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乙女ゲームで存在しない悪役令嬢の双子の兄に転生してしまった【第五章◇進行中】  作者: かみながあき
第五章◇中等部二年生編(後期)

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【Living Day 1 】きみからわたしへ ーSIDE Darylー

何が何だか、全然理解が追いつかないよ……

 

 

 橙と青が交差する、黄昏時。

 

 ここは、アシェルくんが『精神世界(イデアフィールド)』と呼んでいる、ふしぎな場所で。

 そんな世界にわたしとアシェルくんの二人だけがポツンと存在していた。

 

「ダリルさん、どうします? 多分もう、一人でも来られるようになりましたよね。……帰ります?」

 

 辿り着いて早々に、アシェルくんがわたしを気遣うように、そんなことを言う。

 好奇心旺盛な彼なら、きっと色々と探索してみたいはずなのに。

 

「ん……せっかくだから、もう少し見て回ろう? アシェルくんのイデアだって、たくさん見せてもらったんだし……」

 

 わたしはちっとも恥ずかしくなんてないと思うのに、アシェルくんは『彼の心を映した世界(あのお花畑)』が恥ずかしかったみたいで。

 だけど、そんな恥を忍んでまで、何度もわたしをそこへ招いてくれた。

 

 そんなアシェルくんの優しさに応えたくて、わたしは何があるかわからない恐怖を飲み込んで、彼の滞在を望んだ。

 

「ねぇアシェルくん。ぱっと見渡して、どこか見てみたいところはある?」

 

 わたしが尋ねると、彼は顎に手を添えて、すこしだけ考え込んでからこう答えた。


「……そうですね。実は、ちょっと気になる場所があって。向こうのほうなんですけど……行ってみてもいいですか?」

 

「向こう? なにも、ないよ……?」

 

 アシェルくんが指差した方向は、ただただ空と地面が続いているだけだった。

 わたしはてっきり、目の前に見える建物のほうを気にすると思っていたから、少し意外に感じた。


「えっと……壁にも違いがあるのか、見比べてみたくて」


「え、壁……?」


 そんなところが気になるなんて、やっぱりアシェルくんって、ちょっと変わってる。

 でも、そういうところもアシェルくんらしくて……見た目が変わっても可愛いと思ってしまうところなのかもしれない。

 

「ちょっと、走って見てきてもいいですか? 遠目から見たところあんまり変わらなそうだし、多分すぐに戻ってきますんで」

 

「それは……別にいいけど、どうして走っていくの?」


「いやぁ……ダリルさんは興味ないかもしれないし…………あっ!? 一人で歩き回るなんてよくないですね!? すっ、すみません!」


「ふふっ、いいよ。いっておいで」

 

 とつぜん何かに気が付いたみたいに慌て始めるアシェルくんがおかしくて、笑いがこぼれてしまう。

 わたしが笑ってしまったのが恥ずかしかったのか、アシェルくんの顔がみるみる赤く染まっていく。

 

「じゃ、じゃあ! お言葉に甘えて……ちょっと行ってきますっ……」

 

 そう言い残して走り去っていく背中をぼんやりと見送っていたら。

 

 

「……ねぇ。あっち、行かせてよかったの?」

 

「っ!? だっ、誰っ……!?」


 わたしたち以外に誰も存在しないはずの場所で突然声をかけられて、心臓が痛いほどに強く跳ね上がった。


「……だれって、ボクはボクだよ……」


「…………うそ…………そんな、ことって……」


 振り返った先には、まだ幼かった頃のわたし――

 違う。そうじゃなくて……前世の記憶が混ざる前の、"七歳のままのボク(もうひとりのわたし)"が、こちらを見上げていた。


「ま、まって……あの時わたし、"混ざった"んだと思ってたけど…………違うの? きみはずっと、ここにいたの……?」


「混ざってるよ、きみには。……だけど、ボクはずっとここにいた」


 混ざってるのに、ここにいる……?

 "ボク"の言っていることの意味が、わからない。

 

「……どういうこと? ねえ、きみはっ……わたしと一つになることは、出来ないの?」


「…………しらないし、いらない。外になんて出たくないよ……」


「っ……ひとりでここにいて、さみしくないの……?」

 

 あの時、母に捨てられたという、深い深い傷を心に負ったままの、小さな子供が。

 それがたとえ自分自身だったとしても、あまりにも痛々しくて……ついそんな言葉をかけてしまった。

 

「しらない……。それよりも、あっち。金色がもれてるとこだよ」


「……え…………?」


 ――どくん、どくん、と。

 気付きたくない。認めたくないのに。

 激しくなる鼓動は、その言葉の意味を正しく理解しているようだった。


「知られたくないんでしょ? アシェルに、いちばん」


「ぁ、あ……あぁぁあっ! いや、だ……そんなのっ、ウソだ! 嘘だって言ってよ……!」

 

 全身から血の気が引いていく。

 何もかもが震えて、立っていられなくなりそうな中。

 わたしは考えるより先に、罪もない子供に叫び散らしていた……。

 でも、そんなことに気が付く余裕なんて、どこにもなくて。


「…………叫んでるヒマがあるなら、今からでも追いかければ?」


「っ、そう……だよ。まって、待ってよアシェルくんっ……!」

 

 "ボク"の言葉に、わたしは弾かれたようにその場から駆け出した。

 震える足で、もつれながら、必死に彼が向かった先へと急ぐ。

 

(……嫌だ。こわい。無理。知られたくない。知られて嫌われたくない。魅了で彼を壊したくない……! アシェルくんを…………失いたくないっ…………!)

 

「……はっ……はっ……はぁっ……はぁっ……」

 

 息も絶え絶えで走り続けて、溜まった涙でぼやけた視界に、ぼんやりとアシェルくんの後ろ姿らしきものが映る。

 手の甲で涙を拭ってその姿をちゃんと目に映すと、彼は壁に触れていた手を離して、わたしの方を振り返った。


「あれっ、ダリルさん!? ど、どうしたんですか、そんなに急いで……」


「……ア……っ、ゲホッ…………はぁっ、アシェ、アシェルくんっ……いまっ……はぁっ、なにして……」


「え? いま、えっ? いやそんなことより! だっ、大丈夫ですかダリルさん! ちょっと、おち、落ち着いてください……!」

 

 落ち着いてと言う彼も全然落ち着いていなくて、だけど、そっと背中を撫でて宥めてくれる……。

 しばらくの間、わたしの呼吸が正常になるまで、アシェルくんはずっとおろおろしながら優しく気遣ってくれた。

 

「ご、ごめん……もう大丈夫だから。ありがとう……」

 

「……ほんとにどうしたんですか?」


 もうわたしとほとんど変わらないほど大きくなったのに、シュンとした子犬みたいに見えるアシェルくんが、じっとわたしの顔をみつめる。


「えっと、ね……。さっき、壁に触って、なにしてたの?」


「えっ、あ。さっきの……ですか? なんか、壁に亀裂が入って魔力が漏れてたみたいなんで、塞いでました」

 

「ふさいで……た、って……? え、なに……」

 

 あの子が言ってた。

 ここから金色(魅了)が漏れているって。

 だから、アシェルくんが"塞いだ"という亀裂は、つまり……。


「ええとですね……うーん。まず、先に僕のイデアにあった『回路奇形の治療痕』の話からする必要があるかもですね……」


「ちりょう、あと……?」

 

 

 何も理解が追いつかないわたしに、アシェルくんはひとつずつ、丁寧にかみ砕いて教えてくれた。

 彼のイデアの外壁に、"クリスタの聖魔石"での治療による痕跡が見られたこと。

 隙間を埋めるパテみたいな……壁をつなぎ合わせている聖女の魔力に、直接触れたこと。

 

 わたしが見た、花の色が一斉に変化したあの現象は。

 おそらく『アシェルくん自身の魔力』が、聖属性の強さを増したことの現れのようで。

 そんなことを知らないわたしは、あのとき、ただ"綺麗"だなんて喜んでいた。


 そして。

 "ここ"に来て、どうして突然壁なんて見に行こうとしたのかも、教えてくれた。

 

「……なんだか、魔力の流れが乱れているというか……不自然に吸い寄せられてるみたいな感じがして、気になっちゃって……」


 その言葉に、わたしは小さくはない衝撃を受けた。

 彼は、何かがおかしいと気づいた上で、壁を確認しに行ったんだ……。

 

「どうして……初めから、その話をしてくれなかったの……?」


 つい、責めるみたいな言い方をしてしまって、言ったそばから後悔する。

 こんなことを言いたいわけじゃなかったのに……。


「気のせいだったら、変に不安にさせちゃうだけかと思って……。勝手なことしてごめ――」

「あっ、謝らないで……!」


 案の定、謝罪の言葉を口にしようとするアシェルくんを、わたしは慌てて止めた。

 

「え、ダリルさん……?」


 情熱()冷静()が混ざったアメジストをまあるく見開いて。

 彼はぽかんとした顔でわたしを見つめた。

 

「おねがい、謝らないで。今のはわたしの言い方が悪かっただけ……。アシェルくんは、なにも悪くないよ……」

 

「…………ダリルさん……。僕、病気だったんです。それも、生きているのが奇跡だっていうくらいの難病ですよ」


「え? …………う、うん……。そう、だね……?」

 

 不意に顔つきが変わった彼が、一体何が言いたいのかわたしには分からなかった。

 回路奇形のことは、わたしが一番よく知っている……。

 それこそ、痛いほどに――


「それを治してくれたのが、ダリルさんと、クリスタ嬢なんです。治療痕を見て、改めてそのことを深く思い出しました」

 

「……うん……」


 ねぇ、アシェルくん。

 治したのは、わたしよりクリスタの力だし、その病を生み出したのは、わたしなんだよ?

 

「ダリルさんのイデアの外壁にもひび割れがあって、そこから魔力が漏れてました。だから、僕は……あなたが僕にしてくれたのと同じように、ただそれを治しました」

 

「え? うん……そう、なの? …………あれ……?」


 なんとなく理屈がわかるような、わからないような。

 混乱しているわたしに、なおもアシェルくんは言葉を続けた。

 

「ダリルさんが、最初に僕の"壊れた器"を直してくれたから。今度は僕が、ダリルさんの"割れた器"を直しました。それだけなので…………ダリルさんも謝るなって言ったし、やっぱり僕は謝らないことにします」

 

 なんだかもう、訳がわからなくてめちゃくちゃで。

 

 また彼の前で子供みたいに泣いてしまったけど……。

 そのあとのことは、ほとんど覚えていない。

 

 気が付けば、また夜で。

 わたしはひとり、暗い研究室で、眼鏡を胸に抱きしめていた。

 

 

 

ここまで読んでいただきありがとうございます。

(感情が先走りすぎて、分かりにくいところがあったらすみません……)

よければまたアシェルに会いに来てくださいね!

 

☆期間限定 夏休みイベント☆

 週3回(火・木・土 20:00)更新中です!

__

*おまけ

キャラ紹介部屋の

[6-2:おまけ(妄想アルバム 2 )]に、

ボクくんのお写真が飾られています。

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