↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゼムナ戦記 英雄の条件  作者: 八波草三郎
第二話

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/305

混迷の兵士たち(3)

 大きく長い息をはいた男が一人。大役を終えて安堵したのは、メタリヤ連邦のロイ・デナルド大統領である。


「首尾よく交渉に持ち込めましたね、デナルド大統領」

 美しい女性秘書官がにっこりと微笑む。

「当然だ。やってみせねばこの地位になど居られん」

「さすがです。このあとはどのように?」

「無論譲歩を引き出す。できるだけ政治権力を奪われんようにな」

 それを第一に考えている。

「我らが強大なるメタリヤ軍の力を背景にですね」

「それはない。ダジェンの戦闘映像を見なかったのか? あれは地星(キアズ)の技術水準でどうこうできる兵器ではない」

「それでは降伏なさるので?」

 顔を曇らせている。


 秘書官のメイベル・レッケンは覇権国家メタリヤの威光を疑ってもいなかったのだろう。しかしロイは違う。現実の格差を見抜いていた。


「降伏はせん。協力を申し出るのだ」

 教え諭す。

「協力?」

「これは異星人の侵略ではない。あちらにも敵がいる。彼らにとっても不測の事態なのだ」

「そうなのですね」

 洞察力に感動しているようだ。

「一気に攻撃してこないのは現状を悪化させたくないと意図しているからだな。ならば受け入れる場所になってやるのが、あのフォルセア軍とやらの利になる」

「すばらしい洞察力です」

「そのうえでメタリヤと共同戦線を張る利点を説き、拠点として使わせてやるのが最善である」


 メイベルは瞠目する。彼の考えに感服しているらしい。


「そうすれば我がメタリヤの覇権は不動のものに」

 うっとりとした口調で謡う。

「それでは足りん。あの巨大な人型ロボットや使用している兵器の技術を盗み取る。それらを我がものにしたときこそメタリヤの覇権は永遠になるであろう」

「ああ、デナルド大統領のもとでこそメタリヤの栄光がありますのね」

「見せてやろう、本物の栄光というものを」


 ロイはにやりと笑って秘書官の腰を抱いた。


   ◇      ◇      ◇


 朝起きると、両親がいない不安に駆られたネリネとニッケが泣き出す。エイマはセリナと二人を宥めなくてはならなかった。


(これねぇ)

 彼女はちょっと楽しくなっている。


 和んだ面持ちになっているセリナと視線を交わすとくすりと笑う。母親の真似事をするのがごっこ遊びのようで面白くなっていた。


 顔を洗ってから通路を歩いているとネリネがクストを見つけて駆け寄っていく。花開いたような笑顔はやはり兄のほうがいいのかと思わせて鼻白んでしまう。

 それを見たニッケがまた泣きそうになったので、ぎゅっと手をつないだ。見上げた彼女はエイマと視線を合わせて笑みを交わす。


(あ!)

 フユキがやってくるのに気付いた。


 パッと華やいだ表情がすぐに曇る。視線は彼女がニッケとつないだ手に向いている。


(この表情、知ってる)

 身近なもの。


 弟がまだ幼かったころ、母親は掛かりきりになってしまいエイマを構う余裕がなかった。楽しそうなフユキが母とつないでいる手がうらやましくて仕方がない。わずかに恨めしくなったのを憶えている。


「フユキ」

 しゃがんで空いているほうの腕を開いて招く。


 嬉しそうに笑った弟と手をつなぐ。彼がササラとの手を離さなかったのも嬉しい。男としての成長を感じられた。


 皆で農業プラントに行く。今朝から野菜のお世話の始まりだ。すでに何人かは集まっており、タイキ先生やハユミ先生もそろっていた。


「種蒔きしていいの?」

 ニッケが期待に満ちた顔で言う。

「ああ、ここに蒔くんだ。できるだけ同じ間隔だといいな」

「はーい!」


 種を渡されたネリネたちが箱に群がる。中に入っているのは灰色の粉のようなものである。


「土じゃないの、先生?」

 疑問に感じる。

「水耕用の浸透パウダーらしいんだ。土にも触らせてやりたいが、病気とかそういう厄介事が防げるとなると俺も反対できなくてな」

「たしかに素人には厳しいかも」

「まずは育てる楽しさと達成感を味わってもらう。他はそれからだな」


(タイキ先生は本当にあたしたちのこと考えてくれてる)

 胸がキュンとする。


「まだ芽は出ないの?」

 小さい子は瞳を輝かせている。

「ゲームみたいにすぐにはな。でも、明日の朝には早いものは芽を出すぞ」

「楽しみー」

「数日くらいで目は出そろうみたいだ。一週間くらいしたら、葉野菜と果実野菜はあっちのぐねぐねしたパイプのほうに植え替えるからな」

 種を植えている箱はプラントの一角にすぎない。

「わーい!」

「根菜はこのままここで育てる。美味しいぞ?」


 下級生たちのテンションは最高潮。土代わりの浸透パウダーの表面をつついては「早く芽が出ろー」と騒いでいる。


「本当はこんなの役に立たないのが一番なんだがな」

 タイキがポロリとこぼす。


(思ってるより情勢は悪いんだ)

 改めて先生の苦労を知る。


 エイマは、彼らのために頑張っているタイキたちを助けなければと思った。


   ◇      ◇      ◇


「それで、なんと言ってきているのです?」

 眉根に皺を刻んで尋ねる。


 ダジェンの総理大臣たる彼女エスワ・アデデが直接対応せねばならない案件である。異星人襲来の被災状況や被災者の救援に忙しい身では避けたいものだがそうもいかない。


「デナルド大統領が異星人との交渉の席で要求されたそうです。ダジェンの新兵器を差し出せと」

 補佐官が言い募る。

「我が国の立場ではどうしようもしがたいので総理のご判断を」

「新兵器? そんなものが存在するの?」

「あの緑色の空中戦艦だと思われます」


 彼女も確認はしていた。しかし異星人の一派だと思っていたのだ。


「探させなさい、早急に」


 切迫した状況にエスワは強い口調で命じた。

次回『孤立するリシュ・クル(1)』 「こ、困っちゃうことになるかも」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 更新有り難う御座います。 ……そう言えば、この宙域(二国間)では”ゼムナ”案件は どの程度知られて?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。