1-1 魔王、冒険者になります。
「それで、何をすればいいんだ?」
『そうだね…まずは人間社会に溶け込んでみるのがいいんじゃないかな。
いずれ敵対するにしろ、それ以外の道を模索するにしろ、君はこの世界の人間を知ることから始めるべきだと思うよ』
小声で呟いた言葉に、頭の中に直接響く声が返ってくる。
以前なら頭の病気を疑っていたこんな状況にも慣れてしまった。
「…確かにな、街の場所も見当は付いてる。
そろそろ野宿にも飽きてきたとこだ」
『まぁ、あくまで私は助言しかしないよ。
決めるのは君だ。
魔王として、君が選ぶんだ』
この偉そうな声の正体は、神様、らしい。
元いた世界の、ではなくこの世界の神。
本人曰く、魔を司っているらしい。
だが魔に属していながら信仰するだけの知性を持っている存在が、俺しかいないがゆえにその力を振るうことが出来ないらしい。
特別な能力も発揮できず、他の誰かや何かに干渉することもできず、その姿を認識することは俺にも出来ない。
世界を俯瞰しうる者として、知識を教える程度しか出来ることがない、それがこの魔神を名乗る声の正体だ。
とはいえ文字通り右も左も分からない、異世界に突然飛ばされ、あまつさえ人類の天敵たる魔物を統べる者にされてしまった俺からすれば、そんなのでも生命線だ。
今のところ敵しかいない、唯一の味方…のはずだ。
『…見えてきたね。
あれが人間の生活圏。
地理的には…ウルカという街だね』
ーーー
ウルカという街は、冒険者発祥の地とされている。
冒険者とは、この世界における魔物の討伐を主たる目的としている傭兵のことだ。
冒険者ギルドという組合に加入することで誰でも冒険者になることが出来る上、その行動は基本的に国家の制限を受け付けない。
地球では…そうだな、国連に近い立ち位置だろうか。
ニュースや教科書でしか知らない国際連合に比べれば、冒険者ギルドは武力に大きく偏っているとはいえ、超国家的組織として人々の生活を守るという理念は近いはずだ。
そんな冒険者ギルドがこの世界で初めて生まれたのが、このウルカという街だそうだ。
リヴォフ帝国とクライン皇国の双方から見て外縁都市、それぞれの国家が維持できる安全生活圏の外側に位置しているにも関わらず、ウルカという都市が発展しているのはひとえに初代冒険者ギルドが存在しているがためらしい。
あらゆる国家から独立した状態にも関わらず、あらゆる干渉を受け付けていないのは、ただ単に魔物を含むあらゆるものを跳ね除けるだけの武力を有しているから。
そんな、魔物からすれば最も危険な都市に入った理由とは。
ーーー
「すみません。
冒険者として登録したいのですが」
冒険者として生きていくためだ。
『冒険者という身分はあらゆる国から独立したものだよ。
君がこれからどう生きていくにせよ、邪魔にはならないはずだよ』
とは自称魔神の言葉だ。
「はい。
登録は初期登録でしょうか、再登録でしょうか」
ウルカの冒険者ギルドは見た目はかなり質素に見える。
かなり大きな建物だが装飾等はあまり見らないにも関わらず、木造の大きな館が年月を経た姿というのは何処か威厳のようなものを感じる。
まるで修学旅行で訪れた歴史ある神社を見ている気分になる。
そんな建物の中央で待っている受付嬢は、お約束のように美人なお姉さんだ。
…その胸元に目線を奪われていたら、自称神の声に大声を出されて挙動不審になった。
納得できない。
「新規登録でお願いします」
「承りました。
ではこれより新規登録の手続きをさせていただきます」
冒険者ギルドに登録する、それはかなり簡単の手続きを経ることになる。
名前や出身、性別等の基本的な情報の開示はもちろんなのだが、これらは申告のみで詐称すら可能となっている。
しかし厳格な数値化によって登録されるものが2つある
まずは能力の測定、これは身体が保有している魔力というエネルギーを測定することで行われる。
この測定によって冒険者として登録された際の強さの目安、ランクが左右される。
ちなみに新人として登録した者のほとんどが最低ランクであるEランクからスタートすることになる。
これは魔力を保有するためとメカニズムに関係しているが、今はあまり関係ない。
もう一つがクラスの測定。
クラスとはその者が持つ魔力の傾向、具体的には性格や思考が反映されたもの。
平たく言えばどういったポジションが適しているかを表したものとなる。
さて、そんな俺のレベルとクラスは…
『レベルはそのまま、私の魔力量を参照させる。
クラスについては、私の方でちょっと細工させてもらうね』
という言葉が聞こえた後、
「こちらがイツキ様の現在のレベルとクラスとなります。
ご確認下さい」




