細い糸(2)
状況確認に来たであろうリサ・コントレルは今後どういう立ち位置で動くつもりか計りかねる。敵方になるとは思わないが協議は不可欠だろう。
「ここにはどうやって?」
疑問ではなく方向性を探る質問をタイキはぶつける。
「フォルセアが活動している大陸北方面からの観測を避けるために南方から。降下してからは低高度を隠密航行できました」
「ターナ霧ってやつか。どうしてだ?」
「当面は隠密行動をする予定です。第四惑星の衛星にも欺瞞情報を流しています。我々の存在が発覚すればフォルセアは裏で強引な占領政策に切り替えるかもしれません。それを防ぐためです」
(情勢も理解してくれてるんだな。事前調査も十分にしてきてあるのか)
それなら要らぬ駆け引きは管理局との確執を生むと踏んだ。
「俺も公表する気がない」
本音を語る。
「覚らせればリシュ・クルの拿捕を急ぐ余りに強硬手段に訴えると思ってる。受けきれる底力なんかどこにもない。現状維持で限界だ」
「お察しします」
「こうやって空中停泊していられるのも、大規模攻撃という弾圧を地星の人類に見せたくないからだと思う。事後の報告に穏やかな融和だったと言わせたいがためのな」
リサも「そのとおりでしょう」と同意してくれる。
「まずは生徒の安全確保を優先するために動かなきゃならない」
「生徒?」
「俺は教師なんだよ」
リサの表情が大きく動いた。そういえば話した記憶がない。捜査官たちもギョッとしていた。
「軍人でも治安機関の人間でもないのさ。だから優先事項が違う」
エージェントは視線をさまよわせている。
「協力はしたいししてほしい。だが、同道するのはリスクが大きすぎる」
「そうかもしれません。フォルセアにとってあなた方が最大のターゲットですから」
「だからそっちの都合で動いてくれ。連絡を取り合う程度の関係で」
一拍の間は考えをまとめる時間だろう。
「部長には支援を命じられております。率直に申し上げて、あなたの心証を良くしておきたいのです」
「ぶっちゃけたな」
「あなたと同じですよ」
(完全に内心を読まれた。この美人さんは見た目以上に切れもんだ)
タイキは舌を巻く。
両者ともに好意的な関係を望んでいると分かった。それなら方向性は見えてくる。
「それなら頼み事をしたい」
和らいだ面持ちで提案する。
「どのような?」
「自衛手段くらいは講じて来てるんだろう? どれくらいの戦力がある?」
「当方は二隻、八機のアームドスキンを保有しています。重力波フィンタイプの『コムファンⅡ』を導入してきました」
「八機もか! うらやましいな」
本音がもれまくる。
「ふふふ、多彩な作戦活動も可能ですよ」
「なら安心だ。フェルナンデ・ロンダートという人物がいる。彼と接触して保護、協力してほしい。そこにこの子たちの保護者もいる」
「なるほど」
彼にとって喫緊の課題はそれである。緑の家以上に不安定な環境だと思われる彼らには守護が必要だ。
「さっき言われたとおり、俺たちはマークされている。不用意に接触すれば余計に危険にさらしてしまうだろう」
標的が増えるだけ。
「この船に保護してもいいが、それでも危険はつきまとう。極秘裏に接触できれば自衛武器でも渡せるんだが、なにせこっちからの連絡もままならないほどで、所在も分からない」
「極めて困難なミッションですね」
「君なら可能だろう? そっちを頼みたい」
リサは惚れ惚れとしそうな笑顔を見せる。
「承りました」
「恩に着る。絶対に忘れないから」
「そのお言葉、お忘れなきよう」
取引のような言い方をする。しかし、彼女が同情を向けてきていたのには気付いている。視線がちらちらと生徒のほうへと流れていたからだ。
「一つだけ忠告を」
美人エージェントはくすくすと笑う。
「なんだ?」
「交渉事をするときはアバターを消しておくことをお勧めします。本心がだだ漏れですわよ?」
「げ! 忘れてた!」
タイキは改めて消すが後の祭りだった。
◇ ◇ ◇
「ほんとに子供ばかりだったんだな、リサ」
GSO捜査官は驚きを隠せない。
「冗談ならもっと凝ります」
「まるっきり学校みたいだったぜ」
「お土産にもらった野菜を見てみろよ。自分たちで育ててるって言うんだ。泣けてくる」
一様に同情の色が濃い。
「あんなのをあの男が一人で維持してるっていうのか。ゴート遺跡がバックにいるったって信じられんな」
「それが協定者というものなのでしょう」
「どうにかしてやりたいな」
随伴していたのはパイロット要員。事実を見せた甲斐がある。
「あなた方のバックアップいかんで彼らの状況は改善されるのです」
背中を押す。
「やってやるか」
「この美味そうな野菜に免じてな」
「おう」
気概を見せる彼らをリサは目を細めて見つめた。
◇ ◇ ◇
「めちゃくちゃ美人じゃなかった?」
エイマはリサという名前の外の世界の住人を思い出す。
「タイキ先生、デレデレだったんじゃない?」
「浮気はいけないんだー」
「ハユミ先生が泣いちゃうんだから」
口々にはやし立てる。
「馬鹿言うな。あれは諜報員ってやつだぞ。しかもバリバリの一線級だ」
「手玉に取られちゃうね」
「ボロボロになったところを慰めてあげたらイチコロだよ、ハユミ先生」
ハユミが「もう!」と言って追いかけてきたのでエイマは逃げ出した。
次回『細い糸(3)』 「やりにくくて仕方ないですよ」




