細い糸(1)
「タッチダウンってのは超光速航法で跳んできた航宙船が近くに出現したってことなんだよな?」
「超光速航法からの通常空間復帰なのん。衛星リモニがキャッチしたん。カテゴリⅠだから単艦クラスの質量なん」
緑の家は昨日から警戒態勢を維持している。近傍に時折現れるランナ軍の偵察か、新たなフォルセア艦の出現か。前者なら現状は降下までしてこないので警戒は解けるが、後者だと直接狙われる可能性がある。
「お休みになられてください、タイキ先生。夕べは寝てらっしゃらないんでしょう?」
ハユミが勧めてくる。
「もう少ししたら地星の衛星軌道あたりまで来るんで結果を見てからにします。安心して寝られるんで」
「せめて食事はなさって」
「いただきますとも」
彼女が運んできた食事をありがたくいただく。生徒は今頃カフェテリアで昼食を摂っているだろう。心配させているかもしれない。
「午後は私と上級生何人かで警戒しておきますので」
「お願いします」
「捕らえたのん。でも、遠いん」
望遠パネルが表示される。かなり目の粗い画像で詳しくは分からない。
「解析掛けるのん」
画像がクリアになる。
「小型艇2なん。これだけ離れてると北方大陸には降りないん。きっとランナの偵察隊なん」
「そっちだったか。じゃあ、腹ごしらえしたら休みます」
「ええ、ゆっくり休んでらして」
落ち着いた彼は食事に集中し、ぺろりと平らげる。安心したら眠気も襲ってきたし自室へと向かった。
(ランナは定期的に偵察を送ってくるな。やっぱりキアズが拠点化するのは面白くないと見える)
それが彼らにとっても困った事態を引き起こす。
(いずれ戦力を向かわせてくるか。そのときフォルセアはどういう反応をする? 宇宙に出て迎撃するか? 地上を巻き込んでくれるなよ)
タイキはそれが希望的観測にすぎないと思っているうちに自室に着きベッドに倒れ込んだ。
◇ ◇ ◇
「た、タイキ先生!」
電子音でたたき起こされた。
「早く!」
「敵襲ですか!」
「早く艦橋へ!」
敵襲ならば向かうのは格納庫だ。なのにハユミはブリッジに来いという。まだ働いてくれない頭を叩きながら通路を走った。
「何事です!?」
「タイキ先生ぇ……」
ハユミは半泣きで、生徒も顔色を変えている。
「私では無理ですぅ」
「どういうことで……、げ!」
「あの人が」
リシュ・クルの両舷上方には頭を押さえるように二隻の小型艇が張り付いている。どうにかしようとしたセリナたちはパニックに陥っていたらしい。
「君は確かリサ」
「ええ、リサ・コントレルです。協定者タイキ・シビル」
通信パネルの中の意外な人物に驚き目が冴えた。
「ってことは?」
「ごめんなさいなん。あの二隻は星間保安機構だったん」
「おおぅ、的外れだったのか」
接触してきたのは星間管理局のほうだった。彼にとっても全くの予想外だからリュセルを責められるものではない。
「許可をくださいませんか? 直接お話ししたいので接舷させてください」
「あー、構わない。もてなしは期待しないでほしいが」
パニックになるのも致し方ないだろう。なにしろタイキ以外の誰も星間公用語が話せない。眠っている彼に泣きつくしかない。
一隻が静かに位置を移すとリシュ・クルの舷側に接続する。そこに直接の通路をつなげて乗り移ってくるらしい。案内はリュセルがすると言うので彼はそのまま待つ。
「お招きありがとうございます」
「いや、こちらこそ来てくれて助かる」
リサの耳にはインカム状のものが掛かっていて、そこから小さなパネルにマップ表示がされているようだった。それで招いたと言ったのだろう。
「悪いがしゃべれるのは俺だけだ。そのつもりで頼む」
「承りました。本当にあなたを含めた大人二人と子供しかいらっしゃらないのですわね?」
リサは見回しながら尋ねる。
「見てのとおりさ。この状態で周りは敵だらけ。誰も彼も目くじら立ててこの船とアームドスキンを欲しがってくれる」
「了解いたしました。タランデーヌ部長は最重要案件として打開策を模索しておられます。いかんせん、わたくしどもにもできることが少なくて」
「キサラさんか。あの人の本気が君の派遣ってわけだな。確か情報部員なんだろう?」
彼女は頷き、後ろの三人はGSOの捜査官だと説明する。情報部主導で彼らが随伴してきたらしい。
腰には銃器を下げてものものしい感じだが静かに立っているだけ。紹介されたときに敬礼を送ってきた。
「現在はフォルセア、ランナ両国の動向を調査中です。かなり深層域、軍上層部や政府レベルでの意見交換が確認できました」
情報部というだけあって本分は諜報関係のようだ。
「連中はなんて?」
「やはり偶発的事態のようです。両国とも穏便な収束を求めているのは確かなのですが、露見を怖れているのが現状です」
「バレてんのにな」
リサは失笑する。
「管理局が関与できないというのも薄々は察しているでしょうが、いかにも外聞が悪いのです。なんとか事故を装い、結果として保全惑星を開国に導いたと思わせたいのでしょう」
「落としどころはそこか。それでも戦争はやめないところは意地だよな」
「それとこれとは別の話と主張するでしょうね」
(国益が絡むから退くに退けないんだろうな)
ハユミがドリンクディスペンサーから持ってきてくれたタンブラーを受け取る。リサにも渡された。三人の捜査官にもセリナとエイマが渡してくれている。見せる笑顔が彼らの人間性を表している。
(話をどこに持っていけばいいんだ?)
喉を潤したタイキは方向性を模索した。
次回『細い糸(2)』 「あなたと同じですよ」




