十五話◆想定外の困惑
また口が滑った……!?
その後、僕とダリルさんは、ふたりで青い人工魔石の解析に取り組んだ。
必要そうな器具や機材は301に持ち込んでいたので、それを取りに行く間だけ待っていてもらった。
「え? ……別に、わざわざこっちまで運ばなくても、301号室でやればいいんじゃないのかな?」
不思議そうにしているダリルさんには悪いけど、僕には"あのやらかし"の後で、あの部屋で彼と二人きりになって平然としていられる気がしなかった……。
(……思い出したら申し訳なさで破裂しそう)
もう"罪悪感で潰れそう"、と言うほどではなかったけど。
勝手に気まずくなるのは、もうやめにしたいから。
僕は小さく息を吐いて、研究に必要のないマイナス思考を追い払った。
「っ、えぇと。クロードの魔石のときは、これで属性を検出したんです。まさかあんなに簡単に言い当てられちゃうなんて……ほんと、衝撃でした……」
机の上に並べた機材の中から、一つを指し示して言う。
ダリルさんは、僕が伝えた魔道具を手に取って。
控えめに笑った。
「そうだねぇ。直感型の子って、わりとそういうこと、するよね? ……アシェルくんはちょっと悔しかったかもしれないけど、そういう友達って、かなり貴重な存在だと思うよ」
「……はは、違いないですね」
そんな会話を挟みながら。
複雑な青色をした魔力の結晶の調査を進めた。
◇ ◇ ◇
「……これは、予想通りというか、予想外というか……」
「アシェルくん……この聖属性って、きみ……元からこんなに適性が高かったの?」
弾き出された数値を見ながら、僕らは納得と困惑と、どちらに振り切れればいいのか分からなくなっていた。
結果はこうだった。
濃い青は、やっぱり高濃度の水属性で。
水色は風属性。ここまではいい。
薄く混じった金色は、案の定"聖属性"だったんだけど。
見た目よりも濃度が高くて、これにはちょっと面食らってしまった。
「いえ……そうでもないとは思うんですけどね? そもそも聖属性自体が、回路奇形の完治の後に、副産物的に生えてきたというか……」
「えっ? うそ……属性が、後天的に……?」
うん、そうなるよね……。
僕自身でも理解しきれてない現象だったし、理論的にも……。
あらゆる文献のどこを探しても、正当性が見つけられないから、考えるのを放棄していたんだ。
「まあ……深く考えるのは、一旦やめにして。続き、しませんか?」
「う、うん……」
これは調査を進めるための、戦略的撤退なので。
と、自分を納得させながら、引き続き魔石について調べていく。
追加で分かったなかで、かなり重要そうなことといえば。
僕自身が明確な意思を持って、そこから魔力を補給したり、そのまま"外付けHDD"のように直接魔力を使用することには、どうやら特に難しい手順は要らなそうなこと。
それだったら、ダリルさんもそこから魔力を使えるのか?というと。
パスワード制限のように遮断されて、特定の魔力操作をしないと、内包された魔力にアクセスできないようだった。
あとは、一度結晶化して安定してしまった人工魔石には、『上限までなら』そのまま魔力を注入することも出来た。
これらは全て、クロードの魔石を調べるだけじゃ分からないことだった。
「アシェルくん…………こんなこと、一人でするつもりだったの……?」
危険を伴うような実験検証に……。
ダリルさんの責めるような視線が痛い。
「いやぁ……ひとり? でも、ないかな? とは思うんですけど……」
「…………そうなの?」
たぶんJあたりが、また張り付いて監視してくれただろうなとは思うけど……言えない。
ダリルさんはほんのりジト目で、不信感を露わにしながらも、なんとかお怒りを収めてくれた。
いい加減、本当にカメラの魔道具が欲しかった。
「はい。まるで影みたいに、裏から支えてくれるっていうか……度を越したら、きっと物理的な制裁とともに止めてくれると思うんで、心配いらないですよ」
写真に残せないぶん、レアな表情を焼き付けておこうと思ったら。
なんだか余計なことまで話しちゃった気がするけど。
「……っ、そう……なんだ。だったら、確かに安心していいのかもしれないね」
ダリルさんは少し目を見張ったあと、なんとなく嬉しそうに微笑んだ。
さっきなにを口走ったのか、記憶に残ってないけど、変なこと言ってないならまあいいや。
「……それじゃ。魔石の解析も一区切りついたことですし、イデアへの入門講義でも始めましょうか」
「ふふっ、お手柔らかにね? アシェル先生」
少し先輩風を吹かせて言ってみたけど、ダリルさんも楽しそうに乗ってきてくれる。
想定していた返答よりも破壊力が桁違いなんだけど、今は撃墜されている場合じゃなかった。
「……ンンッ! …………では、まずは基本の姿勢から。これは多分、どんなでもいいとは思うんですけど、僕は瞑想するみたいな"胡座"の体勢が一番潜りやすいです」
「ふぅん……坐禅、みたいな感じ、なのかな……」
小声で何やら考え込むダリルさん。
確かに坐禅って言葉が、一番しっくりくるかもな。
……あれ? 坐禅?
「ねぇ。その次は、どんな感じなの?」
「え? ……あっ、はいっ、次。次ですね……!?」
真剣な眼差しで、じっと僕を見つめる蜂蜜色に、頬が熱を帯びていく。
それに気づかないふりをしながら、必死で頭と口を動かした。
「魔力循環の時みたいに、目を閉じて、まずは流れを意識するんです。それから……源流を辿るようにして、意識を『奥へ、奥へ』と潜らせていく感じなんですよね……分かりにくいかなぁ」
「……ん。その感覚、たぶん分かると思う。続けて」
「なら良かった。そのあとは、もう浮遊してるような感覚のまま、扉の先に行くだけなんですけど……。うーん……扉というよりは"門"の方が近いのかな……」
「門? 知覚的な境界がある感じなの?」
ダリルさんの指摘にハッとする。
そう。僕が伝えたかったのはそれなんだ。
「それですよ、ダリルさんっ! すごいなぁ。まだ実際に見たこともないのに、僕の拙い説明でそこまで推察出来ちゃうなんて……!」
やっぱり、ダリルさんは凄い。
知的で、思慮深くて、女神。
「全然、拙くなんてなかったよ。すごく分かりやすかった。ありがとう、アシェルくん」
「えへへ。お役に立てたなら光栄です」
アリシアに見られたら、また怒られそうな顔をしているかもしれないけど。
こんなのもう、不可抗力なんだから許してほしい。
◇ ◇ ◇
そのあと。
ダリルさんは、ひたすら『イメージとの戦い』を続けていたんだけど……。
「……やっぱり、ダメ…………。門の先には、行けないや……」
かなり落ち込んだ様子のダリルさんに、胸が痛む。
(なんでだろう…………そこまで行けるなら、あとはもう"入る"だけなのに……)
「……ごめんね、アシェルくん。せっかく教えてくれたのに、全然だめで……。それにずっと付き合わせちゃって……」
「っ、そこは気にしないでください。僕が好きであなたの傍にいるだけなので。もしかしたら、僕が何か見落としてるのかもしれませんし、ご自分を責めるのはやめてください……」
しょんぼりと沈み込む、ダリルさんの痛々しい姿を見ていられなくて。
僕は、咄嗟の思いつきでとんでもないことを口走った。
「ねえダリルさん! もうすぐ夏季休暇ですし、そこで『イデア攻略合宿』しませんか?」
「え……? 合宿?…………わたしはありがたいけど……アシェルくん、今年も研究棟に泊まり込むなんて……おうちの人は大丈夫?」
えっ?
えっ、ええっ……!?
「あれ……? いま僕、なんて言いました……?」
「え?」
なぜか発言者であるはずの僕まで驚いて、しばらくふたりでポカンとしていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
(無意識の顕在化がどうとかむずかしいはなしのはずが……アシェルくんだと通常運転ですね)
よければまたアシェルに会いに来てくださいね!
☆期間限定 夏休みイベント☆
週3回(火・木・土 20:00)更新中です!




