たとしても数機ていど。十分参考になる計測値だけに苦言がもれてしまったのだ。
「ほんとなら片付けときたいところ!」
全方位からミサイルが飛んでくる。ライバーンの全身の対物レーザーが走査攻撃をして破壊した。爆炎の真ん中では生きた心地がしないので抜ける。
「聞き分けてくれたか!」
かすめるメタリヤ戦闘機は至近距離で発射したミサイルを産み落としていくだけ。10m以下とかでない限りは自動防御も反応してくれる。
(さすがに体当たりは控えるか。ぽんぽん増援を送れるほどお安い代物でもないしな)
一気組み上げるのにどれくらいの時間が必要かは彼は知らない。しかし、車の生産ラインみたいに次々と完成するものではないくらいの想像はできる。
「馬鹿にするくらいなら、臆病者一人しとめるのに莫大な税金を投下できないと思ってくれよ!」
ただではないミサイルが次々と消費されていく。機銃弾一つとっても、一秒の発射でタイキの一ヶ月分の給料が飛んでいくほどじゃないかと思う。
「戦争とはそういうものではないぞ、タイキ・シビル」
ダジェン語で吠えたつもりだが返事がある。
「未開人の言葉も理解してもらえるのか」
「礼儀だ。お前がそうやって星間公用語を使ってくれるんだからな」
「だったら、いくらでも礼儀は尽くすからお帰り願えないもんかね、デレイフ・クアン!」
皮肉をぶつける。
「残念ながらそれはできない注文だ。本国が許してくれん」
「大変だな、宮仕えは」
「憐れむくらいなら降伏しろ。それで本官の仕事は減るというもの」
いかにもやりにくい。相手は悪人でも戦闘狂でもない。兵士というのも生きにくい商売のようだ。
「それも聞けない相談なんだよ」
「分かってる。せめて禍根のない決着をと願っているんだが、さて、どうなるものやら」
前はアームドスキンが来たら道を譲ったのに、メタリヤ航空隊は攻撃を継続している。どうやら本気で怒らせてしまったらしい。
(威信ってのはそんなに大事な代物なんかね)
タイキには理解に苦しむ問題だった。
次回『ハユミの焦慮(3)』 「涙が出るね!」




