孤立するリシュ・クル(1)
リュセルの着ているラバースーツのようなツナギは宇宙服らしい。タイキのイメージだと宇宙服というのは極めて多機能を有していなければならず、そんな薄さにはならないはず。
(気密に体温維持、それだけでもかなりの厚さが必要。さらに空気循環に通信とか防曝まで入れると重くて動きを阻害するほどになってしまう)
それなのに渡された『フィットスキン』という名のスーツは厚さが4mmだというから困惑する。触り心地もふにゃふにゃで動きを妨げるようなものではない。
「着てみるのん。できるだけサイズがぴったりのほうが理想なのん」
促してくるが、微妙な顔なのは女性陣。
「これ……、マズくない?」
「こ、困っちゃうことになるかも」
「ひゃー、際どーい」
身体のラインがもろに出てしまうこと請け合い。男子用のものは股間に小用も足せるカップがあるので中身の形が露わになることはない。女子用のものは、股間のカップの他に胸周りに耐衝撃パッドが入っている。膨らみは強調されるが形は双丘をまとめて包み込む構造になっていてバストラインまでは露わにならない。
「着ないと駄目?」
そこがすごいサイズになっているハユミが羞恥に頬を染めている。
「防弾、防刃、耐衝撃に防曝と体温コントロール機能まであるのん。なにが不満なのん?」
「でも、ちょっと恥ずかしくって」
「これからどんな状況になるか分からないのん。最低でも耐衝撃性は必須なのん」
咎めるように言われる。
「そ、そう?」
「すぐに慣れるのん。気持ちよくなるのん」
「いらんこと言うな」
彼女の頭頂を拳骨でぐりぐりした。
女子は別室に行って着替える。男子はそのままの部屋で着替えはじめるが、ツナギ状の衣服を着ることはなかったので皆が試行錯誤していた。
手足を通して羽織ると前のジップをスライダーで留める構造になっている。ひとつまみほどの小さなスライダーだが、スイッチを押し込むと自動で上に滑っていった。
「こりゃ早い」
慣れれば脱ぎ着は楽そうだ。
「うえー。もうちょっと鍛えようかな。これは違う意味で恥ずかしいぜ」
「僕たちの年だとこんなものじゃないですか?」
コウヤがタイキの胸筋の隆起を見て顔をしかめる。ザイハはあまり気にしてない様子。シュカとクストは機能確認に夢中だ。
手間取っているフユキを手伝って着せてやる。スライダーが首元まで上がるとにっこりと笑って礼を言ってきた。
「まだそんなに鍛えないほうがいいぞ。筋肉が堅くなってしまうからな」
経験者として指導する。
「トレーニング法は教えてやるから」
「頼むよ、タイキ先生。組術も護身用に教えてくれる約束、忘れてないよな?」
「分かってる」
脇腹を引っ張られる。
「フユキもか? たしかに少し線が細いな。もうちょっと運動するか」
「みんなで先生に教えを請おうぜ」
そんな話をしていると女子が戻ってくる。ササラやネリネ、ニッケといった小さい子たちは気にせず自慢げに見せびらかしにきた。しかし、思春期女子はそうもいかない。
「あははー、こんな感じ」
「いけてるいけてる」
十歳ともなると胸が膨らみかけているのか、アスホのものにはパッドが入っている。覚悟を決めたように張り出した胸元を強調しつつ自慢した。
十二歳のタマテもそう変わらないくらいでちょっと頬を赤らめている。自分のを誤魔化すようにアスホのフォローをしていた。
「よし、度胸!」
「そうもいかないよぅ」
十四歳のエイマともなると女性っぽい身体になっている。はにかみながらやってきた。
困っているのは、同い年ながら発育のいいセリナ。目立つ胸元を一生懸命隠しながらもじもじとしている。
「どう、先生?」
腹を据えたらしいエイマが彼の前に立つ。
「ああ、似合ってる。可愛いぞ」
「やったぁ!」
「セリナは綺麗だな。男子たちが見とれてる」
こっちのケアが大事そうだ。
「そんな……」
「あ、うん、びっくりした」
「ほんと綺麗ですよ」
目顔で促すとコウヤとザイハが褒める。ここは褒め殺すくらいの勢いでいかないと、本人が気にして引きずってしまいそうだ。
「あ、押さないで」
「こんなんで恥ずかしがってたらキリがないのん」
リュセルに押されながらハユミが入ってくる。そのインパクトに男子は皆絶句した。彼女の胸元はすごいことになっている。思春期男子には刺激が強すぎる。
「あー、なんだ……」
タイキでさえ言葉に詰まった。
「とても美しいですよ、ハユミ先生。なんて言ったらいいのか……、女性美っていうのを実感させられています」
「お世辞なんて……」
「ほんと! すっごい綺麗! あたしもこんなふうになりたい!」
エイマが乗っかってきた。
「うん、憧れちゃうね。腰なんてきゅっとくびれてて」
「でしょー。いいなぁ」
男子生徒が言葉を失っている分、女子生徒がハユミにたかって褒めそやす。これなら心配はなさそうだ。
「だが、これでずっと過ごすのは少々問題だな、リュセ」
「分かってるのん」
ブルゾンを取り出す。
「普段はこれを羽織ってたらいいのん」
「そんな物があるなら早く言って!」
「物事には順序があるのん」
悲鳴じみた非難を浴びせるハユミにリュセルは素知らぬ顔で答える。そこに含まれる悪戯心は、彼女がとても人工知性だと思わせない。
(完全にペースを奪われてるな。主従関係とかを求められてるんじゃなさそうだ。リュセは俺になにをさせたいんだ?)
いまだにしっくりする答えを得られていない。
「そのままで艦橋に行くのん。接近中なのん」
「ロボ……、アームドスキンか?」
「潜水艦? なのん」
ゆっくりと考える時間をタイキに与えてくれないようだった。
次回『孤立するリシュ・クル(2)』 「あまり刺激しないほうが」




